盗んだ魔輪で走り……b 風を感じる .


 フルエレは秘めていた内心をいきなり見透かされて思わず強引な嘘を付いてしまう。


「そうでしたか……申し訳ない。てっきりこっそり見ている物とばかり決め付けてしまった。淑女になんという無礼で恐るべき決め付けを……私は貴方と一緒に旅をする資格は無いです。此処でチームは解散して私は切腹して果てて詫びます」


 砂緒すなおはいきなり地面にあぐらを掻いて座り込み、折れた剣先を真剣白刃取りの要領に両手で持った。


「ちょっと待って! セップクが何か分からないけどごめんなさい、実はちょいちょい見ていました。だから死なないで!」


 激赤面なフルエレは両手を広げ慌てて止めに掛かる。


「乙女の秘めた欲望を白状させるとは、私はやっぱり間違っていた」

「もういいからっ先に進みましょう!! 着替えるのよね?」


 赤面のまま怒鳴って横を向くと、今度は額に柄頭の突き刺さった大男が目に入り一瞬で笑顔は消えフルエレは曇った顔になった。そして続けて、主人が倒れていてもモシャモシャ普通に草を食べている馬を見つけてさらに悲しくなった。

 ドボッ

 鈍い音が響き、雪乃フルエレはびくっとなった。




「こんな物でしょうか?」


 目がさめない様に軽く二番目の子分の腹部を殴りもう一度気絶させると、片足で足蹴にして無造作にひっくり返しニナルティナ軍の制服を奪った。さらにぶかぶかの軍靴までも奪って履いてしまう砂緒。フルエレは見ていて下着姿になった男に少し気の毒な気さえして来た。


(ごめんなさい、まるで追い剥ぎみたいだわ……)


「ここに乗るのですね?」


 着終わった砂緒は何の余韻も無くもう事も無げに乗り込みにかかると、リアサスペンションの大バネがギシっと軋む音がして実際に片側が大きく沈み込んだ。


「ひゃあっだめだよ、乗る時は重くしたらだめ、壊れちゃう!」

「ああっそうですね、乗る時は優しくします、こうですか?」


 砂緒は敵兵を殴る時に無意識に重量増加していた体を元に戻す。


「う、うん、それでいいよ、そっとゆっくりね……」


 深い森の中、状況を知らない第三者が二人の声だけを聞けば、確実に誤解されそうな妙な会話だった。




「じゃあ行きますね!」

「はい」


 フルエレはもう一度男達を見ると悲しい顔をしたが、すぐに前を向き直し慎重にアクセルを動かした。魔法器械が好きと話したフルエレだが、実は魔輪まりんを動かすのは初めてだった。ちなみに魔輪は無段変速であり、エンストなどは起きない。

 ギュワッ!


「う、うわ動いた~~」


 急な発進に少しのけ反ったがすぐにコツを掴みぐんぐん走り出す。


「あ、馬が!」


 砂緒の声に振り返ると巨馬が走りながら付いてくる。でも構わずフルエレは初めての運転に集中して前を向き続けた。


「凄い……気持ちいい……これが魔輪、うわ~~きんもちい~~~」


 でこぼこ獣道を行くのでスピードこそ出せないが、それでも足で移動するよりも遥かに速くて気持ち良く、そしてリニアに反応するアクセルに、魔輪と自分の脚が同化してまるで自分が駆けているかの様な一体感と心の解放感を感じていた。


「フルエレ……」


 砂緒は最初おとなしく感情を押し殺し気味に感じていた雪乃フルエレが、無邪気に声を上げて喜ぶ様子に魅入っていた。

 フルエレのふわふわの金色の髪が後ろになびき、ドレスのスカートは風圧で足に張り付き裾はバタバタと生き物の様に波打っている。


「これが、風」


 砂緒は眼前の流れる景色とフルエレの明るい表情を交互に眺めながら、顔に当たり続ける初めての風の感触を存分に味わった。

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