第15話 突撃のときは声をあげよう

「行くぞ!みんな、私に元気をわけてくれ!」



<コメント>

『>10,000G おおおお!行け!』

『>10,000G あのクソイケメンには絶対負けない!』

『>12,000G 俺の全エネルギーを持って行って!さよなら、今月の残業代!』

『>13,000G 財布の中身が空になろうと、戦う意志さえあればずっと戦い続ける!』

『>10,000G 行け!アカネ!』

『>10,000G 駆逐してやる!この世からイケメンを...一匹残らず!』

『>17,000G 自分を信じるな!オレを信じろ!お前を信じるオレたちを信じろ!』



「おおおおおお!感じる!この力!皆ありがとう!マヨイちゃんは…私が守る!」


「…あんたたち、バカァ?」


ダンジョンの入り口、スタートライン。


アカネの全身からは蒸気のような赤い魔力が湧き出ていて、そばの配信ドローンはまるで機関銃のように赤いスパチャを連発していた。


前世の漫画に出てくるキャラクターが力を集中させる時のように、アカネの髪は魔力の渦に巻き上げられ、炎のように舞っていた。


「…って、聞いてないか。」


私がため息をつくと、後ろからは男たちの雷のような歓声が上がった。


「おお!アカネ選手の全身から魔力が爆発しています!スタートから全力疾走するつもりのようです!今日の彼女はどんなRTAを見せてくれるのでしょうか!」


アナウンサーの興奮した声がマイクを通じて伝わってきた。


「勇者の子孫としてもう一つ注目されているチームがあります!ご覧ください!」


私は思わず声に導かれて横を見たが、女性観客たちの歓声に眉をひそめた。


「ダンジョンのプリンス!勇者の国の誇り!レン選手!」


レンは観客に手を振りながらスタートラインに到着した。彼は私たちに気づき、爽やかな笑顔で頷いた。その笑顔を見て、アカネはさらに歯を食いしばり、額には青筋が浮かんでいた。


「マヨイちゃん。」


「なに?」


「私、勝ちたいんだ。」


「当たり前だろ。私も勝ちたい。だって、一等賞には30万Gもの賞金があるんだから。」


「だろうね。これから私は最大出力で一気に突っ走る。」


「はぁ。」


「それてちょっと相談があるんだ。」


アカネはエメラルドのような瞳で私をじっと見つめた。


「今日みんなが投げてくれたスパチャを全部マヨイちゃんにあげる。代わりに、マヨイちゃんが最初から全力で私の後ろについて来てほしい。マヨイちゃんにはできるよね?」


「——へえ。」


アカネの提案を聞いて、私は思わず口角を上げた。


「勇崎さん、面白いこと言うね。全部、って?」


「うん、全部だよ。それとも、マヨイちゃんの全力、私に追いつけないかな?」


「安い挑発だね。いいよ、その条件なら。」


「ありがとう。」


私たちが合意に達したその瞬間、アナウンサーは会場の雰囲気を最高潮に高めた。


アナウンサーのカウントダウンの声の中で、私はアカネに問いかけた。


「ねえ。」


「マヨイちゃん?」


「どうしてそんなに真剣なの?リスナーの勝手な騒ぎで、あなたの兄さんに勝たなきゃいけないとか。そんなの気にする必要ないでしょ。」


「それはダメ。私は負けるのは大嫌いだし、マヨイちゃんにとっては些細なことに見えるかもしれないけど、それがみんなの期待なんだ。ダンジョン配信者として、みんなの期待に応えないわけにはいかないよ。」


「だから、そんなにコスパの悪いことをするの?あなたのその技、実際には体力をかなり消耗するんでしょ?」


「うん。使った後は次の日に全身筋肉痛になる。」


「なら。」


「私ね、マヨイちゃんにかっこいい姿を見せたいんだ。」


にひひ。アカネは笑った。


「だって、私。勇者だもん。」


「っ。」


いつもの口癖なのに、私は思わず息を飲んだ。


何故かアカネの子供っぽい顔には、息を呑むほどの妖艶さが混ざっていた。


「行くよ!マヨイちゃん!」


「ふっん。すぐに追い抜いてやるから。」


「それじゃ、私はもっと力を入れなきゃね!」


カウントダウンが終わると同時に、アカネは流れ星のように飛び出した。私も全身の魔力を動かし始めた。


「イチジク流、徒桜アダザクラ。」


青い魔力が私の体中から花びらのように流れ出し、空気に触れた瞬間に溶けて無形になった。目の隅でレンが驚いた表情を浮かべているのを見たけど、彼の視線は無視した。


体の底から熱が湧き上がるのを感じながら、私が力強く足を踏み出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る