第12話 私が何とかするから!
街中にいる
彼女は悲しそうな顔を見せ、少々俯きがちだった。
このまま放っておけない状況であり、このまま帰宅するかどうか迷う。
一応、紳人のせいでもあり、少しでも夢月を笑顔にしてあげてから帰宅させたい。
そんな想いが、紳人の心にはある。
「あ、あのさ」
紳人の方から勇気を振り絞って声をかけた。
「……」
夕暮れ時。大勢の人が行き交うアーケード街の入り口付近。夢月は無言のまま、紳人の方を振り向いてくれた。
建物の壁近くで、二人は向き合うように、その場で立ち止まる。
「コンビニでスイーツを買って帰る?」
「それでもいいけど。なんか、そういう気分でもないような……」
夢月はドーナッツ専門店でお菓子を食べている。
彼女の様子を伺う限り、お菓子の類はもう要らないのだと思われた。
逆効果だったかな……。
夢月はお菓子が昔から好きなのだ。
美味しいお菓子でも食べて気分を直してほしいと思ったのだが、余計なことを口にしてしまったと慌てて話を変えようとするが何も思いつかない。
紳人が悩み、無言でいると、幼馴染は視線を逸らして俯きがちになり、表情を暗く染め直している。
何とか笑顔を取り戻せるような発言をしないと――
「紳人はどう思ってる?」
夢月は紳人に近づいて、想いを告げ始める。
「どうって」
彼女の勢いに、紳人の心を振るえていた。
「私の気持ちを知ってるよね。さっきも言ったけど」
「う、うん」
「あとで返答をくれるんだよね?」
夢月の言葉攻めが始まる。
「そのつもりだけど」
「……今のところどう思ってるの? 私のことについて」
「それは、幼馴染として――」
「それだけ? それだけの関係なの?」
彼女は黒い眼差しで、紳人のことを見つめている。
逃したくないという思いと、紳人に対して強いメッセージを与えているかのような眼差しだ。
「それは……夢月の気持ちを今日知ったばかりで何とも言えないけど。今のところさ、幼馴染的な間柄だと思ってて」
「やっぱり、そういう風にしか思ってないんだね」
夢月は俯いてしまう。
「でも、これからは真剣に関わろうと思ってて。俺が夢月の気持ちに気づけなかったのが悪かったと思うし」
紳人は焦って言葉を繋ぐ。
「そうだよ。紳人が……いつまでも私の気持ちに気づいてくれないから……優柔不断なところもあるし」
「それは俺が絶対的に悪いよな」
過去を振り返ると、高校生になってからの幼馴染は女の子らしい雰囲気を見せるようになったと思う。
今まで築き上げてきた幼馴染として間柄を崩したくない。
そんな想いが心の奥底にあるからだ。
でも、いつまでもこんな関係性でいられるわけもない。
だから、来週までには絶対にと、心に誓う。
「そうだよ、紳人が悪いんだからね……」
夢月は悲し気な口調で言う。
そんな言葉に、紳人の心にも突き刺さる。
「ごめん……」
紳人は小さく呟く。
そんなやり取りをしている最中だった。
「アレ? そこにいるのって、夢月?」
その声に、紳人は誰かと思い、近寄って来た女の子へと視線を移す。
「今日はもしやデートかな?」
その彼女の発言に、夢月はパッと目を見開いて驚いた顔を見せていた。
「そ、そんなことないよ。そういう関係じゃないから!」
「そうなんだ。でも、親しそうだよね」
その子が紳人の方を見つめてきた。
「まあ、雰囲気的に良さそうだし。そういうことね。この頃、バイトに集中できていなかったのは、この人が理由って事ね」
その子は夢月の近くにいる紳人の姿全体を見渡し、好き勝手に発言していた。
だ、誰なんだ、この人は――
紳人がそう思っていると、夢月が話し始める。
「この人は、私の……バイト先の先輩で」
「そ、そうなんだ」
夢月の方から説明をしてくれた。
すると、銀髪ショートヘアスタイルな、その先輩とやらが、紳人から離れ、二人を交互に見やっていた。
彼女は雰囲気的に、二人よりも年上に見える。
「私はメアリって名前でやってるの。この子のバイトの先輩って事で、今後何かあるかもだし、よろしくね」
メアリは営業スマイルのような顔を見せてくる。
接客系のバイトかと、その時、直観的に思う。
「まあ、色々とあるんだろうけど。頑張ってね」
メアリは紳人の顔をまじまじと見、後押ししてくれているようだった。
「先輩! それ以上はいいから。それで先輩はこれからバイトですよね?」
「そうね。でも、都合で朝から出勤してたんだよね。それで、もうやることが終わったし、帰宅するつもりだったってわけ」
「そ、そうなんですね」
「まあ、あなた達も帰るなら、一緒に帰る? 夢月はそれでいい? 後、そちらのあなたも。あなたのお名前は?」
「俺は、紳人ですけど」
「そう、紳人ね。あなたも一緒に帰る? 夢月の自宅近くなら私も途中まで同じだし」
メアリはそう言い、アーケード前に佇んでいる二人の腕を掴んで先へ進もうとする。
その頃には、幼馴染の表情も明るくなっていた。
「うんうん、そういう事ね」
隣にいる幼馴染の先輩は、紳人の発言を頷きながら聞いている。
「まあ、色々なことがあるものね。また、会話する事があるかもしれないし、これを渡しておくね」
メアリから一枚の名刺を貰った。
「メイド、喫茶?」
紳人はそれを見ながら目の瞳孔を見開いた。
「そうよ。あの子もそこで働いているよ」
「メイドで⁉」
「うん。そうそう。知らなかったの?」
「全然」
「じゃあ、暇があったら来てみなよ。メイド姿のあの子とも関われると思うし」
「メイドか」
高校生になってから様子が変わったと思ったら、そういう事だったのかと、紳人は幼馴染のメイド姿を妄想し始めていた。
漫画に登場しそうな姿でお出迎えしてくれると思うと、胸が熱くなってくる。
「ねえ、待った?」
「大丈夫、丁度いいところだったから」
メアリは、住宅街近くのコンビニから戻って来た幼馴染に言う。
幼馴染がコンビニで購入している際、二人はコンビニ前で話していたのである。
丁度話に切りが付いたところで、三人は揃って帰路に付く事となった。
「はあぁ、今日も終わった。少しベッドで休むか」
独り言を呟いて、紳人は自宅玄関の扉を開いた。
今日一日。朝から夕方までぶっ飛んだ経験ばかりで、心も体も疲弊しきってるのだ。
「ねえ、お兄ちゃん?」
刹那、リビングから扉を開け、妹のりんがパッと姿を現す。
妹は紳人の近くまで歩み寄ってくる。
「ん? もう帰っていたのか」
「そうだよ。でも、これって何?」
「……⁉」
紳人は目を見開く。
疲れ、疲弊しきっていた体が目覚めるかのような状態に陥っていた。
瞳に映る妹が手にしていたのは、この前購入した卑猥な表紙イラストが描かれた官能小説だったからである。
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