死にたくない転生ミミックは全力で『宝箱』を遂行する!!
七篠樫宮
死にたくないので全力で『宝箱』します!!!
ミミック。
それは宝箱に擬態する
長いダンジョン攻略、その果てに見つけた宝箱に歓喜の声を上げる冒険者達を弄ぶ
宝箱を開けようとした冒険者の油断を武器にする
ソレにドラゴンのような巨体や鋭い爪牙はなく。
ソレにデーモンのような超常の魔法はなく。
宝箱への擬態がバレれば殺される。
冒険者一人が罠にかかっても、その仲間に殺される。
擬態が上手くいき、ソロの冒険者を殺せたとしても、いずれ他の冒険者パーティーに殺される。
故に俺は断言しよう。
「ミミックはとっても弱い生き物だ」
そして、ミミックが弱いという事は――
「――そのミミックに転生した俺もまた、とてつもなく弱いという事だ」
*――*――*
『あなたは死にました。よって、あなたの来世はミミックです。転生者補助スキルは……決まりました。種族スキル【宝箱擬態EX】【宝物作成】、特典スキル【――――――】を付与します。また、特典スキルは初回発動条件達成時にスキルの自動発動及びスキルの簡易説明がなされます。
――それでは、あなたのミミック生に幸あれ』
そんな
「ミミック……芋虫とかにされるよりかはマシだけど。動けぬ」
――別に人間にしてくれとは言わないけどさ、『転生したら宝箱だった』は斬新すぎない??
こうして俺の第二の人生……ミミック生が始まった。
ちなみに手足がないから動けないよ! 箱入りというか箱そのものだからね!
「死にたくねぇなぁ……」
暗くてジメジメしてるダンジョンの一室に、俺の声が虚しく響く。
最初はせっかくのセカンドライフ、ミミックとはいえ人並みの生活を楽しみたいと思っていた。
しかし、俺はミミック。自分から動く事は出来ない。
俺を動かせる人間がこの部屋に入って来たとしても、ソイツは宝箱の中身を求める冒険者だろう。
つまり、俺が
「どーにか生きられないか……」
ちなみに俺の声は種族スキル【宝箱擬態EX】によって他者に聞かれる事はない。一人話し放題だね!
「宝を求める冒険者が来れば殺され……ん? 俺が宝を用意すれば殺されないのでは??」
転生した際に渡された【宝箱擬態EX】スキルはそんじょそこらの冒険者如きには見破れない。
であるならば、俺が『宝を求める冒険者を殺す
「そうだ……! そもそもミミックだからと言って冒険者と戦う必要はないんだ!!」
そして、ここにあるのはご都合主義としか思えない【宝物作成】スキルだ。
自身を自他共に認める宝箱へと擬態する【宝箱擬態EX】。
相手が望む宝を作る事ができる【宝物作成】。
――神は言っている……
「よし、死にたくないから全力で『宝箱』を遂行するっ!」
それから、俺の
「わあ、短剣だ!」
――ある時は駆け出し冒険者にとっての
「これは……二本目の聖剣だと!」
――ある時は勇者と呼ばれる強者にとっての
「なんだ、この杖は! 魔力伝導率200%だと?? 魔導法則に喧嘩売ってるのか!!!」
――ある時は魔王を名乗る魔族にとっての
色んな人にとっての『宝』を用意した。
色んな人にとっての『宝箱』になった。
場所も始まりのダンジョンから転々とした。
ある時は勇者に聖剣を与えた『宝箱』として飾られた。
ある時は魔王のお気に入りの『宝箱』として魔王城に運ばれた。
とても長い時間を『宝箱』として生きてきた。
『死にたくない』という願いは叶えられている。
ただ一つ、いや二つ誤算があったとすれば、転生時に渡された
自身を自他共に認める宝箱へと擬態する【宝箱擬態EX】。
――誰かに自分から
相手が望む宝を作る事ができる【宝物作成】。
――望む『宝』を得る事のできる『宝箱』に人々は依存する。それに『宝』の作成には現実世界では一瞬だが、体感時間で最低一年以上かかるスキル。
俺が
俺が
現実世界で1,000年以上――体感時間で5億年以上が転生してから過ぎた。
何度終わりを望んだか分からない。
死にたくないと進んだ先で、誰かにとっての『宝箱』になりたいと願った先で、俺は決して
いつか来る必衰を待った。
待って待って待って待ち続けて現在。
「ようやく辿り着いたぞ」
「クッ、異神の使徒めッ!」
望む『宝』を与える
「何故分からないッ! この『宝箱』があれば人は幸福になれる! あらゆる望みは叶えられ、真なる平和が訪れる!」
そう叫ぶのは年老いた男。
「そうだね。貴方の手腕によって、世界は束の間の平和を得た」
「なら!」
