第21話 牢屋暮らしはメンタルきついよ

「ほら見て下さいフルエレ、この湿った牢の中にはヤモリやゲジゲジ、蜘蛛や何だか良く分からない物が沢山蠢いていますよ。まさにコスモですねコスモス。わくわくしませんか?」

「する訳ないでしょう……」


 七華しちかリュフミュラン王女の嫌がらせで無実の罪で投獄中の砂緒すなおと雪乃フルエレだったが、牢獄の看守始め多くの人々が二人に好意的だった。恐らく昔からこういう風に無実の人々が投獄される事があったのだろう、誰も最初から罪人扱いしなかった。さらには両者は隣同士の牢獄で手枷足枷も外され、その上フルエレの牢獄には臨時で作られた、つい立てまでありプライバシー対策もばっちり施された至れり尽くせりの状態だった。それもこれも国を守った功績が広まっていた事による。


「あああああ、何時になったら出れるのかしら? どうすればいいのかしら」

「一か月後ですよ焦る必要はありませんよ。折角牢獄に入れたのですから、この際牢獄ライフをエンジョイすれば良いのです。例えば石積みは何個あるか数えたり、本当に塩分で鉄格子は錆びて取れるのか実験したり、色々する事はあるはずです」

「そんな事したく無い……裁判で有罪になったらどうするのよ」


 沈んだ声のフルエレ。相当メンタルに来てしまった様だ。


「そうですか……それでは早速私、重量増加して鉄格子にぶち当たって脱獄致しましょうか?」

「不正規手段はだめよ、正規手段で出るの! 衣図いずさんやみんなを信じましょう誤解が解ければすぐに出れるはずよ。でも……メンタルぎりぎりになったら頼んじゃうかも」

「こらこら! 看守の前で脱獄の相談は禁止だぞ。そういう計画はご内密にな! ははは」


 しっかりフルエレから賄賂こそ受け取ったが、とても爽やかで明るい看守だった。


「しかしフルエレ、入所早々に看守に袖の下を渡すのはいただけませんね。わたくしはああいう行動は関心出来ません」

「そう言わないで。ちょっとした事でその後の待遇や生活の質に差が出るのよ。あの程度のはした金で済むなら安い物よ」

「こらこら上げた本人の前で、はした金とか言うのは禁止だぞお前ら。ははは」


 フルエレにとっては明るい看守さんでまだ良かった。

 シュバァ!!

突如激しい音と共にフルエレの横の牢獄からぴかっと激しい閃光が走った。


「ええなんですか看守さん、怖いです」

「怖がらないで大丈夫だよ。雪乃さんの横の牢に魔戦車隊の魔導士が入ってて、魔銃のカートリッジに念を込めてるんだ。一日百発のノルマが課せられてる。しかし安心したまえ、君らと違って手枷足枷付で、魔法の詠唱も不可能な様に封印もばっちり施してあるからね。ははは」

「あーなる程。つまりニナルティナとかいう国の私が次々に潰」

「わーわーわー。それ以上言わないで」


 必死に大声で砂緒の無配慮な言葉を遮る。もし聞かれていたら恨みが向かってくるのは当然だった。


「む、新入りのお隣さん若い女の子と男の子かい。元気がいいねえ何した? うちら捕虜になってこのザマさ。隊長さんは良く分からない化け物に殺されるし本当につらいよ。早く国に帰りたいものだ」


 シュバァ!! シュバァ!!

立て続けに光り続ける。砂緒と雪乃フルエレの牢獄の周囲はズラリと敵国の捕虜だらけだった。しかも流れ弾に当たった隊長は砂緒が殺した事になっていた。


「か、帰りたい……冒険者ギルドおうちに帰りたい。私のお店……どうなってるかしら……心配……」



「いらっしゃいませ! 冒険者の方ですね、冒険者登録されますか?」


 その頃冒険者ギルドは砂緒とフルエレに入れ違いになる様に、ちらほらと冒険者の来訪が出始めていた。なんと最初の冒険者のお客様の来訪を牢獄に入っていて見逃してしまった二人だったのだ。来訪者がある以上放置は出来ないと、フルエレの事が心配だがここはイェラと猫呼ねここクラウディアが切り盛りする事になった。代わりに男共が城に行って無罪を嘆願している。


「わーこの登録者カードは手書きかい、素朴でいいねえ」

「裏を見て下さいね」


 猫耳にメイド姿がハマリ過ぎた猫呼クラウディアが恥ずかしそうに言った。


「おお『気を付けてくださいね。はあと』だって、感動するよ!」

「うふふ、頑張ってくださいね!」


 冒険者達が猫呼にデレデレしながらフルエレが心血を注いだ革張りの椅子に座っていく。突然の代役にも関わらず堂に入り過ぎた猫呼に驚くイェラ。そのイェラ自体の姿はフルエレのメイド服を着ている為にパッツパツであり、危険な程のミニスカになっていた。


「お前はプロか。それよりもどうしてもこの姿じゃないと駄目なのか?」


 普段は無表情なイェラが少し頬を赤らめてひらひらさせる。問題はひらひらでは無くサイズだったのだが。


「私も羞恥に耐えて着ているんですよ! 当たり前じゃないですか」

「お前は普段から猫耳を付けて羞恥に耐性があるだろう……それにしても二人が心配だな」

「そうですね……」



 二週間程が経過していた。


「フルエレ、私は最近昔観たドラマを第一話からずっと反芻する事に凝っています。今は刑事ものがグルグル回っています。フルエレは最近静かですね、大丈夫ですか」

「う、ううう私もう駄目です。砂緒に脱獄を依頼しちゃいそうです。看守さん今日の洗濯物です」

「お、じゃあ洗濯おばさんに渡しておくな!」

「か、看守さん、匂い嗅いだり変な事してないですよね」

「安心しろ! 変な事は一切していないぞ。ははは」


 満面の笑顔で親指を立てる爽やかな看守。シュバァシュバアァ! 横からは激しい音と光の連続。


「もうやってらんねえ! こんな事毎日毎日やってたら死んじまう!」

「こら、手を抜くんじゃねえ!」


 どぼっっバキッぼすっという、繰り返し殴り続ける鈍い音が響く。


「ほらっ気にす・ん・な!」


 親指を立て、凄く爽やかな笑顔でフルエレを励ます看守が怖い。


「か、帰りたい……メンタルが……崩壊しそう……お店……私の」


 フルエレは涙を流し続けた。

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