第31話 兎幸かわいい導き手と、瑠璃ィなんか邪魔者が来た…


「兎幸は魔ローダーなんて知っていますか?」

「……魔ローダーですか、珍しいですね。最近見ない……おや、貴方のポシェット」


 兎幸が雪乃フルエレの腰のポシェットを指さす。


「ん? これかな? フルエレが無造作に七華から預かったヘッドチェーンを見せる」

「ぞんざいに扱い過ぎでしょう。猫呼が言う様に本当にズボラですね」


 あの時以来、内心芽生えた七華への不信からぞんざいに扱ってしまっていた。


「この宝石の部分……もともと魔ローダーの始動鍵。後で加工してるだけ。大事にして……」


 兎幸はヘッドチェーンをまじまじと見つめながら言った。


「そうなんだ!? びっくりだよ……私、魔ローダー乗れるかな?」

「貴方の魔力なら……寝転んで、サンドイッチ食べながら……でも動かせます」

「本当!! やった私でも動かせるんだ!!」


 ぱああっと明るくなるフルエレ。乗り物の話題でフルエレを元気付ける作戦が成功した。


「この子なら本当にやりそうなので変な事吹き込まないでもらいたい」

「もし……また知りたい事があれば、私教える……聞きに来て下さい」

「はい、そうします!」

「私もここにはまた来てみたいですよ」


 二人は兎幸に手を振ると、その場を後にしようとした。


「……待って下さい。言いたい事があります……」

「え、なんでしょうか?」


 少しどきっとして二人は振り向いた。


「……石の扉の修理代を……この子が後日取りに行きます」


 戻って来たUFOが兎幸の横に漂っている。


「うっ」

「えー? 友達になったと思ったのに~」

「……友達と器物破損は別……」


 でも兎幸の顔はかすかに笑っていたので、魔法機械人形ギャグだったのかもしれない。



 天球の庭園を出ると、白いモヤがかかって急激に建物が見え難くなる。


「お客さんに来てもらいたいのか、隠したいのかどっちなんでしょうかね」

「さあ~養分吸収したから、しばらくは来なくていいって事じゃないかしら」

「怖いですね、その考え方。しかしフルエレは凄かったのですね、未来が完全予知出来たり、未来その物を変えてしまう事が出来る程の魔力ですか? 私の雷攻撃なんて霞んでしまいましたよ」


 砂緒はフルエレが喜ぶと思って褒めてみた。


「……だけの量の魔力って事でしょう。実際にはそんな事出来る能力は無いの。もうその話は嫌」


 やはりこの話題はフルエレはかなり嫌なのか、あからさまに顔色が曇って不機嫌になっていく。以前の砂緒なら無配慮にずけずけ続けたかもしれないが、そのような事はもう出来なかった。


「そうですね、これも二人だけの秘密にしましょう。そうだフルエレ、このまま突っ切って東の海とやらに出てしまいませんか? 私は横に乗っかるだけでアレですが」


 正に困った時の乗り物頼みだった。


「まあ素敵ね! 私も同じ事考えてたの。帰り深夜になったって別にいいよね」



 しばらく走るとすぐに海に出た。海が眺め易い場所を探り、綺麗な砂浜に出た。


「わー本当に綺麗! 私セブンリーフの西側育ちだから、東側の海は初めて! この海の向こう側に猫呼ちゃんの国だとか知らない人達が住んでるんだね、凄く不思議」


 双眼鏡の能力を持つ砂緒が目を凝らして見れば、遥か遠くにうっすら対岸らしき陸が見えた。橋がかけられる様な海峡という程の狭さでは無かったが、知識と船さえあれば容易に渡れない事は無さそうだ。砂緒は根ほり葉ほり聞いたりするタイプでは無いので、フルエレがどこで育って、何故家を出たか等全く知らなかった。


「フルエレ、実は聞いて欲しい事があるのです」

「え、何何? 変な事じゃ……無いでしょうね」


 フルエレが見ると、砂緒はいつになく緊張している様に見えた。


「実は……七華しちかに少し言い難い事をされてしまったのです」

「……」


 フルエレは少し俯いて黙って聞く事にした。


「地下牢から外に出ようとした時に……何と言うのでしょうか……うーん」

「……」

「その……キスシーンと言いましょうか、抵抗も出来ずになすがままされてしまったのです。全くお恥ずかしい。七華に内密に言われたのですが、あの者の命令は聞きたくないですので、二人きりになって言ってしまいたかったのですよ」

「もう言わなくていいよ」(何となく分かるから……)


 砂浜に二人共三角座りで海を見つめ、しばらく沈黙が続いた。


「?」


 すっとフルエレの手が砂浜に置かれた砂緒の手に重ねられた。


「……上書き……してみる?」

「!」


 意味を理解して砂緒は横を向き、フルエレの顔を見た。同じようにフルエレもこちらを向いて見ている。言ったフルエレも別に大胆という訳では無くて、少し困った様にじっとしていた。お互い無言で見つめ合った。


「はわ~~~やっぱり若いカップル様はええなあ、どきどきするわ~~」

「うわああああああ」

「きゃああああああ」


 二人の間に突然顔がにゅっと出て来て、砂緒とフルエレ二人共が同時に大声を出す。よく見ると片目が隠れがちな、長い真っ赤な巻き毛の少し化粧が濃い美女が立っていた。


「うちは瑠璃ィキャナリー言うもんや、怪しいもんや無いでー。東の方から来た観光客や。お取込み中悪いんやけど、第一村人のあんさんらに道を尋ねたいんや。ごめんな~~」


 この女性の後ろにはフードを被った男性達がずらっと並んでいる。怪しい集団以外に何者でも無かった。

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