好奇心がころすもの

くまのこ

不動の太陽

 天頂にある太陽は、まだ煌々こうこうと明るく街を照らしている。

 僕の心臓は、禁じられたことを始める背徳感とスリルによって鼓動を速めていた。

 愛用の自転車にまたがり、僕はペダルをこぎ始める。

 きれいに舗装された、真っすぐな道路の走り心地は快適だ。

 この道の先にはトンネルがある。

 しかし、トンネルの入り口にはバリケードが築かれており、その先には行けないようになっていた。

 無理やりバリケードの間を通り抜けることもできなくはなさそうだが、僕たち子供がトンネルへ近付くこと自体が禁止されている。

 僕は、この街から出たことはない。

 生活に必要なものは街にあるスーパーやデパートで買えるから、特に不自由はない。

 けれど、いつしか僕は、トンネルの向こうに何があるのかが気になっていた。

 親や学校の先生に聞いても、子供は知らなくていいと言われて有耶無耶にされる。

 疑問は日増しに強くなり、今日、僕は行動を起こしたという訳だ。

 トンネルへ続く道を自転車で疾走する僕の他には誰もいない。

 見咎める大人に会ったら面倒だと思っていたが、邪魔が入らなくてラッキーとばかりに、僕はペダルをこぎ続ける。

 運動して熱くなった身体を風が撫でていくのが心地良い。

 やがて、トンネルと、その前に築かれているバリケードが見えてきた。

 工事現場などに置かれている、黄色と黒の縞模様のアレの他に、鉄パイプなどを組み合わせた構造物が、トンネルの入り口を塞いでいる。

 通行止めと書いてある看板を横目に、僕は自転車から降りて、トンネルに近付いた。

 僕の体格なら、バリケードとトンネルの間の隙間から、何とか中に入れそうだ。

 思った通り、僕はトンネルの中に潜り込むことに成功した。

 抜かりなく持ってきた懐中電灯で、暗いトンネルの中を照らしながら、僕は進んだ。

 トンネルは思っていたよりも短くて、出口から差し込む外の光を見つけた時、僕は少し拍子抜けした。

 トンネルから出た僕の前にあったのは「壁」だった。

 コンクリートとも異なる材質の、無機質で真っ白な高い壁だ。

 トンネルの両脇には瓦礫の山ができていて、とても登って向こう側へ行けるとは思えなかった。

 どこまでも続く道を想像していた僕は、どこへも行けない道を見て、落胆した気持ちを抱えながら、もと来た道を引き返した。

 大人たちは、このことを知っていたのだろうか――そんなことを考えていると、いつの間にか、バリケードで覆われたトンネルの入り口へと辿り着いていた。

 来た時と同じように、トンネルとバリケードの間の隙間を潜り抜けた時、太陽は、まだ明るかった。

 仕方なく家に帰ることにした僕は、余った時間をどうやって過ごすかに頭を使い始めた。

 と、不意に周囲が夜のように暗くなった。

 何だか変だ。

 普通なら、天頂にある太陽は徐々に暗くなり、白からオレンジ色へと変化した後、光が消えるのに。

 見上げた空は真っ黒で、いつも夜になると静かに光っている筈の月も星も見えない。

 とりあえず、家に帰らなければ――僕は、自転車のライトを点灯させると、他に灯りになるもののない道を走り始めた。

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