第19話 俺の目の前にいる子が、俺に対して
「まあ、そうね……そんなに迷惑なんて、ね」
休日のアーケード街。
その入り口に、三人はいた。
二人の間には秘密はあるが、ありがたい事に彼女は黙認してくれるらしい。
「では、問題はないみたいですね。これからよろしくお願いしますね! 花那さん」
妹のりんは丁寧に頭を軽く下げ、花那へ愛想よく笑みを返していた。
「そ、そんなこと言わなくてもいいよ」
「でも」
妹はまだしゃべり足りないようで、不満そうに頬を膨らましている。
「俺は学校でもちゃんとやってるからさ。そういう事でいいだろ」
紳人は、妹が次の発言する前に片手で軽く口元を塞いでおく。
妹はモゴモゴとしていたが、その言葉は花那には伝わっていなかった。
「俺らさ、今から用事があって。行かないといけない場所があるんだよ」
紳人は妹の口元から手を離すと、りんの右手を触り、その場からさりげなく立ち去ろうとする。
「ちょっと待って」
背を向け、アーケード街の入り口へ向かおうとした時、花那から引きとめられる。
そして、彼女の方から歩み寄って来た。
「それで、あの件については決まった?」
花那は妹がいる反対側の方に立ち、紳人の耳元で囁くように問いかけてくる。
「あの件……いや、まだだけど」
花那と夢月。そのどちらかにするという話である。
「でも、今週中には言ってくれるんだよね?」
「まあ、そのつもりではいるけど。というか、話すのは今じゃなくてもいいだろ。そんなに急かさなくても」
二人は小声でのやり取りを続ける。
「まあ、一応考えてくれている最中ならいいんだけど」
花那は期待しているからと言った表情で、さりげなく目で合図を送ってくる。
「さっきから二人は何について話しているの?」
りんは、密接な関係でやり取りをしていた二人の前にひょっこりと姿を現し、疑問気な口調で話しかけてくる。
「なんでもないよ。この前の件についての話。じゃあ、これくらいにして行こうか」
紳人は強引にも話を終わらせ、妹と再びアーケード街へ向かおうとするのだが、また花那から引きとめられる。
「それで、二人はどこに行くの?」
花那が二人の前にやってくるなり、質問をしてくる。
「今からアニメショップに行くんだよね。お兄ちゃん」
手を繋いでいる妹が説明する。
「そ、そうなんだ。だから、今日はここで」
「じゃあ、私も一緒に行ってもいい?」
「え? 藍沢さんも、用事があって街中に来たんじゃないの?」
「そうだけど。私の方はそこまで急ぎじゃないから」
「そうか。じゃあ……りんはどうする? 一緒でもいい?」
切り返す言葉がなかなか思い浮かばず、妹に委ねることにした。
「私は、いいよ。お兄ちゃんが良いのなら」
りんの発言に、紳人は悩み、少しだけ表情を歪ませてしまう。
え、どうしようかな。
厄介なことになったな……。
今日のスケジュールとしては、アニメショップに行ってから、メイド喫茶に行く予定だった。
妹だけとだったら何とかなったが、ここで花那が追加という事になると、メイド喫茶に入りづらい。
今まさに、花那と夢月のどちらがいいのかという議論を心の中でやり取りしている最中なのだ。
そんな中、同じ空間に、花那と夢月がいる状態は作りたくなかった。
さすがに、このままメイド喫茶に行くのは……ん?
そうか!
