ガチ黒歴史なんて面白くないと思うんだが

武藤勇城

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ガチ黒歴史なんて面白くないと思うんだが

 冒頭、一言申しておきます。表題の通り、他人のガチな黒歴史なんて、聞いても全く面白くないと思います。中二病や若気の至りで、野空を駆け回ってバカ騒ぎをしたとか、多かれ少なかれ誰にでもあるような、どうでもいい下らない話をするつもりは毛頭ありません。本当にあったガチ黒歴史。そんな面白くも何ともない話です。イベントのために、誰得なんだと思いつつ記します。


 自分の人生が狂ったのは中学生時代です。集団生活。小学校から中学校に上がって、初めて環境がガラッと変わる、これは誰でも経験します。こうした環境の変化に適応できない子供というのは、多数存在します。

 相手の名前は、仮に金藤くんとしましょう。背が低く、顔が大きく、目が細く、授業中は大して目立つ存在ではありませんでした。クラスの数分の一は同じ小学校から来た子でしたが、金藤くんは別の小学校から来た、全く知らない子でした。授業中も休み時間も、ほぼ話した事がなく、彼の事は何も知りません。

 もう一人、同じクラスで、別の小学校から来た友人がいました。その子は仮に川崎くんとしましょう。川崎くんとはそれなりに仲が良く、家に遊びに行った事もありました。泊まった事があったかどうかは記憶にありませんが、夕食などご馳走になった覚えはあります。犬を飼っていて、遊びに行った時に犬が足に纏わり付いて腰を振り出したという事件が起き、彼が大慌てで「ごめん!」と謝ってきた、なんて日もありました。記憶違いで、もしかしたらそれは永山くん(仮名)の家に遊びに行った時だったかも知れません。


 中学生になって、何ヶ月か経過しました。一年生の時です。学校の休み時間、お昼休みだったでしょうか、川崎くんが自分のところに来て、「向こうで誰かが呼んでいるよ」というような事を言いました。何だろうと思って、彼に付いていきました。校舎の隅の方、実験室とか工作室とか、特別な授業でしか使わないような、普段はあまり人がいない場所です。しかも休み時間ですので、人影が全くありません。こんな所で人が呼んでいるなんて、何だろうかと、ものすごく不審に思いました。廊下を歩いて行く間も、誰とも会いません。校舎の隅の方まで行っても何もなく、おかしいな、と感じていました。

 ところが、校舎の一番奥の教室の手前、防火シャッターの向こう側に、複数の人影が見えたんです。息を殺して隠れている様子。後ろを歩いていた川崎くんが「誰もいないね」なんてわざとらしく言いましたが、自分は「あのシャッターの向こうに誰かいる」と彼に告げました。その時、彼が自分の背中を押したか何かで、突き飛ばされるように校舎の隅に追いやられました。訳も分からないうちに、川崎くんを含めた複数人の生徒に囲まれてしまいました。

 目の前に立ちふさがったのは、恐らくリーダー格と思われる金藤くん。奥の方に立っていた川崎くんの他、同じクラスでも話した事がない子や、全く知らない顔もありました。何だかよく分からない言いがかりのようなもので、自分は金藤くんに殴られました。色々言われた気がしますが、昔の事ですし、あまりよく覚えてはいません。数学の授業中に、確かマイナス「-」を含む足し算、「1-3=-2」程度の問題が(金藤くんには)分からなかったのに、なんで簡単に出来るんだとか、生意気だとか、そんな理由で殴られました。

 幸いと言いますか、自分が呼び出された時に、誰かが先生に報告してくれたようで、誰も来ない筈の校舎の隅に理科の先生が現れ、「やべっ、逃げろ!」と蜘蛛の子を散らすように金藤くんたちは逃げ出しました。自分は外傷も特になく、大事には至っていませんでしたので、先生に助けを求めたりもせず教室に戻りました。それが失敗だったかも知れません。


 それから、その場にいた生徒によるイジメが始まりました。主犯は金藤くんの他に、もう一人いました。その子の名前は、仮に中田くんとしましょう。純粋な日本人ではなく、黒人系のハーフで、肌の色から黒人の混血だと一目で分かる風貌をしていました。金藤くん同様、他の学校から来た子ですので、それまでの接点はありません。

 イジメについては、様々あったとしか言いようがありません。本当に下らない、例えば椅子に座ろうとしたら急に椅子を引いて転けさせるとか、気付かれぬよう背中に何かを書いた張り紙をするとか、クラス中に何かを言いふらしてハブるとか、そんなものから。体育の授業中、校庭を何周か走るマラソンのような授業だったと思いますが、その最中に何度も足を掛けてきて転ばせる、といったイジメを受けて、足首を捻挫し、全治まで何ヶ月かかかりました。校舎の周りを歩いていた時、上から何かが降って来て、「雨かな?」と思ったら、二階の窓から中田くんが自分めがけて、唾を吐きかけていた、なんて事もありました。度々呼び出されては、殴られた記憶もあります。

 そう言えば、自分が最初に呼び出された校舎の隅で、クラス一番の秀才・畑くん(仮名)が呼び出されていたのを目撃した事もありました。囲まれて殴られていたシーンを直接目にしたわけではなく、畑くんがトイレの鏡に向かって、ハンカチで唇の端から流れている血を拭いているところを目撃しました。多分、昼休みの後の掃除の時間だったと思います。自分がトイレ掃除当番で、向かう途中というか、そこが掃除現場というか。畑くんに「大丈夫?」みたいに声を掛けましたが、多くは語らずハンカチで口元を抑えながら教室の方へ戻って行きました。


 その前後、中学生時代に自分の両親が離婚しました。最初、中学の一年生か二年生の頃でしょうか、自分は母親の方に引き取られて、そのまま同じ家から中学校に通っていました。しかし中学生の二年から三年の頃に、父親の方に行く事になりました。転校の話もありましたが、先生との三者面談で、「高校受験で大変になるよ」というような話をされて、転校はせず電車で通う事になりました。乗り換えが一回あり、駅からの徒歩の時間も含めると、通学に小一時間かかります。歩いて十五分の実家から、だいぶ遠くなりました。

 その前後、「武藤くんの両親、離婚したんだって」という話が広まり、それと共に、イジメっ子たちの間にも「これ以上やったら悪魔じゃね?」みたいな話になった様子で、イジメは徐々に減っていきました。主犯の金藤くんは、どこか別の学校に転校したのか何か、ちょっと記憶にありませんが、二年生か三年生の頃にはほぼ見なくなったと思います。もう一人の中田くんの方が一人だけ、その後も執拗にイジメを継続していたように記憶していますが、まあ一人ぐらいならどうという事もありません。

 ただ、クラスで目立つとイジメに遭う。そんな経験をした自分は、(他の理由もありますが)徐々に勉学をしなくなりました。それまでも塾に通ったり、特別な何かをしていたわけではないのですが、授業で頑張ってもテストで良い点を取っても、こんな悪い目に遭うなら必要ないと考えるようになり、授業もまともに聞かなくなっていったような気がします。赤点さえ取らなければいいか、と。一応言っておきますが、それでも偏差値60ぐらいの公立高校には入りました。


 自分の人生が狂ったと言って間違いない中学生時代。まさに自分の人生一番の黒歴史です。このイベントのような機会がなければ、思い出したくもない、忘れたい幼少期の出来事です。

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