第26話 おかえりなさい、でもお店は乗っ取られていた…
燭台が並ぶテーブルの上には豪華な夕食が並ぶ。イェラが帰って来た二人をもてなす為に大急ぎで作った物だったが、下手な食堂などよりも美味しそうに見える物ばかりだった。
「凄い! イェラさんって絶対スーパー主婦になれちゃうね」
「私は生粋の戦士だ。スーパー主婦になどならない」
「手芸するのだって素敵よ! 実は一番お淑やかなのかもしれないわね」
4人は夕食を始めながら話を進めた。歓迎する二人は意図的にテロや牢屋の話は避けた。
「聞いてくれ、猫呼はプロだ。冒険者一人一人にバースデーカードや上達記念メッセージなど送っているぞ、ファンクラブまで出来た」
「イェラさんだって凄い人気ですよ、特に服を新調する以前は……」
「その事はもう言うな」
二人は偶然その場に居合わせていただけにも関わらず、性に合っていたのか嬉々として冒険者ギルドの話を続けた。
「しかしこのまま同じ事を続けていては駄目だ。今この辺りは深刻なモンスター不足に直面している。新しい狩場を開拓し、あちこちに宝箱を埋めて置いたりやらせもしようかと計画中だ」
「や、やらせは駄目ですよ!」
「フルエレさん、資金面はご安心下さい、魔法のお財布にはまだまだ金のつぶてはありますからね」
ようやく自分達の冒険者ギルドが軽く乗っ取られている事に気付いた……
「砂緒さんやフルエレさんにも手伝って欲しい事がいっぱいあります!」
「砂緒、お前も新しいアイディアを出すのだ」
雇う側から従業員になっていた……
「そうだ、少し前に紅蓮アルフォードさん、
「後で色々聞いてびっくりしたぞ。有名人らしい」
「まあ。凄いじゃない! 私はよく知らない人達だけどサインとか貰ったのかしら!?」
掌を合わせて驚くフルエレ。
「ああその発想は無かったな。それを飾ればここにも箔が付いたか」
がっかりして頭を押さえるイェラ。笑顔で話を聞きながらスープを飲む猫呼クラウディア、和やかな夕食風景だった。フルエレは黙り込んで静かに食べ続ける砂緒が気になり続けていた。
「砂緒、何か言って下さい! 今日はどんな迷言でも大歓迎よ!」
三人の笑顔の中、ゆっくりと砂緒がフルエレの方を向く。
「フルエレ、貴方は兵士を一人射殺したのですか?」
「ブフーーーーー!!」
猫呼は飲んでいたスープを霧状に噴射した。全て顔面で受け止めるイェラ。和やか一転黙り込む三人。フルエレは砂緒のおかしな様子はこの事かと誤解した。
「はい、撃ち殺しました。おじいさんが後ろから若い兵士に斬られそうになって。それで気付くと引き金を引いてて」
暗く沈んだ声で淡々と語るフルエレ。
「もうそんな話題は止めようよ」
猫呼が辛そうな顔になる。
「砂緒にはなるべく殺さないでなんて言いながら、どうしようもない嘘つきだよね」
テーブルに腕を置きながら、俯いて誰の顔も見ずに話すフルエレ。
「いちいちそんな事気にするな! 戦場では当然の事だ」
「砂緒はどう思う?」
なおも聞くフルエレ。
「天晴! 見事討ち取りましたな! としか思わないですが、そんな事。私に言った事と矛盾してるじゃないか! みたいな事も言うつもりは毛頭ありませんよ」
「それはそれで変だ。慰めてほしいフルエレの気持ちを汲め」
イェラが睨みながら砂緒を促す。
「ううん、いいのそれが砂緒だから。普通みたいに君は悪く無いよとか言いながら抱き締められて慰められたら、悲劇のヒロインみたいになれるかも知れない。けど猫呼ちゃんがお兄さんを探してるみたいに、亡くなった兵士が帰りを待ちわびる家族の元に帰れる訳じゃない。もう元には戻らないのよ」
フルエレは悲しそうな顔ながら、無理やり笑顔を作った。
「ああ、そうです! 私もイェラさんも、もうここに住んでるのですけど、いいですよね」
猫呼はもうこれ以上重い空気は耐えられないと、超強引に話題を換える。少なくともフルエレとイェラは年上として、猫呼に気を遣う事をさせてはならないと話を合わせた。砂緒は黙って食事を再開する。
「そうなのね! 猫呼ちゃんだけじゃ無くて、イェラさんまでなんだ」
「ああそうだ。一人暮らしも良いが猫呼は一緒に居ると可愛いのだ、良いか?」
「もちろんよ!」
イェラは元住んでいた家を引き払い、こちらに移り住んでいた。
「砂緒さんお兄様がみつかるまで、これからは砂緒さんを臨時代用お兄様とお呼びしていいですか? ちゃんとそれ相応のお給金はお支払いします」
「お給金!? そのお話お受けして、砂緒!」
「臨時代用お兄様はコンプライアンス的に大丈夫なのか」
少しだけ場が和んでホッとした猫呼。
「そう言えば、牢屋で三毛猫仮面を見ました。なかなかの変態でしたね。あれが本当に兄ですか?」
びくっと猫呼のダミー猫耳が反応する。
「私の兄は……私の記憶の中ではまだ丸坊主のク○ガキでした……好みの兄タイプかどうか実際に見てみないと」
「ク○ガキ言うな。まだ子供だったと言え。それに好みで探すな」
イェラが注意する。
「なかなかの危険人物そうに見えましたよ」
「でも今は砂緒お兄様に甘えたいです!」
「本気で警察案件だから止めろ」
フルエレは自分の所為で場が暗くなったのに、元に戻りつつあってほっとした。本当は砂緒が悪いのだが、一切に気にかけてはいない。彼はまだ唇の感触を思い出していた。
「そうだフルエレ、今夜私は猫呼とイェラどっちのベッドで寝れば良いのですか?」
「ひゃ?」
「何を言っている」
猫呼とイェラが同時にびっくりする。
「最初にこの館に泊まった時に、フルエレが一番最初の夜だから、いっしょ」
「うわーーーわーーーわーーーわーーーわーーー。な、何を言っているの!?」
突然立ち上がって、真っ赤な顔で砂緒の口を押さえるフルエレ。
「何でも無いの、本当に何でも無いのよ。この人頭がちょっと……だから意味不明な事言うの。き、気にしないでね」
もう猫呼もイェラも二人に何かあったのだな……と思っているが、実際には何も無かった。でも二人はフルエレがいつもの調子に戻って来た事が嬉しかった。
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