第2話 ケース76ー2
ケース76-2
インカムから四郎の声が聞こえて来た。
先ほどカラスに変化して廃墟を偵察していたのはアナザーの四郎であった。
今はやはりアナザーの明石景行が犬に変化して偵察を引き継いでいた。
「皆、インカムを付けたか?」
彩斗達はそれぞれ確認の返事をした。
「彩斗、コピー。」
「加奈、コピーだよ~。」
「真鈴、コピー。」
「ジンコ、コピー。」
「わらわもコピーじゃの。」
確認した四郎の声が聞こえて来た。
「よし、皆聞いているな。
喜朗おじのハイエーズが車検なので全員が集まれないからインカムで打ち合わせをするぞ。
今は景行が犬に変化してあの廃墟を偵察している。
廃墟にいる2匹の話を聞いたが、陽が落ちてからもう1匹が若い女性を2人廃墟に連れてくるそうだ。」
彩斗達はうんうんと頷き、四郎の言葉が続いた。
「明石がしばらく廃墟を探っている間、はなちゃんはもう1匹の悪鬼が近づいて来たら教えてくれ。」
「判ったじゃの。」
「よし、景行はぎりぎりまで探り、中止になるか奴らを見張る。
はなちゃんが近づく奴を感知したら俺達は車を出て配置に付くぞ。
そうしたら景行も車に戻って装備を身に着けて配置に付く。」
離れたところからでもアナザーを探知できるはなちゃんは半径4キロから8キロ圏内にアナザーが入ってきたら判る。
四郎の言葉が続く。
「奴らに若い女性を殺させるな。
彩斗、真鈴、ジンコの3人で若い女性の安全を確保、同時に俺と喜朗おじと景行と加奈で奴らに急襲を掛けるぞ。
標的は3匹だ。
彩斗達のスコアは伸びないかも知れんな。
しかし、連れてこられた女性たちの安全が最優先だ、我慢してくれ。」
ジンコと真鈴がつまらなそうな表情でコピーと答えた。
加奈が切り詰めたダブルバレルショットガンを手に取って折ると、マグナム装弾特有の長い弾薬を装填しながら言った。
「2人とも残念そうな顔をしてもだめですぅ~。
今日奴らを始末するのは加奈達に任せるですよ~。」
加奈はショットガンを横に置いてククリナイフ、腕につけた投げナイフをチェックした。
真鈴とジンコは加奈に答えずに、苦笑いを浮かべた彩斗とともに自分達の武器のチェックを始めた。
彩斗と真鈴はダマスカス鋼のナイフ、ルージュの槍、そして死霊屋敷の武器庫にあった南部小型拳銃を装備している。
ジンコの装備はルージュの槍と得意な投げナイフを数本、やはり南部小型拳銃を装備していた。
威力が弱い南部小型拳銃は再生能力があるアナザーを殺すには力不足で牽制の役にしか立たない。
やはり彩斗、真鈴、ジンコの主力武器はルージュの槍であろう。
レガシーにはアナザーメンバーの四郎と喜朗おじがいてやはり武器の点検をしているのだろう。
同盟を組んでいる岩井テレサ率いる組織にアナザーの死体処理などを行う処理班に連絡をして待機していることを確認した。
討伐終了後に処理班が現場にやって来て討伐の痕跡や、まだ『若いアナザー』の腐乱死体などや『歳古りたアナザー』の灰や討伐の痕跡を消し去る作業に掛かるのだ。
今のところ、アナザーと呼ばれる悪鬼の存在は人類から厳重に秘匿しなければならない。
今回は人間の目撃者を保護する事になるので処理班はその目撃者に対するケアも行うが、どうやって秘密を守らせるのか、彩斗達ワイバーンは判らなかった。
暫く車の中で待機をしている彩斗達。
陽が落ちてきて周りは暗くなり始めたが、やはり勢いは弱くなったが雨は降り続けている。
彩斗達は窓を少し開けるとタバコを吸った。
アナザーの討伐を始めてから煙草の量が増えた。
彩斗達は肺がんの心配がないアナザーメンバーの四郎、景行、喜朗が少し羨ましかった。
ひょんなことから知り合い、チームを組むことになった彩斗達。
人間を襲い貪る質の悪いアナザーの討伐を始めたが、再生能力を持ち、人間よりも動きの速さも耐久力も持久力も高いアナザーの討伐は厄介なのだ。
アナザーは酷い怪我を負って倒れて動かなくなっても直ぐ再生して襲い掛かって来るので油断が出来ない。
アナザーが完全に息絶えて腐乱死体か灰になるまで気を抜けないのだ。
はなちゃんが叫んだ。
「来た!来たじゃの!
もう1匹が山道を登って来るじゃの!
歩きじゃ無いじゃの!車で来るじゃの!」
真鈴が尋ねた。
「はなちゃん、どれくらいで奴は来る?」
「真鈴、曲がりくねった山道を登って来るから15分は充分かかるじゃの!」
彩斗達のランドクルーザーとレガシーは駐車場を出ると山道を登り始めた。
そして廃墟を一度通り過ぎた先に車を停め、それぞれがバラクラバと暗視装置付きヘルメットを装着し『ワイバーンに幸運を』と言葉を交わして車を降りて廃墟に近づき、配置についた。
はなちゃんは真鈴が背負ったリュックに入っていた。
76-3に続く
アナザー討伐の日常、または、ワイバーンの狩猟シーズン とみき ウィズ @tomiki
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