第19話 鬼と門番

「いいぞ!いいぞ!そうだ、その調子だ!」


鬼は金色の目を輝かせて笑う。彼女の白い顔には紅が差し、声のトーンの上がり具合からもその高揚が伝わってくる。


「そんな仏頂面をしないでくれよ!さあ、もっと楽しもうじゃないか!踊ろうぜ!狂おうぜ!感じているだろう!この血潮の鼓動を!」


「...ったく、おしゃべりな奴だ。」


洞窟内の揺れる火光の中で、私と鬼は激しい戦いを繰り広げる。


魔力を纏った拳と足がぶつかり合い、技が互いに相殺される。力の余波が部屋全体を震わせ、青と紫の魔力の光がホタルのように点滅する。重い一撃を交わした後で、お互い距離をとる。


「この骨まで響く痺れ!まるで手が粉々になるような痛み!うむ!」


鬼は私との打ち合いでわずかに震える手を見て、その笑顔は単なる愉悦を超えて狂喜へと変わる。彼女は妖艶に手を動かし、自分を抱きしめる。そして、豊かな胸に手を伸ばし、心臓の位置を押さえた。


「この悸動きどう!なるほど!これが恋か!」


「戦闘狂め、口を慎め。早くくたばれ。」


「あは!その冷たい眼差し!純粋に研ぎ澄まされた闘志!気に入ったわ!」


私は相手に狐火を放った。しかし相手は迅速に反応し、鉄扇に魔力を巻き付けて自身に襲い来る狐火を打ち落とした。鬼も負けじと私に向かって飛翔する斬撃を振るったが、私は技を使って襲い来る斬撃をかわした。


技が巻き起こし塵の中で、鬼は素早く接近してきた。まるで互いのまつ毛が触れ合うほどの距離で、鬼の金色の瞳は奈落のように拡大した。


「決めたぞ!」


私たちの手が再びぶつかり合った。突然、鬼が自分の指で私の手を掴み、指を絡め合わせた。柔らかな掌から伝わる熱い体温。こんなに細く柔らかい手から、あんな強烈な攻撃が出せるなんて想像もつかない。


「お前、我の番いをなれ!」


「は!?」


その言葉を聞いて、地面に座っていたアカネは表情をゆがめて大声で叫んだ。しかし、鬼は気にせず、ただひたすらに私の手を握り締めた。


「どうだい?世界の半分をお前にあげる。お前の人生の半分は我がもらう。結婚しよう!」


「はあ。鬼はいつもそうだ。」


鬼が鋭い牙を見せながら、ロマンスのかけらもないプロポーズをしてきた。対して、私はため息をつかずにはいられなかった。


「勝手に話を進め、勝手に興奮し、戦いの最中に突拍子もない考えを抱く。あなたたちの性欲は戦闘欲と直結しているのか?」


「性欲?それは否定しない。強者ほど魅力的だからな。」


私は思わず眉をひそめた。鬼から逃れようと試みたが、相手は全く手を放そうとしなかった。


「あはっ!誰も登頂できなかった高峰、誰も足を踏み入れなかった聖地、誰も触れることのなかった初雪にこそ価値があるんだ!だが、征服は終わりを意味しない。お前と我の蜜月みつげつに終わりはないだろう!」


鬼の魔力と殺気が一層増し、私の手を握る力も痛みを感じるほどに強まった。


「子供は三人でいい!女同士だけど、そんなことは気迫で解決できる!」


「はあ!?子供!?気迫!?明らかに女の子同士なのに!?マヨイちゃんとの、子供!?そんなのあり得るの!?私とマヨイちゃんなら!?」


アカネと配信用ドローンが馬鹿みたいに騒ぎ始めた。しかし、私はそれを無視した。


「おお?」


私は鬼に掴まれた手をひねり返し、技巧を使って相手を半空中に投げ上げた。鬼はこの手には予想していなかったようで、半空中で驚いた表情を浮かべ、目を見開き、隙を見せた。


華鬨ハナトキ。」


魔力を帯びた掌打が鬼を直撃。その一撃をまともに受け、壁に叩き込まれた鬼は血を吐いた。それでも、血で染まった唇は微笑んでいた。


「あは!素晴らしい!さすが我が嫁!」


鬼は立ち上がろうとしたが、崩れ落ちた。


「え?あれっ?」


「油断したね。鬼。どうやらあなたはあまり打たれ強くないようだね。素直に降伏しなさい。」


「どうやらおまえの言う通り、我の修行はまだ足りないようだな。だが、こんな状況にも備えてはいた。」


地面にうずくまる鬼の影が突如として広がり始めた。何かがおかしいと感じ、私は急いで影の範囲から飛び退いた。


「さっき手に入れたばかりで少しもったいないが…さあ、出でよ!『ドラゴニュートの幻像』!」


「っ!」


あるものが影からゆっくりと姿を現した。


それは巨大で、まるでドラゴンと人間の特徴を無理やり一つに混ぜ合わせたような生き物だった。


全身が黒い鱗で覆われており、その生物が鎌のような首を曲げて私たちを見据えている。その体から漂う黒い魔力は、手ごわい敵であることを示していた。


「そんなものを放って逃げるつもりか!」


「今回は、自分の敗北を認めよう。」


鬼は徐々に影の中へと沈んでいった。


「次はがっかりさせない。さらばだ!我が愛!」


「くそ!ううっ!」


ドラゴニュートの咆哮がアカネの抗議を掻き消した。顔を伝う冷や汗を感じながら、私は再び戦闘態勢を取った。


「どうやら、また厳しい戦いになりそうだ。」

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