第17話 油断大敵

「これで...!最後っ!」


立ち塞がるリザードマンを斬り倒し、アカネは長い息を吐いた。彼女を取り巻く赤い魔力は、始まりの時と比べてかなり減っていた。


私もその場で呼吸を整えた。こんなに長い時間「徒桜アダサクラ」を維持したのは初めてで、体力の消耗をはっきりと感じていた。まだ息切れするほどではないけど、疲れは確かに蓄積していた。



<コメント>

『二人とも、お疲れ様!』

『会場からはかなり離れているね。アナウンサーの声も聞こえない。』

『初めてマヨイちゃんが汗を流すのを見たよ。ずっと全力疾走してきたんだね。』

『こんなに連続で戦って大丈夫?』

『二人とも、気をつけてね。』

『頑張れ!勝利は目前!』



配信ドローンが映し出すコメントに目をやりながら、私は後ろの通路を振り返った。


「レンさんたちはまだ追いついてこないみたいだね。」


「ふん、いつでも追いつけると思っているんだろうね。レンお兄様は本当に私をなめてる。」


少し不機嫌そうに口を尖らせながら、アカネは額の汗を拭いた。


「でも、ここが最後の関門だよ!彼らが来る前に中のボスを倒せば、勝利は私たちのもの!」


「…中には何のモンスターがいるの?」


「ここの後ろには『ドラゴニュートの幻像』がいるんだ!ゴーレムみたいなもの!私とマヨイちゃんなら問題ない!」


「…勇崎さんがそう言うなら。」


「うん!最後まで全力を尽くそう!」


そう言って、アカネは部屋の扉を開けた。私は突然の光に目を細めた。


「…これは、祭壇さいだん?」


目の前に現れたのは、異様なスタイルの部屋だった。先の部屋とは明らかに違い、こちらはもっとテクノロジックな感じがする。管路が中央の円形の台へとつながっているように見える。


「これは魔法科学というべきか、マジックパンクというべきか…ここは前とは全然違う感じがするね。」


「でしょう!初めて見たとき、私もすごく奇妙だと思った。多分、この最後の部屋には何か特別な意味があるんだろうね。」


「へぇ。」


「とにかく!私たちが中央の台座のあれを倒せばいいんだ…あれ?」


アカネは意気揚々としていたが、首を傾げて、まるで頭に大きなはてなが浮かんでいるかのようだった。


「台座に…何もない?」


「っ!」


ドキリと心臓が縮み上がる。良くない予感が湧き上がった。


「勇崎さん!急いで門の外へ!」


「…?……っ!!!」


アカネは最初は疑問げな表情を浮かべていたが、すぐに何かに気づいたらしい。


私たちは急いで振り返ったが、大門は瞬間的にバタンと閉まった。そして、青い光が錠前の模様となって門に広がった。


私は門に触れようとしたが、触れる前に押し返すような力を感じた。


「拒絶、強化、反射、封印か…厄介な魔法だ。」


「ここは私の超技で…!」


「やめた方がいい。うまくいかなかった場合、勇崎さんの技が反射して私たち自身にダメージを与えかねない。」



「その巫女が言った通りだ。その扉はお前たちには無傷で開けられない。」



第三者の声が私たちの議論を遮った。急いで振り返ると、先ほどまで何もなかった祭壇に人影が現れていた。


それは妖艶な少女だった。


少女は質素な衣と袴を着ている。肩までの長さの、紫の光を反射する黒髪を持ち、額から上に向かって赤い先端のある白い角が二本生えている。少女の金色で細長い瞳は私たちをじっと見つめている。一つの黒い、コウモリの翼をはためかせる配信用ドローンが少女の側に浮かんでいる。


「配信用ドローン?ダンジョン配信者?でも…」


「ちっ…鬼か。ここにいたはずの魔物は奴にやられてしまったようだ。」


「え?どういうこと?マヨイちゃん?」


「正解。」


鬼の桜色の唇がわずかに上がり、とても楽しそうな様子だった。



<コメント>

『鬼!?』

『鬼?あの伝説の戦闘民族か?』

『あの魔族とも人族ともつかない少数民族が!』

『おお、美少女。でもなんだか少し怖い…』

『プレデターの雰囲気がするな。』

『この子の周りにも配信用ドローンが浮かんでる。ダンジョン配信者なのか?』

『いや、少なくともこの国の配信者じゃない。』

『こんな人物がいれば注目されるはず。』

『配信用ドローンを持つ鬼?最近の配信者狩りがこの人物なのでは?』

『何?そんなことがあったの?』



「もともとはこの国の王子に会うために来たんだが、ここに着いたのが二人の小娘だったとはな。最初は少しガッカリした。」


鬼は舌を出して唇を舐め、獰猛な笑みを浮かべながら鋭い牙を見せた。白い顔に赤みを帯び、強烈な殺意を漂わせている。


「だが!その狐耳にその黒髪、その気迫!なるほど、お前は聖剣の守護者か!わざわざこの場所に何日も潜んでいて良かった!退屈を我慢してようやく報われたわ!」


「っ!」


鬼の笑みに直面して、私の隣にいるアカネは戦闘態勢を取った。そのような情熱的な鬼に対して、私はため息をつかずにはいられなかった。


「鬼ってほんと面倒なやつら。そんなに聖剣が欲しいの?」


鬼は片眉をひそめた。


「聖剣?心外だな。そんなつまらないものは必要ない。単なる鋭い古い鉄くずだ。鬼にとっては何の価値もない。」


鬼は目を細めて笑い、私を指差した。


「我々が求めているのは、お前だ。」


「は?」


「お前たちは、ただのつまらない誓いでそのくだらない剣を千年も守ってきた伝説の武家だ。初代勇者が死んでから、各国がその剣を奪い合った。でも、何千人もの強者が挑んでも、その門前で阻まれた。守護者の認可がなければその鳥居には入れない。これは鬼の国では有名な話だ。」


「はあ。だから、聖剣なんて目的じゃなくて、ただ私たちと戦いたいだけ?ほんとつまらない。」


「つまらないって?そうか。お前に挑んだ者は、たぶん無名の雑魚ばかりだったからな。」


不思議と、鬼はうなずいて同意したように見えた。


「でも、我は違う。心配するな、今回はきっとお前を満足させることができる。」


「相変わらず話が噛み合わない…だから鬼が嫌いなんだよ。」


私はアカネの後ろに下がり、彼女を前に押し出した。


「え?ちょ、ちょっと!マヨイちゃん!?」


「そんなに戦いたいなら、この勇崎さんはどう?この子は聖剣を抜いた、正真正銘の初代勇者の子孫だよ。」


「ふん。勇者か。見た目がちょっとブスで、背が低くて、頭もあまり良くないようだが、まあいい。お前の推薦なら、アピタイザーとして試してみるか。」


「はぁ?」


アカネの額に青筋が浮かんだ。


「先から自分勝手に話して!私のマヨイちゃんを舐め回すような視線で見て!もう我慢できない!」


「はは!その殺気!それでこそ面白い!」


鬼は前後に手を広げ、舞うように鉄扇を開いて戦闘の構えを取った。


「我が名は夜華リンドウ!いざ、参る!」

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