第11話 これから俺がすべきこと
ドーナッツ専門店内での出来事であり、席に座ったまま厳しい状態に頭を抱え始めていた。
視界の先には、二人の美少女。
彼女らは席に座り、紳人と同じテーブルにいる。
今まさにどちらと付き合うべきか。そんな展開になりつつあった。
がしかし、急に判断できることではなく、さらに悩ましい状況に、紳人は苦しめられる事となったのだ。
「私……ほ、本当はずっと前から伝えたいと思ってたんだからね!」
幼馴染の
彼女は紳人を見下ろし、ジッと目線を向けている。
紳人は幼馴染による突発的な言動に対して目を点にし、なんと返答をすべきか悩んでしまう。
「紳人が、どう考えているかわからないけど……紳人の気持ちを知りたくて。だから、話すなら今しかないと思って」
その場に佇んでいた夢月は、紳人がいるところまで歩み寄ってくる。
「俺は……」
「ここで、ハッキリとさせないとダメだと思うの!」
紳人の目の前にくるなり、彼女は真剣な眼差しで自身の意見を述べていた。
「急な返答は出来ないから」
動揺してばかりで紳人の声は震えていた。
ここまで真剣な幼馴染は見たことなかった。
それに加え、左腕に接触している
「だとしてもここで!」
夢月の進撃は止まることはない。
次々と言葉を告げてくる。
「落ち着いた方がいいよ」
紳人は幼馴染を宥めるように忠告した。
「落ち着く? でも、それだと」
「でもさ、今は皆の視線が」
紳人は幼馴染に周りの状況を把握するように促す。
周りにいるお客らの視線は、このテーブルにいる三人へと向けられていた。
何が起きてるんだとか。
二股なのかとか。
今の高校生は騒がしいとか。
そういう顔付きで噂を立てられ、見られているのだ。
「そ、そうだね。その方がいいかも……」
夢月は自身の言動を恥じて、赤面したまま荒立っていた肩を落とし、冷静な判断をするようになった。
彼女はクルッと背を向け、再び席に戻り。それから無言で腰を下ろしていたのだ。
三人は一度静かになった事で、周りのお客らも平常通りに食事をしたり、共に店へと訪れていた人らとの会話を再開し始めていた。
「私、紳人が何も用事がないって思ってたから。今日ここで一緒に遊べると思って楽しみにしていたのに……」
一度、飲み物で口を潤した夢月は俯きながら小さく言葉を漏らす。
「でも、その子と付き合っているとか……付き合ってないって言ってくれたよね?」
夢月は冷静さを取り戻した後、どんよりとした黒いオーラを解放させながらも、紳人へ鋭い眼光を見せつけてくる。
そんな瞳をする夢月に恐怖を覚えつつ、自身の決意が浅かったと内心後悔していた。
明らかに自身の失態であり、幼馴染の想いを直接受け入れられない状況に非力さを感じていたのだ。
「私、本気なんだよ。だから、本当は二人っきりの方が良かったし。二人で色々したかったし」
夢月は自身の想いをひたすら伝えてくる。
よくよく見ると涙目になっていた。
紳人も、こんな事態に発展させようと思って、花那との同席を許可したわけじゃない。
紳人は隣にいる花那を見て――
「今は君とは付き合えないから。だから、夢月が勘違いするような発言はしないでくれ。俺はこれ以上、面倒事にしたくないし。君とは普通の友達だから。そういう間柄だろ。簡単に言うとさ」
紳人がそう言うと、花那は一旦、左腕から離れてくれた。
が、その恐怖に終止符が打たれたわけじゃない。
花那はスッと息を吸い、これから何かをしようと決心を固めた顔をする。
「でもいいの?」
花那は顔色を変え、声のトーンを落とし、紳人の耳元まで口を近づけてくる。
「は? 何が?」
「あの件のこと、言っちゃうかも」
「……えっと、ど、どんなこと?」
「わかってるでしょ? 私との秘密の件。アレについて言うけど? あの子、どう思うかしらね」
紳人はドキッとし、心を震わせていた。
官能小説を読んでいたとは口が裂けても言えない事情である。
夢月はエロい系のことが苦手なのだ。
だから、二人だけの秘密を口外するなどできない。
紳人は無言のまま、恐る恐る花那の方へ顔を向けた後、やめてくれと言った顔つきで懇願するのだった。
「なら、付き合ってるってことで、いいでしょ?」
「……」
紳人は思った。
「でも、俺は――」
紳人は口を動かしている間も迷っていた。
ここで何も言わずに受け流してしまったら何も変わらないと思う。
「どちらと付き合うかは後で言うから、この話はここで終わらせてほしい」
さらなる懇願を見せた。
どんな状況に追い込まれようと、一旦終止符を打ちたい。
これ以上、夢月には辛い思いをさせたくなかった。
むしろ、この手段じゃなければ、この現状を抑え込むことは出来ないだろう。
今は平行線上にし、必ず早い段階で自身の気持ちを伝えるつもりだ。
「まあ、そういう考えがあるなら後で聞かせてもらおうかな」
花那は紳人の耳元でこっそりと伝えてくる。
それからさりげなく、花那から卑猥なセリフを耳元で囁かれ、紳人は心臓が跳ね上がっていた。
なんてことを言うんだと、紳人は目で合図するが、花那は笑って誤魔化していた。
紳人は目の前の席にいる幼馴染へ視線を向けるが、彼女の方には、この一連の内容は聞かれていないようだ。
一安心するものの、これから非常に大変だと思った。
話が平行線上になった頃合いを見計らって、紳人は席から立ち上がる。
「俺、帰るよ」
紳人は言い、幼馴染の方を見やった。
それから彼女へ手を差し伸べたのだ。
「今日はこれくらいにして、俺は夢月と帰るから。夢月もそろそろ帰るつもりだっただろ」
夢月は顔を上げ、それからコクンと頷いていた。
「そういうことだから。藍沢さんは、ゆっくりとしていきなよ。まだ、入店したばかりだろ」
紳人は通学用のリュックを背負った後、座っている幼馴染を立たせてあげた。
「そういうことで」
「え、もう帰るの? 私も」
「でも、藍沢さんはまだドーナッツを食べ終わってないし。残すのはよくないと思うよ」
また明日と言って、夢月と共に店内の入口へさっさと移動する。
彼女の待ってと言う焦り声が後ろから聞こえてきたが振り返ることはしなかった。
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