戦場が見えますa .


 二人が魔輪マリンというサイドカー付き魔法オートバイに乗って数十分、森の木々は数を減らしやがてだんだん林になり、いよいよこの先に平地が広がりそうな気配だった。


 雪乃フルエレは、自分の事をいきなり頼まれもしないのに根掘り葉掘り話す様な元気っ子キャラでは無かったが、砂緒すなおも輪をかけてさらに殊更自分の事を饒舌に語ったりするタイプでは無かった。というか人間になったばかりの為にタイプも何も無いが、そういう訳で二人の間にはしばらくの沈黙が続いていた。

 砂緒は電車の先頭車両で景色を見続ける小学生みたいに、流れる景色を無言で観ていて何の不満も無かったが、天真爛漫とは程遠く実はかなり気を遣うタイプのフルエレは気まずさを感じていた。


「あ、あはは。なんか会話止まっちゃったね」

「特に伝える事が無ければ、何時間でも会話など不要でしょう」


 ズーンという低い効果音が聞こえそうな程に暗く沈み込む顔になるフルエレ。


「……」


 だがきっと悪気は無いに違いないと、彼は元ゴーレムさんなのだからと自分に言い聞かせた。確かに砂緒は何の悪気も無く、むしろフルエレと同乗していて凄く楽しいという気持ちなくらいなのだが、特にそれをフルエレに伝えるつもりも全く無かった。なんと言っても人間としては、まだ生まれたばかりの子供なのかもしれない。




「あの……さっきから時々変な動きしてるけど、何をしているの?」


 そう言えば先程から、砂緒はあらぬ方向に向かって手を振ったりしている。これはまた聞いてはいけない案件なのかと、フルエレは最初余計な気を遣っていたがついうっかり聞いてしまった。


「え、見えてないのですか? 先程の森林が切れた辺りから、私と同じ軍服を着た兵達が時折林に隠れ潜んでいて、こちらを見つけては何か訴える様な仕草をしていますから、挨拶代わりに手を振ってますよ」


 砂緒は目が良かった。普通なら双眼鏡でも使わないと見えない距離だった。


「え、え、え~~~?」


 フルエレの顔に滝汗が流れる。


「こちらも同じ軍服でそれに友軍の車両に乗ってる訳ですが、運転しているのは若い少女のフルエレで奇妙な存在に映るはずです。しかし強引に止めに来ないのは、恐らく兵達は指令を受けて待機中の伏兵か何かで、私達を特殊な伝令か自軍の工作員の類かと判断出来ず、戸惑っている感じではないでしょうか。または最初から相当風紀が乱れててこんな事は良くある事なのか」


 砂緒がまだデパート建屋だった頃の家電コーナーに置かれた数台のテレビと小さい書籍コーナーが彼の知識の全てだった。だから現世の知識を生かして異世界で無双しようだとかの知恵も野望も無かった。ただ今回の分析は戦争映画と立ち読み覗きの歴史小説からの推察だったのだが、偶然ほぼ当たっていた。


「あわわわわ、それって危険なのですか?」


 滝汗のフルエレが怯えて聞いてくる。だが皮肉にもポンコツ現地人のフルエレが今来たばかりの砂緒に解説を受ける立場になっていた。

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