第27話 二人で話がしたいのです……
「そこで腰を入れろ! 全然だめだ、本当にお前は強いのか?」
朝食の時に突然、
「どうしたんですか、急にそんな事初めて。砂緒は今でも十分最強です!」
何かのフィルターがかかっているのか事実と異なるフルエレの見解。裏庭に面するテラスから二人の様子を眺める雪乃フルエレ。
「そもそも持ち方が間違っている! 右手に力が入り過ぎだ! こうだ!」
横から大声で指導していたイェラが、とうとうゴルフレッスンの様に砂緒の後ろから覆い被さり砂緒の両手に手を添えて、手取り足取り実地レッスンを始めた。
(ちょ、ちょっとちょっと!)
急激に密着度が高まった事にびっくりするフルエレ。しかし砂緒の表情に変化は無い。
「そうじゃない! 腰はこうだ!」
さらに熱が入り二人は密着し、イェラの大きな胸が砂緒の背中にぐいぐい押し付けられる。それでも無表情な砂緒の姿がシュールに見える。
(どうしていいかとまどっているの? それともゴーレムさんだから無反応なの?)
フルエレはあまりにも無反応な砂緒に戸惑った。試しに小さな声で何か言ってみる事にした。
「しちか~~?」
カキーンという音が聞こえそうなくらいに、砂緒の動きが急激にガチガチになる。外形的にはようやく美女のレッスンでガチガチになる少年という絵柄が出来上がった。
「どうした!? 急にもっと動きが酷くなったぞ! ガチガチじゃないか」
イェラが呆れて腰に手を当てて砂緒を見るが、砂緒はあらぬ方向を見ている様だ。
(……一体……何があった!?)
そんな時に、フォッフォッーと突然エアーホーンの音が。
「あ、来た! やっと来たわ!」
フルエレが二人をほったらかしにして表に回る。
「フルエレさん、割と早く完成しました。全体で五万Nゴールド程の出費が浮きました」
表に出ると館の前で大きな男が真っ赤なサイドカー付き
「
フルエレは真っ赤なサイドカー魔輪に駆け寄りまじまじと見つめる。以前砂緒と一緒にニナルティナ兵から奪い使用していた物で、フルエレ自身は軍用デザインでも気に入っていたのだが、そういう物を受け付けない周囲の住民に配慮して、一部外装を換えたり装飾を施したり偽装した上で、ボディの濃い緑を真っ赤に塗り直してもらっていた。植土は
「はい、僕は大男なので殆どの乗り物に乗れません。だから押して来ました」
「そ、そうですか、有難うございます」
一部会話が噛み合っていないが植土は変わり者でかなりの大男の外見とは違ってとても優しい男で、同じ魔法機械好きのフルエレは会って一瞬で尊敬した。
「僕はこれから作業場に戻って、業者に回さずに自分で修理する事で、さらにお金を浮かせねばなりません。それではさようならフルエレ」
「何度もお金を浮かせる浮かせる言うとは、とても見上げた方の様だ。これですか?」
砂緒が剣の訓練を終えてイェラから訓練開始記念に貰った、ごく初心者用の一般的な剣を携えてやって来た。
「そうなの! 凄いでしょう。性能的には変化は無いのだけど、見た目が大幅に変化してなんだか新車みたいになったの。早く乗りたい!」
「それなら
「えっ」
少し頬を赤らめるフルエレ。二人は去って行く植土に手を振った。
「そういう訳で今から行って来ますね! イェラさんお弁当有難うございます。
「あ、ああ気を付けろ。それにしても冒険者ギルドは放置してて良いのか?」
「いいの、いいの、猫呼ちゃんがしっかりやっ」
「お兄様フルエレさん待てい!!」
出発しようとしたサイドカーの後部を小さい手でがしっと掴む猫呼。小さなかかとが碇の様に地面に食い込み、茶色いすじを付ける。このままアクセルを回せば猫呼が大変な事になるだろう。
「ちょっと何するのよ、危ないでしょう猫呼ちゃん……」
「何するの……じゃないですよっ! フルエレさんこそギルドお手伝い全然してくれなくて、何遊びに行こうとしてるんですか!」
「遊びに行くって人聞き悪いわね。これは性能評価試験に行くの。ねー砂緒」
「お弁当持って、二人でピクニック行く様にしかみえないですっ! それに何かにつけてお金を払ってるんですからね私! その魔輪の修理費用もです!! 搾取ですよ」
「それは……いつか返しますから。でも今日は行きます!」
「ちょっと酷いですよ! 今日こそ居てもらいますからね!」
あたふたするイェラ。堂々巡りが続いたので遂に砂緒が口を開いた。
「猫呼行かせてください。冒険者ギルドは今や猫呼の人気で成り立っていますよ。今更フルエレが戻った所で猫呼よりも人を呼べるとは思えません」
「お兄様……」
照れながら喜ぶ猫呼。
「え、ちょっと何言ってるの?」
あまりの酷い言い草にフルエレが戸惑う。
「実はどうしてもフルエレと二人きりになって、言いたい事があったのです。今日は行かせてもらえませんか猫呼」
いつにない真顔で砂緒が言った。
(えええ、何何何? 言いたい事って何なの、初耳ですけど)
フルエレは戸惑った。
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