第19話 初めてのお客さまっ! 猫呼クラウディア

「あ、イェラさんですか、ようこそ……お越しくださいました」

「あからさまにがっかりだな」

「安心するのです、この子は大体においてこのような態度のニンゲンなのですよ」

「変な嘘つかないで下さい!」


 無言で言い争う二人を見守り続けるイェラ。


「ここは常に人も居なくて居心地が良い。手芸をするのでしばらく使って良いか?」

「はい……そうですね、人居ないですものね。は!? 手芸をするんですか?」


 突然生き返ってフルエレが聞く。


「そうだ変か」

「いいえ凄く素敵です! 何を作ってるんですか?」

「キルトだ」

「誰かにあげちゃうんですか?」

「いや、作っては貯蔵してるだけだ」


 イェラは革張りの豪華な椅子に座りこむと、ぐーーっと手を伸ばし反り返って背筋を伸ばす。その途端にフルエレとは比べられない程の量感のある大きな胸が天井に向かって突き出る。女子のフルエレもごくりと唾を飲み込んだ。


「イェラ……」


 はっと振り返ると砂緒がイェラを三白眼で凝視している。砂緒は人間になったばかりのゴーレムだと思い込んでいるので安心していたが、こういう事に興味が出始めちゃった!? と少し心配になってきた。


「ウェルカムドリンクは何に致しましょう」


 職務に忠実だった!


「グレープフルーツソーダだ覚えておけ」

「かしこまりました」


 砂緒はすたすたと無言で簡易調理場に行った。ほぼ店員その物だった。

 ガチャッカランコロンカランコロンカラン

その場に残った二人が音が鳴るドアを向く。


「はいはい……どうせ兵隊さんかおじいさんか、リズさんでしょうね」


 フルエレが諦め顔で開いたドアの前まで出迎えると、フルエレよりもまだ小さい年齢と思われる、銀髪のおさげ髪をしたとても可愛い女の子が立っている。


「私、猫呼ねここクラウディアと申すものです。遠く旅をしているのですが、リュフミュランにも冒険者ギルドが復活したと聞き及びましてやって来ました。入ってもよろしいでしょうか?」

「おきゃ、おきゃ、お客さんらった」


 フルエレが震えながら少女をぎこちなく案内する。入って来た少女は髪の毛の上に白い猫耳が生えいて可愛いスカートには尻尾まで生えていた。


 入って来た猫耳少女を丁寧に座席に案内する雪乃フルエレ。ちょこんと座る姿も可愛い少女。


「いらっしゃいませ、冒険者さまですよね。今ウェルカムドリンクをお持ちしますね」

「ウェルカムドリンク?」


 怪訝な顔をする猫耳少女をよそに、砂緒すなおが早く戻って来ないかキョロッキョロッするフルエレ。


「グレープフルーツソーダです。お」


 イェラのテーブルにソーダを置いた砂緒が初めての冒険者らしき来客に気付く。突如少女は椅子から立ち上がって砂緒に駆け寄った。


「お、お兄様っ!」


 そう叫びながら砂緒に抱き着く。


「えーー!!」

「誰なんですかこの少女は」


 砂緒は少女の顔面に掌を当て、一切の何の配慮も無くむぎゅっと男の力で無造作に引き離す。へこむ少女の顔面。


「は、離し方離し方!」

「! ……申し訳ありません」


 ぺこりとお辞儀をする猫耳少女。


「本当にごめんなさい、私実は行方不明になってしまった兄を探して旅をしているのです。そちらのお方が私の好みの兄タイプだった物でつい抱き着いてしまいました」

「好みで探すな」


 黙っていたイェラがソーダのストローを吸いながら突然突っ込む。


「あ、落ち着いて話してくれますか? 砂緒適当に何かを」


 落ち着いて少女は再び席に着いた。コトっと砂緒がテーブルに飲み物を置く。


「有難うございます。私はセブンリーフ大陸の東の海を越えたさらに東にある国からやって来た者です」

「何、セブンリーフの東にも人が住んでいるのか」


 イェラが割り込む。


「はい、セブンリーフで百年もの戦乱が続く為に往来が途絶えてしまい、忘れ去られてしまっているのですが、昔は確かに交流があったんです」


 フルエレが猫耳に興味津々な様子で続きを促す。


「それで?」

「はい、行方不明の兄を探して旅をする内、遂にセブンリーフのニナルティナやリュフミュラン辺りで猫耳の付いた怪しい男の目撃例があると聞いたのです」


 じっと無言で話を聞いていた砂緒の興味が遂に爆発した。無造作に猫耳を触り出す。


「ひゃうっ」


 全身がびくっとして動きが止まる少女。耳はぴくぴく動いている。


「ひゃうっ」


 砂緒は無言で再び触る。


「ひゃうっ」

「ちょ、ちょっと何してるの砂緒」

「やめい」


 もう一度触ろうとした砂緒の胸倉を掴んで引き剥がすイェラ。


「ごめんなさい! 私が悪いんですっ。私がこんな興味をそそり過ぎるアイテムを身に着けている事がっ!」


 少女が頭の猫耳に手をかけると、ぱかっと外れる。


「えーっ付け耳だったの?」


 フルエレはがっかりして椅子に座る。


「はい、私達の一族は祖先が猫であったという言い伝えから、常に公衆の面前では猫耳を装着する事を強要されているんです」

「ええ強要!? 誰に?」


 フルエレがびっくりして聞く。


「自分に」

「自分になんだー。え、でもでも猫耳動いてて、あたかも神経が通ってる様に反応してた気がするの」

「ああ、これは猫耳にあたかも神経が通っているかの様に演技しているのと、猫耳の中に複雑な魔法機械が仕込まれいて自在に動くんです」


 そう言うと激しくぴくぴく動かし始めた。


「ひゃうっ」


 砂緒は今度は無造作に尻尾を握る。


「砂緒やめてっ。つまりこれも祖先を偲ぶ風習なのね?」

「あ、これは私の趣味です。これもメカで自在に動きます!」


 そう言うとにっこり笑って、尻尾をぐるんぐるん回す。

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