戦場b 味方だったらいいな .


(そんな敵兵を殺さない様にしていたら、手間が掛かるじゃないですか……)


 今確か目を潤ませ自分の事を心配していたハズだが、何故か追加注文をして来た雪乃フルエレという少女に、一瞬疑問を感じたが気にしない事にした。


「お願い……」


「……では今度こそ失敬!」


 再びシュッと手刀を切ると、躊躇無く勢い良く飛び出し左側のニナルティナ軍に向かって転がる様に走っていった。

 ザザザーーッ




「砂緒……ごめん」


 しばらく減速し彼を見送っていた雪乃フルエレは、流れてもいない涙を拭くと右側に陣取るリュフミュラン軍に向けてハンドルを切り走り出した。その後ろをまだ付いて来ていた巨馬も追いかけて行く。



 彼女の向かう先には簡素な木組みや石積みや浅い溝で構築された陣地があった。

 ドドドーーン!

 今まさにドッカンドッカン遠距離攻撃の魔法が命中し運の悪い兵達が吹き飛ぶ中、そこの中心には筋肉質の太い腕をガッチリと組みピクリとも動じないで仁王立ちをしている大男が居た。そしてその横には双眼鏡を覗く男が……


「ありゃ、大将~~変なもんが見えますぜ~金髪振り乱した女の子がニナ軍の魔輪まりんに乗ってこっちに向かって来てやすぜ~~。後ろになんかでっかい馬も付いて来てるし、なんだこりゃ~」


 どう見てもスリかコソ泥にしか見えないヒョロ細い男が大男に伝える。この男に限らずリュフミュラン軍の連中は服装も装備も武器もばらばら年齢もバラバラの、統制の取れていないやさぐれ集団にしか見えなくて両軍の文化文明の差は明らかだった。


「お前……死ぬのが怖いからって、とうとうヤバイ薬に手を出しただろ?」


 大男が腕を組んだまま視線は真っすぐ前線を見て、目線を合わせずあきれた様子で答える。


「違いますよぉ、ホントなんです大将も見てくださいよ~逃げて来た女奴隷かも?」


 双眼鏡を渡す。この連中の敵ニナルティナ王国は奴隷売買で悪評があった。


「お、ほんとだねこりゃ何だぁニナ軍の秘密兵器か? それにしても可愛いね~神様が死ぬ前にみんなに天使でも見せてくれてるのかね? おやっ手なんか振ってるぞ、お~い」


 大将と呼ばれる大男は、必死に手を振る雪乃フルエレにふざけた様子で腕を振り返す。もちろんその間もドッカンドッカンと魔法弾は陣地周囲に炸裂し続けている……


「ふざけないで下さい。見せて、あれ……ほんとですね」


 今度はこのやさぐれ男達の中では似つかわしくない、ショートカットの髪型が優等生タイプの整った顔立ちに似合う女性副官らしき者が双眼鏡を奪って実況する。


「うーん戦場にあの容姿にドレス……確かに連中に虐待されてた女奴隷の可能性はありますね。必死に逃げ惑って此処まで辿り着いたのね、もー絶対許せないわっ!」


 語気を強めて吐き捨てる様に言う。


「決め付けていいんでやすか?」

「撃ちますか?」

「ダメよ!」


 やさぐれ男と女性の間で軽く揉め始める。


「勿体ない! あんな面白そうなの撃つ奴は頭どうかしてるぜ。よし、あの子は殺さず拘束! 一応自爆には気を付けとけよ」


 大将と呼ばれる大男が方針を決めると、すぐさま横のヒョロ細い男が各所に伝令する。


「おーーい野郎ども、突っ込んで来る金髪美少女は殺すな! 生け捕れ!!」

「イエーーイ!!」

「ヤッターッ!」


 ノリは謎だが大将以下見た目と違って非常に統制が取れているようだった。フルエレがこのリュフミュランの陣地に到達するのはもはや目前だった。

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