第29話 雷、なんか電気が出ちゃった

 十五分後。


「とりゃっ! おりゃっ! 当たれっ!」


 砂緒すなおが必死に剣を振り回すが剣先は全く当たらない。朝に2時間程初めての剣の訓練をイェラに受けただけだから当然と言えば当然なのだが、それにしても異常なくらいにかすりもしない。


「砂緒右、いや左、あ、砂緒後ろ!」

「う、全然追い付かないです」


 一旦休憩の為に剣を置く砂緒。フルエレは先程からもう魔輪まりんの座席に座って呆れて休憩している。スライムは無限の体力があるのか特に知能は無いのか分からないが、あざ笑うかの様にその場でまだピョンピョン跳ねている。


「あれは……恐らく、この森の主的な最強なスライムなんですよね?」

「い、いいえ……多分だけど色とか大きさとかスピードとか普通、凄く普通のスライム……」


 砂緒はもしかしたら最弱かもしれない……そんな考えが頭を過るが雪乃フルエレは頭を振った。


「砂緒ク、砂緒はきっと、大きくて鈍い敵とか、動かない敵専門で最強なんだね!」

「そんな敵ほぼいませんよ……」


 砂緒の脳裏に三毛猫仮面の不適な笑みが過る。振り払う様に再び剣を取ってスライムに挑みにかかる。


「どりゃっ!!」


 三十分後。


「はぁはぁ……これは何かの呪いなんでしょうか? とにかく当たらないですね」

「もう諦めましょうよ。ゴーレムのイメージを思い出して。ゴーレムはあーうーあーうー言いながら大きな手を前に突き出してノロノロ動いてて、それを戦士や格闘家がヒュンヒュン避けまくって結局弱点を攻撃されたりして倒されるの! だから砂緒は小さな事気にしないで!」

「フルエレもしかして……私の事ディスっていますか?」

「そんな訳ないでしょ! ディスる様な人間がここまでの時間こんな事付き合う訳ないでしょ! もういい、サイドカーの横に収納してる魔銃で撃っちゃう?」

「駄目ですよ、銃声で工事のおじさん達に不審がられます」


 しかし前半の言葉は確かにその通りだった。もう諦めようかと思った。


「でも……私がテレビで観た事があるスライムと言えば、巨大な目とにっこり笑った大きな口があった物ですが、このスライムは可愛い部分が全く無い。ただのぶよぶよした透明な袋みたいですね」

「スライムに目とか口とかある訳無いじゃない。不気味な事言わないで……」


 砂緒はフルエレと会話しながら昔の事を思い出していた。砂緒がデパートだった時から苦手な分野だが、確かゲームが社会現象だとか何とかで行列が出来ていた事をニュースで観てたなと。しかしそう言えば砂緒は店内で観ていたテレビがあまりにもつまらない場合、人間に見つからない様にこっそりチャンネルを変えていた。


「ん、手足が無かった時にどうやってチャンネル変えてたのでしたっけ?」

「?」


 ぶつぶつ独り言を始めた砂緒を不審がるフルエレ。


(確か中のニンゲンが消し忘れた電気を消したりもしてあげてましたね)


 ふっと砂緒の中で言葉が浮かんだ。


「電気……?」

「砂緒! 剣が剣が!!」


 フルエレが突然大声を出して指さすので見てみると、イェラから貰った只の一般的な剣が青白く光り、小さな稲妻の様な電気がバチバチと帯電している状態になっていた。


「それって伝説の剣か何かだったの?」

「い、いいえ違いますよ。恐らく安い奴です。ではちょっと見ててください」


 余裕を見せる様に延々とピョンピョン跳ねるスライムに向かって、青白く帯電する剣を振り上げ、すっと振り下ろしてみた。

 バリバリバリ!!!


「キャッ何!?」


 魔銃などより大きな激しい音と共にピカッと眩い閃光があり、フルエレは堪らず腕で顔を隠す。砂緒の髪は逆立ち、しばらくジンジンして動けない。


「え、え、今の何? スライムはどうなったの?」


 フルエレに言われるまでも無く、砂緒の正面には大きく幹が裂けて黒焦げの内部が丸見えになった巨木。そして根本に同じように黒焦げになったスライムだった物が落ちていた。


「わーーー!! 凄い凄い凄い!!」


 フルエレは思わず無意識に砂緒に抱き着いて、兎の様にピョンピョン飛び跳ねた。


「一瞬疑いかけたけど、やっぱり砂緒最強だった!」

「疑いかけたんだ……」


 しかし砂緒はあれ程苦労したスライムを倒した事はもう忘れていた。目の前でピョンピョン飛び跳ねながら抱き着くフルエレの、間近にある満面の笑顔や揺れる金色の髪や白くて可愛いドレス、そして服の中にある柔らかな体の感触……色々な物が眩しくて仕方が無いのだ。いつしか腰をしっかり抱いて真顔でフルエレの事を見ていた。


「え、え、もういいよ、あはは」


 それでも手を離さない砂緒。フルエレはようやく砂緒が以前とは微妙に変化している事に気付いた。


「もういいってば!」


 慌てて両手で胸ドンしてようやく砂緒を突き飛ばす。砂緒はもともと機械的な無機質な感情だったが、初めて人間の少年の肉体を得て以降、自分でも気付かない内に肉体側の影響を強く受け始めていたのだった。気まずい無言の時が過ぎた。


「す、すいません……わたくしどうかしていた様です。悪気は無かったんですよフルエレ」


 謝罪、これも今までではありえない反応だった。フルエレは大事にしない様に努めた。


「あはは、いいよ、ちょっとびっくりしただけ! それよりも凄い威力だね! 必殺技みたい」

「そうだ……フルエレ、この事は二人だけの内緒にしてもらえませんか? 切り札は最後まで隠したいのです。ですから、私とフルエレ、二人だけの秘密です」

「う、うん。秘密だね」


 フルエレは砂緒が今までに無いくらいの満面の笑顔になった事にさらに驚いた。


「それにしても……あのスライムは黒焦げですね」

「本当だ、これじゃあ食べるのに苦労しちゃうね」


 突然の言葉に驚く砂緒。


「え、これって食べちゃうんだよ。細く切って麺にしてスープにいれたり、干して出汁を取ったり」

「なんですかほぼ烏賊とスルメじゃないですか。しかしあの黒焦げはもう無理でしょう」


 砂緒が黒焦げの物体に指を指す。


「い~や! 砂緒の初めての獲物だもの、意地でも食べようよ」

「いえ、そんな事に意地にならないで下さい」


 会話している時だった、直径五十センチ程の銀色の円盤がフワフワと飛んできた。


「ちょっと! これ何、変だよ」

「小さいUFOですかね?」


 そう言いながらも謎の物体を見ていると、黒焦げのスライムだった物の上まで漂って来ると、ウィンと下側が開き小さな曲がった火箸状の物が出て来て黒焦げを掴むと、そのままふわふわと何処かに飛び去ろうとする。

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