第22話 牢にぶち込まれている間にS級冒険者の客が来てしまう…


「猫呼ちゃーん、規定の薬草取って来たよ! クリア認定と報酬を下さいな」

「はいはい、少しお待ち下さいね! 必ずお話はお聞きしますよ」


 一方その頃猫呼クラウディアの巧みな接客とイェラのセクシー衣装の為に、冒険者ギルドはほぼ百パーセント男性しか居なかったが、わいわいがやがやの大繁盛になっていた。


「やっぱりここは特に用が無くったって、ゆっくりしてられるラウンジがあるのがいいね!」

「ふふふ、見てごらん登録カードの裏の一言、いまだに被るヤツがいないんだぜ」

「おお、肋骨を折らないでね(はあと)とか文言に苦労してる所もあるが、涙ぐましいね。彼女はちっこいのにその道のプロとしか思えねえ」


 この辺りは元々人間による開発が進み、モンスターが減少化した上に、打ち続く戦乱と度々起こる飢饉の為に乱獲して食べ尽くしたりして、この辺りは深刻なモンスター不足となっており、スライム一匹を初心者が奪いあうという浅ましい状況だった。しかしやって来ているのは一般人に近い兼業的な冒険者見習いばかりであり、むしろ難易度的には適度に下がって良いくらいだった。


「お、おれはどっちかと言えば向こうのが好みだな。モデルみたいに美人で背が高いのに、絶対サイズをミスったメイド服を着ててパッツパツだろ。オムライスにハートを描く時とか最高過ぎるだろ、パラダイスかよ」

「こ、こらじろじろ見るな貴様ら」


 赤面してミニスカを押さえるイェラ。


「紅蓮アルフォードだ。冒険者登録をお願いしたい」

美柑ミカノーレンジよ、私もよろしくね可愛い猫耳の受け付け嬢さん!」


 雑談で溢れていた場内が突然一瞬シーンと静まりかえり、そして先程より激しくざわつき始める。


「お、おいマジかよアイツ、如何にもヒーロー的なつんつんヘアーに、背中に真っ赤な大剣。あれは有名な振れば炎が出るっていうエイチファイヤーブレード。間違い無い、最近突然出て来てセブンリーフ各所に出没し、瞬く間に超S級冒険者になった、焔光のアルフォードだ。魔王を倒すのは奴じゃないかともっぱらの評判だよ。何でこんな素人しか居ない田舎に来る!?」

「つまり横に居るのはパートナーで十三歳くらいなのに、超強力な魔導士でアイドル並みに可愛い、美柑ノーレンジちゃんか? 確かに噂通り本当に可愛いな。それに肩に真っ白いカワウソの使い魔が乗ってやがる。如何にもって感じがするよ。実は小国のお姫様だっていう噂もあるらしい。」

「俺は魔法のハクビシンって聞いたぜ。なんでも美柑ちゃんが一人で手に負えない様な数の敵に囲まれてる時に、偶然通りかかった紅蓮が助けに入って、それ以来組んでるらしい。俺も一度は美少女の危機を助けたいぜ」


 多くの初心者冒険者達が遠巻きに二人を見つめながら、噂話を続けている。


「ふう、こうも注目されるとはね。ここはどうも調べ物はやり辛いようだね! 冒険者登録名簿にもそれらしい女性は居なかったし。ここに君が大好きな優しいお姉さんは居なさそうだ」


 革張りのボックスシートに深く座ってくつろぐ紅蓮アルフォード。傍らには巨大な剣が立て掛けてある。


「ごめんなさい、こんな所でお姉さまが冒険者登録なんてしてる訳無いのに」

「東の海から渡って来てセブンリーフに上陸して以来、いろいろな場所をバラバラに巡ったけど、セブンリーフ大陸の北東部にあるこの国のここは地理的にも内容的にも本当に旅の序盤の村! って感じだね。今頃来る所じゃ無かった」

「うん、もう村を出た方が良さそうだよね」


 美柑が寂しげに応える。


「ウ、ウェルカムドリンクを飲め」

「うわ、凄い恰好」

「な、なんだお前はじろじろ見るな」


 ミニスカの前後を押さえながらイェラが立ち去る。


「まあっ。ちょっと見過ぎですよ! めっ」


 美柑が指を立てて注意をする。テーブルの上を真っ白い使い魔が走り回っている。二人は明らかにここにいる他の人々とは違う世界の住人だった。


(わたしのお姉さま……一体どこに行ってしまわれたの……)



 リュフミュラン王都の牢獄ではフルエレがさらに消耗していた。


「も、もう砂緒無理です……お金が尽きかけです。もう唯一の楽しみの贅沢すら出来ないのよ」


 シクシク泣き始める雪乃フルエレ。


「困りましたね、私がわざわざレシピを伝えて作らせたカツ丼を、また発注してもらうつもりでしたが」

「お金……送ってもらいましょ、私達の事忘れてなければ」


 フルエレは涙を流しながら冷たい牢獄の石積みの壁に頬を寄せた。

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