第24話 三毛猫、牢の中で初対決とお姫様抱っこ
「おい、何でも良い、勿体ぶるな、早く鍵を開けてくれや」
三毛猫仮面はにこやかに笑いながら、何の抵抗も無く牢の鍵を開ける。
「や、やめなさい……あっ」
ぎぎぎっと鉄格子のドアが開く。さらに三毛猫仮面は手枷足枷まで外してしまうサービスの良さ。
「これは……本物のお姫様か? こんな地下牢でも分かるくらいに白い肌にきらきら光る瞳、最高の女じゃねえか」
捕虜の魔導士は自由になった手で七華を強引に抱き寄せると、顎を持ち上げて品定めをする。
「ひっ、やめなさい! 汚らわしい、離しなさい」
「お楽しみの所申し訳ないが、私は暇つぶしと小遣い稼ぎに某国の工作員も請け負っておりまして、これから他の捕虜も解放して回って参ります。王女はどうなっても良いのですが、額のヘッドチェーンだけは頂きたい。無くしてはいけませんよ。後で貰いに来ますから」
「しっしっ好きにしやがれ」
三毛猫仮面が歩いていくのを確認すると、捕虜の魔導士は舌舐めずりしながら七華王女の両手を掴んで壁に押し付けると、いきなり豪華なドレスの胸元をびりっと破り裂いた。白い胸とそれを包む高級な下着が露わになった。
「ひっ、止めなさい、お金なら差し上げます。今なら許してあげましょう」
「本気で言ってるのか? こんなの見せられて引き下がれるか!」
野卑た目で普段は絶対に晒されない王女の素肌を見つめる捕虜の魔導士。次にどの様な行動に移るかは明らかだった。
「や、やめて……ください、お願いします。た、助けて」
とうとう七華は上から目線では無く、涙を流して懇願し始めた。
「たまらんな……」
「ちょっといいですか、ご歓談の所申し訳無い。七華王女を連れ帰る様に命令されているのですが」
魔導士が振り返ると、15歳くらいの目つきの悪い少年が。生憎この魔導士は砂緒の魔戦車潰しの場面を肉眼で見ておらず、牢も微妙に離れており事情を全然知らない人物だった。魔法が封印されていても易々と倒せると思い込んでしまった。
「何だこのガキは、今立て込んでんだよ、あっち行け」
「砂緒……?」
恐怖の只中に居て呆然としていた七華も砂緒の存在に気付く。七華の言葉にふっとそちらに視線が行った砂緒を見て、いきなり魔導士が殴りにかかる。瞬時に砂緒は本能的に真っ白に変化して硬化していた。ボキベキ。思い切りなぐった魔導士の拳が潰れる。
「痛い、なんだこれは、俺たちの上に乗ってた化け物? ひっ」
「殺してお仕舞なさい! 私の肌を汚したこの痴れ者を早く潰してしまうのですよ!」
すぐに復活して手で無理やり破れた胸元を合わせた七華が命令してくる。
「いやあ、それがなるべく殺しては駄目と言われてますんで。これで。じゃ!」
「待って! 一人にしないでっ。それにあの小娘なら既に兵士を一人射殺しています! 聞いてないですの?」
「…………」
そんな話は初耳だった。
「分かりました。なんでも時間がかかるのは嫌ですので、はいはい潰しておきましょう」
「ひっ何を言ってるんだ! お願いだ! 助けてくれ! やめろ、ぎゃあ」
砂緒は無造作に体重を増加させると、力を込めた拳で魔導士の心臓の辺りを殴った。その手は突き抜けて壁にまでひびが入った。だらんとなる魔導士の死体。
「い、いい気味よ」
「おっと何をしているんだね? 君が噂の化け物ですか」
後ろから声がして本能的に振り返って拳を振る砂緒。声の主、三毛猫仮面にはかすりもしない。
「その攻撃に当たりさえしなければいいのでしょう」
三毛猫仮面は一定の距離を保ちながら、軽やかな足運びで砂緒の間合いに入り込むと、シュッとレイピアで切り付ける。カキーンとあっさりと折れて飛んでいく刀身。
「おっと、やっぱり攻撃は受け付けない様です。先の戦闘では魔法も無効だったと聞きました」
その間も砂緒は意地になってパンチや蹴りを繰り返すが、全くかすりもしない。みつめる七華。
「まるで動きが素人じゃないですか。強いというのは硬さと重さだけなのですか」
「うるさいですね! 話し方が似ていて貴方、なんか鬱陶しい!」
砂緒が必死にパンチを繰り出すが、ひらりと三毛猫がかわすと背中をポンと押す。前にこけそうになる砂緒。
「ははは、もしかしたらお互い立派なエセ紳士なのかもしれませんね! 仲良く出来そうです。しかし私の攻撃が無効で、そちらの攻撃は一切当たらない、これでは永遠に勝負がつきませんね。今日はここら辺でお暇致しましょうか。最初にヘッドチェーンを貰っておくべきでしたねハハハ」
笑い声と共に消えて行く三毛猫。
「かっこいい……怪○二十○相みたいな奴でしたね」
「何を言っているの? 早くここから連れ出しなさい」
強気の七華だが、足はがくがくと震え、もつれて上手く歩けないほど精神的にダメージを受けている様だった。
「時間がかかりますね、こうしましょうか」
ひょいっと砂緒は七華をお姫様だっこにすると歩き出した。七華の方が僅かに身長が高く、アンバランスなお姫様だっこだったが、超パワーで無いにしろ普通の怪力男よりかはまだ力の強い砂緒にとっては軽々と歩く事が出来た。
「こ、こら、やめなさい、降ろしなさい」
「降ろす? なんなら投げ捨てますよ!」
「なっ」
この者ならやりかねないと思った七華は、それ以上は言わず黙り込んだ。ただ人生でこれまでにないほどの赤面になりかかっていると感じる程顔が熱いので、気付かれない様に砂緒とあらぬ方向に顔を向けた。
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