夢追人コンカフェに行ってきたレポ

鈴木怜

夢追人コンカフェに行ってきたレポ

 アイドルや芸人、役者にバンドマンなどを志望する若者が店員キャストとして相手してくれるという『夢追人コンカフェ』なるものがあるらしい。

 気になったので行ってみることにした。


 店は都内某所、いわゆるコンカフェが多くある街の一角にあった。

 ただ訪れてみて驚いた。いかにもな看板も出ていない、普通の店のような外観だった。

 こういうのは珍しい。しかし逆にありだなとも思った。あくまでここは夢追人が身銭を稼ぐための場所。そんな雰囲気が漂う。


 何も知らない人間が入ったら驚くかもしれないことだけは気がかりだが。


 店内に入る。

 目についたのはステージだ。カフェというよりも喫茶店に近いような雰囲気がある内装において異彩を放つそれは、きっとキャストがるためのものなのだろう。


「らっしゃせー」


 やる気のないような(ダウナーなと言った方が正しいかもしれない)声で店員が出迎えてくれた。

 耳にはシルバーのアクセサリーがきらめいているのが印象的な女性の店員だった。

 聞けばバンドマンだという。本当にやりたいことだけでは金が足りなくなるためにここで働いているそうだ。


「言うて最近はレーベルの人とのコネ作りとかもしてるんすけど」


 彼女曰く、実力と運とコネのうち二つあればそれでデビューまではいけるらしいとのことだった。

 意外とシビアな目線を持っていると感じたが、どうもこの店の方針なのだそうだ。

 売れるため、夢を叶えるための具体的な方法を考えろ。だとか。キャストはずっとここにいるわけではないという演出なのかもしれない。


「ま、あたしはみっつともまだまだなんすけどね。おにーさんもチケット欲しかったら言ってくれちゃっていいっすからね」


 これもこの店ではありなのだという。見せてもらったチケットに書かれていた会場のキャパは数百人。恥ずかしながらライブハウスのキャパに明るくないのでこれが大きいのか小さいのかは分からないのが歯がゆいところだ。


「おっといけね……おにーさん、ご注文は?」


 メニュー表にはなかなか興味深いものも多かった。(コッテコテ感もあるが)イラストを入れてくれるオムライスはもちろん、ナポリタンやスイーツ、日々の鬱憤や闇が顔を見せるというコーヒーなんてものもある。

 今回は若いのはがっつり行け!なんて煽り文が添えられたハンバーグとコーヒーを頼むことにした。


 料理が出されたとき、キャストの彼女はぞっとするような声でぽつりと呟いた。


「考えんの。こんなに頼んきゃいけない生活がいつまでできるのか、いつまで続くのか、って」


 顔は見えなかった。


「ん? おにーさん、どしたんすか」


 さっきまでの雰囲気はどこにも感じられない表情でキャストが言う。

 ……バンドマンらしい、軽薄そうで、斜に構えたような声色だった。


 レポとしてあまりにもみっともないのだが、その言葉が妙に引っ掛かってしまい、料理の味は感じられなかった。

 夢追人コンカフェ、末恐ろしいところだった。


 ちなみに、バンドマンだという彼女のライブチケットを購入してしまったのはここだけの話だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夢追人コンカフェに行ってきたレポ 鈴木怜 @Day_of_Pleasure

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