第9話 魔戦車に撃たれました…
ズザザザザザザ
浅い溝の目前、必死なお陰で短時間でも技術が向上したのか、運転が難しいサイドカー
「す、すいません! 怪しい者ではないです! 助けて下さい」
フルエレが言い終わるのとほぼ同時に、ガコッと数多くの尖った木材で組まれた柵の一部がスライドして開く。フルエレは単純にも瞬間、ホッとしてしまう。
「ああっあ?」
中から一斉にバラバラな鉄の盾やお鍋の蓋までも持った、屈強な男達が飛び出し周囲をキョロキョロ見回す。当然全ての人の頭上をビュンビュンと魔法や矢が飛び交い、あちこちでドゴンドゴンと爆発音が響いている。
「あ、あの……」
「魔法防御展開!」
鉄の盾やお鍋の蓋の上からさらに、魔法攻撃を防御する為の魔法陣を展開する。
「魔導士か?」
「違いますっ!」
即座にフルエレが答えた途端に詠唱が聞こえた。
「
「ふぐっぐぐぐ、ふぐーーっ!?」
突如黄色い光の輪っかがフルエレの口を猿轡の様に締めるのを始めに、全身に絡まり足首にもはまり、溜まらずフルエレは転倒する。
「ほいさっ確保っ!」
すかさず屈強な男が米俵でも担ぐ様に、がさっとフルエレを抱え柵の入り口にそそくさと入り込む。一転してフルエレの脳内に死の恐怖と絶望感が溢れ、涙を流し首を振り続ける。
「ふぐっふぐっ」(ごめんなさい、ごめんなさい……)
「底面良し! サイドカー内部良し!」
「お馬さんこっちだよ~~」
一応馬の腹とサイドカー内に、魔法瓶と呼ばれる魔法力を込めた爆発物が無いか点検し、その上でそそくさと柵の中に押し込む。同時にガコッと尖った木材が突き出る柵の扉は閉じられた。
「優しく置けよ!」
「
詠唱が聞こえると同時に、猿轡状の光の輪と体を拘束していた光の輪は全てスッと消えた。
「ガハッ」
目に涙を湛え周囲の状況を見渡す。ずらりと腕を組んだ屈強な男達に囲まれている。おきゃんな性格の子ならば『ちょっと何すんのよ痛いわね』等と物怖じせず食って掛かったりする場面だが、当然フルエレはそんな事は言えない。ただ砂緒の顔が浮かんで涙が流れた。
「ごめんなさい痛かった? 何でここまでするのよ」
突然屈強な男を押しのけ、絶対こんな場所には居ないだろう、という感じの若い女性が飛び出てフルエレを抱き寄せる。
「お、女のひとだ、わ~~ん、お、女の人」
女性の存在と言葉掛けにホッとして、子供の様に泣いてすがり付くフルエレ。
「きっと……こんなに可愛いんだもの、言葉に出来ない程酷い事をされて来たのね……あ、そこ想像しない! 想像禁止!」
突然周囲の男共の顔に指を指す女性。
「何もされてないです! 砂緒が助けてくれたんです! ここに行って逃がしてもらえって」
ひと際大きく屈強な、皆から大将と呼ばれている男が話しかける。
「ごめんな、痛かったか? 俺あ、
「私はリズよ、よろしくね」
取って食う様な連中では無いと判って、他人の面前で泣いた事に恥ずかしさが出て急速に冷静さが戻るフルエレ。
「は、はい、大丈夫です。入れて下さって有難うございます……私は雪乃、フルエレです。旅の行商人です。」
「安心しろや、すぐに出してやるからよ。その前に外がどんな状況だったか、少しだけ聞かせてくれないかなあ?」
「は、はい……リュフミュランに向かって行商の旅をしていた時に、南の森の中で悪い兵隊さんに見つかって追いかけられて……捕まって、その……吊り下げられたりした時……」
「はいそこ、想像禁止!」
再びすかさずリズがヒョロ細い男に指を指す。
「い、いえ全然ぎりぎり大丈夫だったんです! 突然砂緒、あ、その時点では名前も知らなかったんですが、彼が現れて兵隊さん3人を瞬殺したんです」
実際には一人気絶一人瞬殺、残りは逃走であるが、フルエレには同じ事だった。
「すげーなマジかよ。それでその後何かあったか? どうやってここまで?」