紳人の中で、あることが閃く。
アニメショップまで一緒に付き合ってもらって、それから妹のりんを花那に預ければいいのではという結論に至ったのである。
「どうしたの。ボーッとして」
花那から顔を覗き込まれる。
「あ、いや、なんでも。まあ、いいよ。行こうか」
「お兄ちゃんはそれでいいの?」
「いいよ。都合がいいし」
「都合が良いって?」
りんはなんでと首を傾げていた。
「まあ、そんな事は一先ずおいて、三人でアニメショップに行くという事で!」
紳人は気合で、この現状を乗り越えようとしていた。
誰にも心の中身を悟られまいと、焦った感情をひたすらに隠そうと奮闘していたのである。
「なんか、怪しい」
「そんな事ないよ」
紳人は、花那から疑念をかけられていたものの、普段見せる事のないテンションで、アニメショップまで誘導する事にしたのだ。
「あった!」
アニメショップ店内。
日曜日という事も相まって賑わっている。
店内のアニメエリアでは、ショーケースの中に見本となるアニメDVDに加え、特典グッズも綺麗に揃えられ、置かれている。
「それが欲しかったのか?」
「そうなんだよね」
ショーケースの中にあるのは、アニメDVDと書き下ろし漫画とフィギアなど、他にも色々ある。
フィギアに関しては、主人公バージョンとヒロインバージョンがあり。どちらかを選ぶ必要性があるようで、主人公かヒロインかで特典も少し変わってくるようだ。
それにしても精巧に作られているな。
紳人はショーケース越しに見て、感銘を受けていた。
これはアニメ化され、人気があるからこそフィギア化される可能性が高まる。
アニメ監督の影響で内容を改悪される可能性もあるが、アニメ化した方が知名度も上がり、色々なメディア展開が出来るのだと改めて思う。
「えっと、値段が……二万円もするの⁉」
「そうだよ」
「今日持ってる?」
紳人が驚き、妹に確認するが大丈夫と言っていた。
妹曰く、今までのお小遣いを少しずつ貯めていたらしい。
「それと、これを購入する時はこれを見せるの」
そう言って、りんは取り出したスマホの画面を見せる。
その画面上には、予約番号と表示されてあった。
「予約制なのか」
「そうなの。私、並んで購入してくるから。お兄ちゃんは近くで待っててね」
りんが購入カウンターエリアに向かおうとした時、紳人が引きとめた。
「待って。俺、ちょっと用事があって。あとの事を藍沢さんに頼みたいんだけど」
「え? 私? なんで?」
りんはその場で立ち止まり。花那は急に名指しされ、素っ頓狂な声を出していた。
「あなたがいればいいじゃない」
「なんだけど。これから別の用事があってさ。妹のりんと一緒に並んで待っててくれないか?」
「私が? でも、この子とはほぼ初対面なのよ。私、急にあなたの妹と二人っきりになっても、大丈夫?」
「大丈夫、すぐに戻ってくるから。多分、並んで購入するまで結構時間かかるだろうし。俺もすぐに戻ってくるから。それでいいだろ」
「まあ、いいんだけど。それで、あなたはどこに行くつもり?」
「それはまあ……本屋的な」
「本屋? だったら、後でもいいじゃない」
「急用なんだ。だから、お願い」
「ちょっと――」
背後からは彼女らの声が聞こえるが振り返らなかった。
今からどうしても向かわないといけない場所がある。
今後のために必要な儀式的な行為であり、この瞬間を逃すわけにはいかなかった。
紳人は店屋を後にした瞬間から、日曜日の人混みをかき分けるように走りだす。
それから三分ほど移動したところに、目的となるメイド喫茶があった。
「メイド喫茶って、さっきのアニメショップの近くにあったんだな」
アニメショップは中学の頃と比べて通わなくなり。それゆえ、メイド喫茶が近くにある事を全然知らなかった。
ビルの中にあるからだと思うが、店屋の看板の綺麗さを鑑みても、比較的新しくできた場所だと思われる。
「行くか……」
紳人は緊張した面持ちで深呼吸をしながらも、ビルのエスカレーターに乗り、上へと向かって行く。
一分が経つか経たないかくらいのフロアで、エスカレーターから降り。
紳人は正面の扉を見やる。
扉周辺には、デフォルメ系の動物イラストが貼り付けられ、色鮮やかにデコレーションされてあった。
人生初めての入店に心を躍らせ、紳人は扉の先へと足を踏み込んだのである。
店内に入った瞬間、明るいBGMと可愛らしい衣装を身に纏うメイドらがいる。
そんな中、とある美少女メイドが駆け寄って来たのだ。
「お帰りなさいませ! 今日は、学園アニマル動物たちがお出迎え――」
紳人の前にいる、動物コスプレをした一人の女の子が声を震わせていた。
なぜか、言葉を途切れさせている。
不思議に思い、視界に映る彼女を見やると、それはペンギンのコスプレをした幼馴染だったからだ。
次第に、幼馴染の
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