第28話 ひみつの庭園、本当にモンスターがいました…


「う、そんな言い方されたら行かないでって言い難いじゃないですか! お兄様の意地悪!」

「有難う猫呼」


 砂緒は猫呼の頭を動物の頭の様にわしわしする。ダミー猫耳がぴくぴく反応する。


「でしたら、お願いがあります。冒険者の方にリュフミュラン王都からさらに北東に天球庭園という朽ち果てた庭園があると聞いた事があるんです。だからそこに行って見て来て、新たな狩場になりそうか下見して来て欲しいです。それで手を打ちます」

「天球庭園ね。まあ、あったら適当にちゃっちゃっと見て来るわね」

「ちゃっちゃって……フルエレさんって慣れたらズボラな本性を現すタイプだったんですね」

「そうですよ、この人の清楚な外見に騙されてはいけないのです」

「貴方に言われたくないわ」


 でも清楚な外見……の部分で密かに喜んでしまうフルエレだった。イェラと猫呼が手を振る中、二人は出発した。



「うーーー~~やっぱり気持ちいいーー!」


 フルエレはアクセル全開にして気持ち良さそうに叫ぶ。既にライグ村から北上しリュフミュラン王都を過ぎて、北東に向かっている所だった。ちなみに魔輪は魔法力で動いている為に殆ど騒音らしい騒音は無く、聞こえるのはタイヤが地面に擦れる音や、葉っぱや小枝を踏み締める音だから、風が出て無ければ普通に会話が出来た。


「しかし王都から北東に向かった辺りとはアバウトな範囲指定ですね」

「いいのよ! 適当に探して適当にみつから無ければそれでいいの! お弁当食べて帰りましょう」


 先程清楚な外見などと言われた事が嬉しかったのか、フルエレはひたすら機嫌が良かった。


「そうですね、そこでフルエレに言いたい事があるのです」

「……え、な、何だろうな。あはは」


 急にドキドキして心配になるフルエレ。


「しかし……前と同じなのですが、遠くにツルハシを持った作業員風の人がちらほら見えますね」

「え、そうなの? こんな所で工事?」


 砂緒は屋上ミニ遊園地の有料双眼鏡の能力を持っており、かなり遠くまで見えた。リュフミュラン王都から真っすぐ東側には海まで大きな街や村は無く、こんな所に道路工事のおじさん達がいるのは不可解だった。


「もうすぐ目の前に、またもや工事の一団がいるので聞いてみますか? 危険は無いはずです」

「そうね、聞いてみましょう!」



 鋸やツルハシやスコップを持った一団に二人の魔輪が近づいた。突然の二人の出現におじさん達はかなり驚いた様だが、別段攻撃して来たりはしない。


「こんにちは。こんな所で工事ですか? ご苦労さまです」


 ぺこりと頭を下げるフルエレ。


「私達は魔輪でピクニックをしている者なのですが、この辺りに天球庭園という朽ち果てた庭園があるのをご存じですか?」


 砂緒なりに演技をして丁寧に聞き出す。フルエレは彼がこんな事出来るんだと内心感心した。


「天球庭園かい? 聞いた事ないねえ、うーん、お前ら聞いた事あるかい?」


 工事のおじさんが周囲の者達に聞く。それを後ろから見ていた目つきの悪い男が、二人に聞こえぬ様に囁きながら隠し持つ剣に手をかける。


有未うみレナード様、あいつら只の一般人でしょう。殺りますか?」


 この場にライグ村攻略で大敗しイェラに追いかけられて逃げた、ニナルティナ軍指揮官有未レナードが居た。


「いや魔輪に乗ってるガキ二人、敵の王都の貴族のバカ御曹司とかだろう。下手に殺って騒ぎになって捜索隊でも出されたらマズい。放っておけ」

「はい」


 目つきの悪い男は剣を戻す。有未は直接は砂緒が魔戦車を潰す場面を目撃しておらず、逃げた捕虜からの情報もまだ上手く伝達されていなかった。だからこの男は目の前の少年が例の化け物とは気付いていなかった。



 何の情報も得られず、砂緒とフルエレは工事の一団を離れて再びでたらめに北東に向かって走り出した。丁度王都と海と中間地点辺りにまで来ていた。


「フルエレ! あれはなんですか!? 青い透明な物がピョンピョン跳ねてますよっ!」


 普段無表情冷静な砂緒がいつになく驚いた声を上げる。


「なんだろ、真っすぐで良いの?」


 フルエレが言われるまま森の小道を進むと、砂緒が指示した地点で魔輪を停車して二人でゆっくり森の中を歩く。森の木々の間に確かにクラゲ的に透明な青い物体がピョンピョン跳ねていた。


「わわっ、スライムよ! 砂緒あれスライム! 久方ぶりにモンスター見ちゃった。あ、砂緒以外でね」


 砂緒は初めて見るモンスターという物体を目を皿の様にして見つめる。


「フルエレ……実は私、貴方や皆さんがモンスターだの何だの言ってるのは集団妄想か何かと思っていたのですが、本当にモンスターとやらはいたのですね。謝りたいです」

「貴方に言われたくないです……」

「あれを……攻撃したりしても法的に問題は無いのですか?」

「当たり前じゃない! 戦いましょう! さあ行けっっ砂緒!」


 フルエレは飛び跳ね続けるスライムに対して、攻撃を指示するかの様にびしっと指を指した。砂緒は貰ったばかりの剣を抜き、スライムに突進を始めた。二人で初めてのまともな戦闘の開始だった。


「フルエレ、見てて下さいよ!」

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