箱モノとミミック

花森遊梨(はなもりゆうり)

第1話

ミミック

モンスターの一種

宝箱と勘違いして開けよう顔を近づけた冒険者に噛みついて頸動脈を噛み切るか、近づいた段階で飛び跳ねて喰らいつき、強い顎の力で首の骨をへし折って死に至らしめる。


これらの一撃を逃れても全く安心はできない。

ー死の呪文 

人間においては冒涜金貨ブラスコインを作れるレベルの魔法使いのみ操ることができるそれをミミックは自在に操る。哀れな冒険者は紫色の閃光をもって、その人生の幕があっけなく降りていくのを、傍観するしかないのだ。


このようにダンジョン内に多く棲息して毎日のように冒険者を殺したり殺されたりを繰り返している。

そんな命のキャッチボールの関係に満足しているからかいまだに生態を詳しく研究したものがいない。どのように繁殖するか、どこで育つのか、本当に人間が主食なのかなどの詳しい情報はいまだに知られていない。

ワタシはミミックを飼いたい。そのためには、ミミックを捕えるためには情報が必要だ。…そうして書庫から引っ張り出してきた冒険者向けの書籍で集まった情報がコレだけだ。


重要なパズルのピースは自分で集めるしかないらしい。



・ミミックは宝箱に擬態し、人が多く通る場所にいることが多いが、これは狩りのための一時的なものであり、通常時は人目につきづらいダンジョンの暗がりで休眠している。

(冒涜金貨・4)


・ミミックの脅威たる飛び跳ねる攻撃、死の呪文、これらは共に体力を消耗する行為らしく、両方とも一度凌ぐことができればしばらく次はない。一回首の骨を折られて死んだのだから間違いない。(冒涜金貨・3)


・槍など、リーチが長い武器で飛び跳ね噛みつきを喰らわない位置から距離を保って戦うのが望ましい(冒涜金貨・3)


・ああ見えて口を開く力はそれほど強くはない

(冒涜金貨・3)


・ミミックは階段(日によって配置が変わる)の付近に数体で群れていることがある。この時は特に危険!一体でも刺激してしまうと、周囲のミミックが一斉に襲いかかってくるからだ!

(冒涜金貨・0)


こうして命懸けで、というか四回ほど実際に死亡して得た情報をもとに、


ワタシはついにミミックを生け捕ることに成功したのだ!


そうしてミミックを飼い始めたが、特にそれ以外にやりたいことがないことに気づいた。


そういえば本来の予定ではダンジョンで集めた財宝でお部屋を彩ってみたかったが、そのために用意した部屋はすでにミミックの飼育部屋にしてしまった。


…箱型モンスターのせいで我が家は一気につまらない箱モノになってしまったようだ。




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箱モノとミミック 花森遊梨(はなもりゆうり) @STRENGH081224

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