第15話 どきどきの相部屋、花火の夜
「ふわ~~~だめだめだめ」
「ふんっ、まあいいですわ。それにしても……南からは魔王軍が攻め上り辺境の村々や国々が侵食されつつある時に、何故我々セブンリーフ大陸の人間達同士で戦争をしなければいけないんでしょうか? 魔王を倒す勇者は現れないのですか? 戦争を止める聖人は?」
フルエレの顔に滝汗が流れる。今度は突然演説を始める七華王女。その場にいる全員が『早く帰れ』という凄まじいオーラを発している。
「フルエレ様、砂緒様、貴方達は現下の世界情勢をどの様にお考えですか? よろしければお考えをお聞かせ願いたいですわ」
「知らん」
「え、ええ? え、わ、私、えーーとすいません、分かりませんあはは」
秒で返事した砂緒に対して、いきなりの指名に困惑するフルエレ。真面目に答えようとしても答えが出ない。笑ってごまかした。
「うるっせえな。お前ら王都の連中が援軍も出さず何してた? 今頃ノコノコ出て来て高尚なお説教かあ?」
さっきまで死闘を共にし、戦場に勝利をもたらした女神への侮辱にぶち切れかける衣図。
「やめてっ」
「私は本当に大丈夫ですよっ! 本当に勉強苦手、えへへ」
フルエレが必死に和まし、今度はリズが駆け寄って来て制止する。
「ふんっ、いいですわ。変な邪魔が入りました。お二人には正式にお礼をさせて頂きますわ。それとささやかながら、みなさんにも心が穏やかになる贈り物をお届けしますわ」
二人には軽く礼をしたが、絵にかいた様にふんっと衣図の前で顔を横向くと、そそくさとお付きの美形騎士と共に馬車に乗り込んで去って行った。
「おい、魔戦車の警戒、怠るな。あいつなら本当に火を付けかねんからな」
衣図は真顔で指示をした。
リズはすっかり不機嫌になった衣図から二人を引き離し、先程話題に上った村の中心にある、閉鎖中の旧冒険者ギルドに案内した。
「す、凄い大きなお屋敷! これ本当に貰ってしまって所有権主張してもいいんですか!?」
「え、え、上げるとは……」
控え目なのか図々しいのか測りかねるフルエレに困惑するリズ。
「でも衣図が怒るのも無理は無いわ、あの丘の向こうの王都のかがり火の中に、塔みたいなのが見えてるでしょう? あれは王様の像なの。あんな大きな物立てるくらい財力があるのに、私達に援軍も出さない。本当に嫌悪するわ」
「確かに大きな建造物ですね。一度観光してみたい物です」
砂緒とフルエレは遠く見える王都の石造りの城や、塔の様に巨大な像に思いを巡らせた。
「それにしても……貴方達をみんなと一緒に陣で野営させたり、雑魚寝させたりする訳にはいかないけど、本当に二人でここに泊まるの? いいの?」
リズが二人の顔をちらちら見比べる。
「ご安心下さい、我々二人は今日出会い、既に二人共あられもない姿を晒した仲なのです」
「へ!?」
「誤解さーれーるー。やーめーてー」
フルエレが顔を真っ赤にして遮る。
「違うんです。襲われそうになってた所を砂緒に助けてもらったんです。砂緒は変な事する様な人間じゃないんです!」(ゴーレムだし……)
「そ、そうなのね、二人が大丈夫だと言うなら大丈夫ね。部屋は沢山あるし」
「あ、そうです、これお返しますね」
フルエレが腕輪を外して返そうとした瞬間、腕輪は音も無く崩れ去った。
「きゃっ何これ……ごめんなさい、壊れちゃった」
「耐用年数だったのかな、いいの気にしないで!」
笑顔で許すリズは、館の鍵を渡すと去って行った。
「蜘蛛の巣がー蜘蛛の巣がー」
ほうきをぶんぶん振り回しながらランプ片手に暗い館を進み、ようやく寝室らしき場所にたどり着くフルエレ。中央には立派なベッドがあった。
「ふう、今日はいろいろありがとう、砂緒に出会えて嬉しかった。明日もよろしくね」
満面の笑顔になると、パタンと扉を閉めた。
「ふう、なかなか良いベッドですね、私もちろん初めてこういう場所で寝ます物で」
「エー、なんでここに居るの?」
何故か勝手にベッドに入り込む砂緒の姿を見て、飛び上がる程驚く。
「今寝るといいましたよね」
「そうじゃなくって、それは私のベッド、砂緒は隣の部屋で寝るの」
「あーーーそういう物なのですか、それは失敬した」
そそくさと何の拘りも無く、部屋を出ようとする砂緒。
「あ、やっぱり待って……」
ぴとっと砂緒のボロボロの軍服の裾を握る雪乃フルエレ。
「今日は……ここに来て最初の一日目だし、一緒にこのベッドで眠りたい。絶対変な事とかしないよね」
「変な事……? 安来節とか佐渡おけさとかですか? 流石に私も寝ながらそんな事はしないでしょう」
「うん……やっぱり良くわかん無いけど安心した」
「この中心線からこっちは私の領地、そっちが砂緒の領地ね、絶対入らないでね。お休みなさい」
「はい、お休みなさいませ」
フルエレは満面の笑みでシーツを被った。
「フルエレ……」
「は、はいっ!?」
数分もせずに砂緒の声が。
「ここは西から敵国、南から魔王軍と、やはり立地条件最悪の所ですが、フルエレはここで良いのでしょうか?」
「え、いいよここで。それに砂緒と出会えて、ここに来て本当に良かった」
「そうですね、私も最初に出会ったニンゲンがフルエレで良かったです」
「……」
はーまずい雰囲気だなあと雪乃フルエレは心臓ばくばくしながら思った。
「フルエレ……」
「は、はいい!?」(今度はなにー?)
「髪の毛、触ってみてもいいですか?」
な、何ーっ!? 話が違うじゃないかと思ったが、緊張で声が出ない。
「ひゃ、ひゃい?」
勝手に手を伸ばし、フルエレのふわふわの金髪を撫で始める砂緒。
(これ……今度こそ……何展開!?)
フルエレの心臓が本当に飛び出しそうな程どきどきしていた時だった。
「この髪……
「はぁい?」
本当に物質としてフルエレの髪質に興味が出ただけの砂緒だった。
「はい、終了ー。はい、おやすみなさーい」
「はい、ではまた、おやすみなさいませ、くかー」
フルエレが赤面のまま呆れ顔で言うと、本当に素直に秒で寝落ちする砂緒。
ドドーーン、ドドーーン
突然、窓の外から大きな音。先ほどの激しい戦闘の記憶が蘇る。眠りこける砂緒をよそに慌てて窓に駆け寄る。大きな音の正体は花火だった。七華が言うささやかな贈り物とはこれの事だったのだ。
「わー援軍は出さないけど、花火は上げちゃんだ。やっぱり少しずれてるのかしら」
フルエレは深い眠りに落ちる砂緒を起こすかどうか迷ったが、そのままにした。
「……凄い綺麗……」
しばらくフルエレはお城と塔をバックに上がり続ける花火を、戦場で亡くなった兵達の鎮魂とこれからの順風満帆を祈って眺め続けた。
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