「はい、仲間が居たら危険だって事で、魔輪を奪って北上して、敵が多いみたいだって砂緒が言うので私は東に向かい……砂緒は西に……うう、敵を止めて来るって、言って」
再び涙ぐむ。
「敵が多い? 悪いな気持ちの整理が付かない時によ、敵がどんな様子だ?」
「はい……南の森を抜ける時に、砂緒は伏兵が沢山いるようだって、それにこの陣地の北にも兵がいて、囲む様に攻めて来るみたいな事を」
「南西の林に伏兵かあ……南から回り込んで主力の前衛の側面や後背を突こうとしたら、伏兵が出て来て挟み撃ちって魂胆かねえ。奴の考えそうな事った。主力と正面からぶつかっても、結局両翼から挟まれて全滅って訳か、ははまいったねこりゃ」
「その情報が正しいなら敵の正確な位置と数が知りたいわ。物見を今すぐ出しておいて」
リズはヒョロ細い男に命令する。フルエレには奴というのが誰か分からないが、この人物が何度も死闘を繰り広げている事は理解した。
「あの……砂緒は……どうなりますか?」
リズという女性と衣図ライグは神妙な面持ちで顔を見合わせた。
「いや、あんたが心置きなく逃げれる様に包み隠さず言うが、その砂緒君とかが少々強い人間だとして、絶対に無事じゃ済まねえ。なんたって今度の戦いじゃニナルティナの連中、とうとう魔戦車まで引っ張って来やがった」
無事じゃ済まないという率直な言葉に血の気が引くフルエレ。
「ませんしゃ……?」
フルエレの祈る様な気持ちを知る由も無く、何故か砂緒は酔っ払いの様に昔テレビで見かけた歌謡曲を鼻歌交じりに上機嫌で歩いている。目の前にはもうもうとした砂塵に隠れる六両程の突撃してくる車両があった。単純にこれからどうなるのか期待していたのだった。
「部隊長! 前方に人間確認! どうやら子供の様です。我々の軍服を着ています!」
「陽動か? ふざけた真似を。よし丁度良い命中精度の最終確認だ、全車両物理弾で一斉射撃」
ニナルティナは主力先鋒に、最新の武器である魔戦車を繰り出して来ていた。魔戦車は魔輪同様動力は魔法力で、金属の装甲の上に魔法防御をも持ち、物理攻撃にも魔法攻撃にも耐性があり、さらには専従の魔導士が物理・氷結・火炎等の魔法攻撃を行う、攻守に優れた兵器だった。高度な魔法機械技術や魔導士が最低三名必要という豊富な資金が揃わないと運用出来ない、極めて希少な兵器だった。
だがしかし普段は前衛の後ろに、こそこそ隠れて魔法を撃つしかない魔導士が、一方的に相手をタコ殴りに出来る、ちょっとずるい魔導士にとって夢の兵器ではあった。衣図ライグらはこれが出て来るという情報を聞きつけ、村に侵入される事を防ぐ為に急場で対騎兵隊用の陣を作り、立て籠もっていたのだった。もちろんそんな物は易々と突破されるだろう。
スパパパパパパ
六両全車両が一斉に砂緒一人に向かって射撃を開始する。瞬間、砂緒は一瞬で真っ白に硬化していた。直立する二宮金次郎像にピッチングマシンで白球を当て続ける様に、スココココココと全て弾き返していく。ある意味シュール過ぎる光景だった。
「効果……ありません」
「何!? 幻影魔法かもしれん、全車火炎氷結交互に射撃開始!」
シュババババババドドドドドド
「前が……見えませんね」
砂緒にとってはむしろ物理弾の方が手ごたえがあったくらいで、魔法弾による攻撃はピカピカ光る魔法効果光と砂塵で前がよく見えない中、軽く撫ぜられる感じで不快なだけ、結局何のダメージも与えていなかった。
ガコン、ゴン・ゴン・ゴン
「何だ? 何の音だ?」
突然車両内に不気味な音が響き、車内の全員が上を向き固唾を飲む。堪らずキューポラを開け、外を覗き込む部隊長。自らの部隊が巻き上げた砂塵で良く周囲が見えない。
「ああ、これはどうも」
突如目の前にペコリと頭を下げる目つきの悪い少年の姿があった。初めて会う人物と目が合い、砂緒は紳士として思わず反応せずにはおれなかったのだ。
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