第8話 戦闘に巻き込まれました…

「そ、それって私達戦場のどまん中にいるって事なの? 私が行こうとしていたリュフミュラン負けちゃいそうなの? どうすればいいの? 私でもやっていけそうなくらい、緩い国だって聞いて期待してたのに」


 半泣きになりながら、フルエレが何時に無く早口で訴える。そんな緩い国だから負けそうなんじゃないですか?等とはさすがに言わなかった。

 ヒューンヒューンヒューン

突然二人の遥か頭上を甲高い音と共に、無数の小さな太陽の様な火球が飛び越えて行く。直撃した現場では沢山の兵士が悲惨に吹き飛んでいる。フルエレが見えなくて幸いだった。


「お、始まりましたね。遠距離攻撃で敵の勢力を削ごうという事ですね。壮観だなあ」


 ヒューンヒューンヒューンヒューンヒューンドドドドドーーン

加速度的に攻撃が倍加して行く。お返しにリュフミュランの側からも攻撃があるのだが、数が少なく矢なんかも混じっていて、それが届かず近くの地面に刺さったりもして行く。劣勢なのは明らかだった。


「どうすれば……いいの……ここまで来て。せっかく砂緒とも友達になれて、これからって時に」


 ハイテンションから今度は一気に絶望モードになり、顔が真っ暗になったフルエレ。しかしフルエレの中で砂緒が友達に昇格していた事を聞き逃さなかった。


「そうですね、フルエレの一番生存の可能性があるのは、右側のリュフミュランに向かう事です。今すぐお行きなさい」


 そう言うと、砂緒はサイドカーから身を乗り出そうとする。


「え、どういう事?」

「最初から目的地にしていた国だと言う事、それにリュフミュランは軍隊の服装がバラバラ、恐らく市民なんかも混じってるはずです。事情を説明すれば判ってもらえる可能性が微量でもある事、それにこの服側に行くとまた酷い目に逢いますよ」


 フルエレは砂緒の言葉に素直に従う事にした。


「それでは、私は足止めしてきます。リュフミュラン軍とやらが、全滅する前に逃がしてもらって下さい」


 手刀を切ると、事も無げにサイドカーを降りようとする。


「ええっ大丈夫なの?」

「なんですか~もう~~」


 心配してもらってイラ付く砂緒だった。


「安心して下さい、どうせ倒されても再び朽ち果てるだけです。気にしないでもらいたい」


 一瞬、少しだけ砂緒の顔が悲しそうに見えた。


「駄目! なんでそんな事言うの? 折角会えたんだよ、折角友達になれたばっかりなのに、そんな事言うのは嫌よ……」

「フルエレ……」


 普通の男女関係なら、ここで何も言わず頬を寄せて……みたいなシーンだった。


「あ、だーい丈夫ですよ~~」


 返事はとても軽かった。砂緒は特に何も感じてなく早く済ませたかった。


「う、うん、絶対帰って来てね、それと……兵士はなるべく殺さないで」

「………………」


 涙を拭き、去り際にしれっと過酷な注文を付けるフルエレに絶句する。


「では今度こそ失敬!」


 再びシュッと手刀を切ると、勢い良く飛び出し左側の軍隊に向かって走っていった。しばらく見送っていた雪乃フルエレは、涙を拭いて右側に陣取るリュフミュラン軍に向けて、ハンドルを切り走り出した。その後ろをまだ付いて来ていた馬が追いかけて行く。


 簡素な木組みや石積みや浅い溝で構築された自軍の陣地に、ドッカンドッカン遠距離攻撃の魔法が命中し、多くの兵達が吹き飛ぶ中そこの中心に腕を組み、ピクリとも動じないで仁王立ちをしている大男が居た。


「大将~~変なもんが見えますぜ~、金髪振り乱した女の子がニナルティナ軍の魔輪に乗って、こっちに向かって来てますぜ~~。後ろになんかでっかい馬も付いて来てるし、なんだこりゃ~」


 どう見てもスリかコソ泥にしか見えない、ヒョロ細い男が大将と呼ぶ大男に伝える。この男に限らずリュフミュラン軍の連中は服装装備も武器もばらばら、年齢もバラバラ、統制の取れていないやさぐれ集団にしか見えない。文化文明の差は明らかだった。


「お前……死ぬのが怖いからって、とうとうヤバイ薬に手を出しただろ」


 大男が腕を組んだまま前線を見て、視線を合わせずあきれた様子で答える。


「違いますよ、大将も見てくださいよ~」


 双眼鏡を渡す。


「お、ほんとだこりゃ何だぁ? ニナルティナの秘密兵器か? それにしても可愛いね~、神様が死ぬ前にみんなに天使でも見せてくれてるのかね? お、手なんか振ってるぞ、お~い」


 大将と呼ばれる大男は、ふざけた様子で手を振る。


「ふざけないで下さい。見せて。あれ……ほんとですね」


 今度はこの男達の中では似つかわしくない、優等生タイプのショートカットが整った顔立ちに似合う女性副官らしき者が、双眼鏡を覗いて実況する。


「うーん、連中に虐待されてた女性の可能性はありますね。戦場を撹乱させようと、姑息で汚い!」


 語気を強めて吐き捨てる様に言う。


「あんな面白そうなの撃つ奴は頭どうかしてるぜ。よし、あの子は殺さず拘束!自爆には気を付けとけよ」


 大将と呼ばれる男は方針を決めた。ヒョロ細い男が各所に伝令する。


「おーーい、野郎ども、金髪は殺すな! 生け捕れ」

「イエーーイ!!」


 ノリは謎だったが、大将以下見た目と違って非常に統制が取れているようだった。フルエレがリュフミュランの陣地に到達するのは目前だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る