第30話 謎の物体がっ、氷の博物館!!
「うわああああ、何これ!? 変だよ、凄く変。どこに行くの?」
「まるでUFO○ャッ○ャーその物なのですが」
その妙な物体は黒焦げを掴んだまま森の中に消えていく。
「砂緒、乗って早く!」
「は、はい」
フルエレと砂緒はサイドカー魔輪に乗り込むと謎の物体を追いかけ続ける。どこまでもふわふわと飛び続ける謎の物体。しばらく走り続けると、突然目の前に石造りのコロッセオ風の円形の大きな建造物が見え始めた。そのまま追いかける二人。
「入っちゃう入っちゃう」
フルエレが叫ぶ間もなく、浮かぶ物体は円形建造物の黒く開いた入り口から中に吸い込まれる様に入って行く。すると突然ガシャンと石の扉が落ちて来てもう追いかけられなくなった。
「閉まりましたね」
「もう、中どうなってるのこれ……」
砂緒はサイドカーから降りるとみるみると真っ白い大理石の肌に代わってく。
「行きますよ! 付いて来て下さい!」
後ろに下がり助走をつけてから重くなりつつ肩から突っ込む。ごわっと石の扉が破壊される。先程フルエレが言っていた砂緒の本領発揮だった。なおも奥に飛んで行く浮遊物体。再び次の扉に吸い込まれて行き閉まる扉。砂緒は連続で壁を破りながら進み、フルエレも恐々後に続いた。
やがて石の扉は尽き、真っ暗な大きな空間に出た。どれ程の広さなのか分からない。
「気を付けて下さい」
「う、うん」
「モンスターですか?」
「……ようこそ……いらっしゃいませ……ここは天球庭園……氷のモンスター族館です……」
白い光の主は頭に白い兎の耳を付けた可愛い女の子だった。近くにはあのUFOが浮遊している。
「君は何者ですか?」
「私は……氷のモンスター族館の館長です……魔法人形です、名前はありません……これは黒焦げ……」
ウサ耳の少女は悲しそうな顔をした。
「……でも展示」
女の子がそう言うと、床がぽうっと光って穴が開き、UFOが静かに黒焦げを収納して去って行く。収納した途端に床がキュッと閉じた。よく見てみると床は透明な材質だった。
「こ、これは透明な床に色々なモンスターが収納されてますね。いやマグロやサンマなんかも混じってますが……高級すし店のカウンターですか」
「凄い……綺麗」
「ええ? 綺麗ですかね、意見が別れそうな展示方法ですねえ」
目を凝らして見ると、遠くの床までびっしりと透明な素材の中にモンスターが敷き詰められている。翼の生えたドラゴンや本物の方のゴーレムの様な大型モンスターまで交じってる。
「……モンスターが絶滅しても良いように……展示してます」
「貴方名前が無いなんて可哀そうだよ。
「うさこ……安直……嬉しい。私兎幸……でも何だかそんな名前で……呼ばれてた気もする」
「?」
「嬉しいのか。
「ここに人をいっぱい呼べば、いいかもしれないわね!」
「嬉しい……でも手遅れ。昔は人がいっぱい来ました。人々から少しづつ魔力を貰って動いていました……でも忘れ去られて……もう魔力が残り僅か。あと数日で崩壊……します」
「それは大変ですね。これだけの施設を無下に崩壊させるなどもったいないですよ。確かフルエレは魔力がありましたね?分けて上げられませんか?」
「もちろんいいよ!」
フルエレが即座に了解した。
「……だめ。貴方干物になります……普通の魔術師何人分も魔力が要ります」
「じゃあ、少しだけでも送ってみます! 駄目そうなら途中で止めちゃうし」
そう言うとフルエレはゆっくりと兎幸に近づき、両手を握った。確かにその手は冷たかった。
「行くねっ」
バシッ!! フルエレと兎幸が光り輝く。
「きゃっあっあっあっあ~~」
兎幸の目や全身が光り続け、雷に打たれた様にびりびり震えている。
「お、おい大丈夫ですか!? なにか悩ましい声を出していますが」
「私の方は何の手応えもないですけど……」
苦笑いするフルエレ。
「も、もういいです……大丈夫です。20年分程頂きました……」
魔力を送られた方の兎幸が、がくがくでフルエレはけろっとしながら手を離した。すると突然ぱっぱっと天井の魔力ライトが点灯して行き、高い天井で広い空間の奥まではっきり見える。
「うわ、割と魚介類率が高いですよ。はっきり見えなかった方が幻想的でしたね」
透明な氷の床を見て廻る砂緒。
「……貴方おかしいです。こんな超大魔力普通無いです……これだけの魔力があれば、未来を完全予知したり……あるいは見えた未来を変えたり……出来ます。禁断の最高位の魔法です」
信じられない存在の様にフルエレを見る兎幸。対してフルエレは急に顔が曇る。
「そんな事出来る訳ないでしょう……私そんな能力無い」
「ここはどうやらおかしな連中に踏み荒らされてはいけない場所の様だ。兎幸が寂しく無い様に、信頼のおける人々にだけ教えます。秘密の庭園です」
「……有難う。とても嬉しい」
砂緒は先程までの元気なフルエレから一転、俯いて黙り込んでしまった姿が気になった。
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