第20話 兄探し依頼、金づるが転がり込んで来た
「趣味なんだ……」
「この新聞記事を見て下さい」
「なになに『王都に怪盗三毛猫仮面あらわる!!』ですと……なんですかこれは昭和か」
「三毛猫仮面は流石にネーミングセンスがレッドゾーンに突入しているだろう」
砂緒とイェラが口々に話す。
「これがお兄さんだと言うのね?」
フルエレが二人を遮って話を進める。
「はい……。お二人には兄を探し出す……もしくは手がかりだけでも掴んで欲しいのです。公衆の面前で猫耳を装着する、そんな特殊な羞恥に耐えられるのは私達の一族としか。しかも三毛猫仮面は他称では無く自称なんです。そんな危険なセンス兄としか思えません!」
「自称なのか変態だな」
イェラが飽きれて言う。
「先程から話が見えないのですがフルエレ、この子は口入れ屋と何でも屋を誤解していますね」
「冒険者ギルドですよ。私もその事に今気付きました。でも自分で探して下さいって言うのも冷たい気が」
二人は少女を見ながらこそこそと話す。
「ここに一応報酬の一部、着手金としてこちらの価値で百万Nゴールド分の金をお渡しします。父に旅に出る時に困らないだけもって行けと言われて、魔法のお財布にまだまだあります」
ゴトリと金のつぶてを無造作に置く猫呼。
「魔法の財布とは便利な」
「ひゃ、百万Nゴールド!!」
一瞬で目が眩むフルエレ。
「猫呼の父上とは何をやっている者なのです?」
必要があれば欲しいだけで、別段守銭奴でも何でも無い砂緒が金を目の前にしても変わらぬ態度で聞く。
「強いて言うなら~、引退した王様? 引退したとは言えお家にはお金が唸る程あるんですよ!」
「唸る程……」
フルエレは金のつぶてを見てから完全に目が眩んで態度がおかしい。
「何故引退したのだ?」
イェラは王様や引退というワードに反応した。
「強いて言えば、滅んだ? あ、いい意味で、いい意味で言えば円満に滅んだんです」
「滅亡に良い意味も悪い意味もあるのか」
「何故滅んでしまったの!? ご家族は大丈夫なのかしら」
フルエレが心配して聞く。
「それは言えません……でもみんなピンピンして元気に暮らしています。ご心配して下さって有難うございます」
ほんわかした態度の猫呼クラウディアが初めて曇った顔になった。
「兄はそんな状況が我慢ならなくて『こんな所居られるかボケー(原文ママ)』と叫びながら出てったんです。そんな兄に私達は幸せに暮らしているよと、一言伝えたいんです」
「(原文ママ)なのか激しい兄だな」
イェラが身を乗り出して言った。
「あ、あのねシステム的には猫呼ちゃんが、クエストとして依頼して解決してくれる冒険者が現れるのを待つって感じの場所なの……ここは」
フルエレが猫呼の勘違いを親切に解説する。
「……それでは解決してくれそうな冒険者さんは登録されているのですか?」
「ふ、二人ほど」
涙を流しながら言った。フルエレは結局自分達で最初の冒険者として、自分達のギルドに登録しなければ前に進まないと悟った。
「結局自分達で開設して登録して自分達で解決する、脅威の自己循環システムになり果てましたね。ある意味エコロジーと言えそうです」
「嫌味言わないでお願い」
フルエレが力なく言った直後だった、バタンッカランコロンカランコロンとドアの激しい音が。
「何だこのうるさい物は!」
評判が悪すぎるドアベル。ドアが開くと王都の役人と鎖帷子を着て槍を持った兵達がずかずか入り込んで来る。
「砂緒および雪乃フルエレ、二人をこの館への不法侵入不法占拠、さらには看板の王立の詐称、そして猥褻物陳列罪で逮捕投獄する。裁判は一か月後、それまで牢から出る事は許されない!」
「え、え、え、何かの間違いです!
間違いも何もその当の七華王女がプライドを傷付けられた腹いせに、一か月ほど牢にぶち込み、あえて恩赦で恩に着させようという魂胆なだけだった。七華は初めて二人を見た時に、化け物という評判とは裏腹に、決して法律違反や牢破りをする性格では無いと踏んだ上での事だった。
「斬ろうか?」
イェラが剣に手をかける。
「や、やめて下さい、正規手段でちゃんと出ます! 不正規手段はやめて!」
不安感で泣きかけながら砂緒を見た。
「ああ、これが手枷足枷ですか……ヒンヤリして気持ちいいものですね」
謎の感慨に耽っていた。
「だめだ……この人駄目だめだ……」
フルエレは涙を流しながら首を振り続ける。
「雪乃、後で私達がなんとかしよう。耐えろ。何か要る物があるか?」
「う、うう、パジャマとハミガキとおにぎり……それに小銭を……」
「ほら、きりきり歩け!」
容赦なく鉄格子付きの馬車にぶち込まれる二人。
「ね、猫呼ちゃん、事件はちゃんと解決するから、待ってて、待ってて、こんなのいやー」
鉄格子の中で全く説得力無く事件解決を承諾した雪乃フルエレ。
「あ、あの……訳が分からな過ぎて私はどうすれば良いのでしょう」
「お、お屋敷で留守番しててください! えへへ」
少し壊れながらフルエレは応えた。言う間にも何の余韻も無く無情に連れ去られた二人だった。
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