第16話 疾走乙女、三倍速

「おおお!スタートラインを駆け抜けたのはアカネ選手のチームだ!このままリードを保つことができるのか!前方には最初の障害が!」


「勇崎さん!」


開始わずか数分で、疾走する私たちの前には陣形を組むリザードマンが現れた。剣や盾を手に、私たちに向かって蛇のように舌を出す彼ら。中には、特に大きく見える指揮官らしい個体が私たちを指さした。


「私が先頭を切って突っ込む!」


「わかった!」


「行くぞ!ええいっ!」


衝突。


赤い光を引きずりながら、アカネはリザードマンの陣形に突っ込んだ。ボウリングのピンのように、リザードマンたちは空中に吹き飛ばされた。


「マヨイちゃん、漏れた奴らを頼む!」


「言われなくても!」


一つひとつ地面に落ちてくるリザードマンを打ち砕きながら、アカネは指揮官に向かって突進した。指揮官がアカネに向かって曲刀を振り下ろすが、アカネは身を回してそれを避けた。


赤い光に包まれた剣が交錯した瞬間、指揮官は二つに切られた。


超技ちょうぎ!勇者の一撃!」


横一線の赤い衝撃波が残ったリザードマンたちを一掃した。振り返らずに、私とアカネは徐々に粉になるリザードマンたちを越えて、さらに前に進んだ。


「圧倒的だ!これほど圧倒的だったのか!アカネ選手とパートナーのマヨイ選手は、リザードマンたちの防御を一撃で突破した!Cランクの魔物で構成された軍団が二人の前ではまるで力なき赤子のよう!しかし!増援が登場した!」


通路から再びリザードマンたちが現れた。リザードマンたちは胸を膨らませ、彼らの口から巨大な火球が吹き出された。


「防御は私に任せて!」


「了解!スイッチ!」


ほとんど一面になった火球の前に、私はアカネの前に加速して走った。私たちに当たりそうな火球を計算しながら、私は両手を組んだ。


鬼灯ホオズキ!」


青い狐火が飛来する火球を迎撃した。空中で、青と赤の火焰が花火のように連続して爆発した。火の粉と煙を突き進みながら、私たちにファイヤーボールを撃ったリザードマンたちの前に立った。


「スイッチ!」


「うん!」


リザードマンたちが慌てて突き出した攻撃を手で受け止めと、私の後ろにいたアカネが私の隣に切り替わった。


鋭い剣光が私の技で重心を失っ敵を通り過ぎ、リザードマンたちは一斉に黒い粉塵となって崩れ落ちた。


私たちを通り過ぎた火球はようやく地面に落ち、爆発の残風が私たちの髪を吹き上げた。


「アカネ選手とマヨイ選手!止められない勢い!リザードマン、撃破!」



<コメント>

『おお...すごい!』

『強ぇ!』

『無敵だ!』

『他のチームは遥か後方に置き去りだ!』

『この二人はまるで高速で進む戦車だね。』

『俺は、アカネとマヨイちゃんの動きがほとんど見えない。』

『気がついたらリザードマンは灰になっていた。』

『なるほど。これが伝説のヤ〇チャ視点か?』

『ボスの部屋が目の前だ!』



「マヨイちゃん!ボスの部屋に着いたよっ!」


「はっ!」


私は鉄山靠てつざんこうで前にある金属製の大きな扉を突き破り、ボスの部屋に突入した。私たちが入ると、巨大な部屋の壁にあるたいまつが次々と点灯していった。光が徐々に明るくなるにつれて、部屋の中央で待ち構えていたものの姿も徐々にはっきりとしてきた。


闇から赤い光を放つ目が現れた。


「マヨイちゃん!気をつけて!」


回避。次の瞬間、私たちがいた場所に巨大な尾が叩きつけられた。


目の前には、鱗に覆われた巨大な生物が3体、私たちに向かって耳をつんざくような咆哮を上げた。


「レッサードラゴンか!しかも3体もいるな!」


「あはっ!ちょうどいい!レースが終わった後、もう一度ドラゴンの尾を食べたかったんだ!」


野性味あふれる笑顔で、アカネは彼女の剣を構えた。集中した魔力が剣をライトセーバーのように輝かせる。


「同感だ!はっ!」


私は一体のレッサードラゴンが振り下ろしてきた爪を技でそらし、一旦はその場を離れた。


塵が舞い上がる中、アカネは振り下ろされた腕を踏み台にしてレッサードラゴンの肩まで駆け上がった。


高く跳び上がったアカネは、空中で回転を始める。


超技ちょうぎ!回転!勇者の!ギロチンの一撃!やあっ!」


アカネの雄叫びと共に、赤い新月の衝撃波がレッサードラゴンの首を貫いた。嘆く間もなく、首を失ったレッサードラゴンの体が大地にどっしりと落ちた。



<コメント>

『は?」

『一撃で!?』

『スゲー…』

『二人のスイッチが流れるようだな。まるで心が通じ合っている。』

『レッサードラゴンが一撃で倒された!?前はもっと苦戦してたのに!』

『見たか、イケメン野郎!これが私たちのパワーを集めたアカネの実力だ!』

『そうだ!私たちの悲願を背負ったアカネは負けない!』

『おおお、その勢いだ!あと2匹だ!行け!』



「よくやったね、マヨイちゃん!次!」


「ーーなるほど。これが今のアカネの実力か。我々も負けられないね。」


『「!」』



アカネと次の敵に向かおうとした瞬間、なじみのある爽やかな声が響いた。


「リリア。」


「アブソリュート、ゼロ!」


瞬く間にボス部屋の温度が急激に下がり、咆哮する二匹のレッサードラゴンの鱗にも霜が降りた。


反応する間もなく、ある人が動けなくなったレッサードラゴンたちに向かって歩いて行った。


「超技。勇者の豪撃ゴウゲキ。」


目を開けられないほどの魔力の光とともに、二匹のレッサードラゴンが瞬時に塵になった。颯爽と剣を鞘に収め、レンが私たちに微笑みかけた。


「やあ。アカネ、マヨイさん。また会ったね。」


「レンお兄様!いつの間に!」


「スタートの時にアカネがあの速さで飛び出してきたのは驚いたよ。追いつけて良かった。」


「っ。」


「久しぶりに見たけど、アカネがこんなに強くなっているとは。もうあの小さかったアカネじゃないね。そして。」


レンは私に視線を向けた。


「これが伝説の聖剣の守り手か。その強さ、ちょっと興味があるな。」


レンの言葉を聞いて、レンの後ろにいたリリアの眉がピクッと動いた。


アカネは私の前に立ち、レンの視線を遮った。


「むっ!二匹のレッサードラゴンを倒したからといって、私たちに勝ったわけではないよ!試合はまだ終わってない!」


「わかってる。今のアカネは侮れない相手だ。お互いに全力を出していこう。」


「ふっん!行こう、マヨイちゃん!」


「…ええ。」


振り返ると、レンが余裕を持ってこちらに手を振っている。吞気の王子に対してリリアは私を射殺しようとするような目でじっと見ていた。


「なんだか、面倒になってきた。」


アカネに続いて、私は再び走り出した。

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