「――でもソレは仮初でしかない。貴方の騙る平和の代償は世界の停滞、いや退廃だ」
相対するのは一人の若い青年と、その後ろに続く多種多様な種族の男女達。
「ただ『宝箱』に祈り、望む『宝』を求めるだけの日々。そんな世界が幸福だとでも言う気か?」
「……そんな事、分かっている! だが、それでも、『宝箱』によって全てを与えられる世界に争いは起き得ない! 私のような思いをする者も居なくなるはずだ!」
この教皇とは
俺という
全部俺は知っている。
「――ソレは貴方の方法じゃ無くても叶えられる事だ。その為に僕は全種族を集めてこの場に来た。貴方ならわかるはずだ。もう既に詰んでいると」
青年の言うとおり、彼の夢はこの日終わる。
教皇……いや老人は膝をついて項垂れた。
「ハ、ハハ……なぁ異神の使徒よ。
信徒へ向ける威厳のある声じゃない、老け込んだ声で彼は呟く。
「貴方の夢は間違ってなどいなかった。間違っていたのは
青年は老人の横を通り過ぎ、俺の前へとやってくる。
「この『宝箱』が全ての元凶。僕を遣わした
今日ここに、この
――なるほど。
「
誰にも聞こえない言葉を呟く。
俺の【宝物作成】スキルの欠点の一つ、
これまでで一番長い付き合いだったから、実は気にしてたんだよ。
「スキル、【破邪の神剣】発動」
――そして、俺の
長い、長すぎるミミック生だった。
果たして、俺はちゃんと誰かの『宝箱』を遂行出来たのだろうか。
青年の手に光り輝く剣が現れ、俺へ振り下ろされようとしている。
「次があるのか分からないけど、もうミミックは散々かな」
目の前が光で溢れる。
これで終わ『特典スキル初回発動条件を達成しました』――え?
『特典スキルを自動発動します』
「な、何だーーッ!」
俺が、勝手に開かれる。
『特典スキル簡易説明開示』
「教皇ッ! これは何だッ!」
「し、知らない……こんなこと、今まで一度もーー!」
『特典スキル【――――――】改め、因果応報スキル【パンドラの宝箱】。
発動条件、自身がミミックであるとバレる事。
スキル内容、これまで与えてきた
世界が、覆われていく。
俺の意識も薄れていく。
『――その『宝箱』は人々に多くの
――その『宝箱』からたくさんの
――たった一つ、最後に残った『宝物』。
――その『宝』の名前を
『スキル発動終了。以降、発動条件達成の度に自動で【パンドラの宝箱】を発動します』
目が覚めた時、辺りには何も無く、
*――*――*
現代文明に存在しない、高度なテクノロジーによって作られた『宝物』を生み出す『宝箱』がある。
その箱がいつからあるのか分からない。
曰く、生み出された『宝物』は過去に滅んだ文明の利器だとか。
曰く、原初の神が人類に与えた神器だとか。
曰く、所有者の願いを叶える願望箱だとか。
様々な噂がある『宝箱』だが、幾つか分かっている事がある。
一つ、出土した過去の文明の遺物と、『宝物』に使われている技術の類似点より、『宝箱』は過去に存在した幾多の文明の技術を保持していること。或いは、既に滅んだ過去の文明でも『宝箱』は使われていたこと。
一つ、『宝箱』はどれだけ調べても
一つ、生み出される『宝物』は人類の進歩を促す『希望』であり、決して人類に害をなす『絶望』にはなり得ないこと。
ソレらが分かったとと同時に、新たな疑問が生まれる。
何者が『宝箱』を用意したのか。
これほどの
「――この2つをどうにかしなければ、現代を生きる我々も、過去を生きた先祖と同じ
「これより始めるのは『宝箱』の解明」
「使用するのは古代魔導文明の遺物と、高度科学文明の遺物。そして過去のあらゆる時代に現れたとされる異神の神器の融合装置だ」
「スキル・システムNo.0【解箱神書】。『宝箱』の正体を暴くと共に、その内容を書き記す模造神器」
「諸君、これより始めるのは過去の偉人達が達成出来なかった、人類史に残る偉業である!」
「スキル発動! さあ、『宝箱』よ! その
「――あぁ、
――その
――死にたくないが故に『宝箱』になることに決めた。
――その始まりの願いは今も叶い続け。
――その終わりの
――今も何処かの世界で彼は全力で『宝箱』を遂行しているのだろう。
――『宝箱』に出会った時はご注意を。
「全ての『宝箱』が
死にたくない転生ミミックは全力で『宝箱』を遂行する!! 七篠樫宮 @kashimiya_maverick
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