狐娘のダンジョン疾走

第12話 備えあれば憂いなし

「仕事をうまくこなすためには、まず道具を整える必要があるの!だから!今日はスポンサーの装備屋さんに来たわ!装備新調、ハッピーなショッピングタイムが始まるよ!LET’S SHOPPING!」


「…イェーイ。」


「そしてこちらの方は今日のスポンサー!冒険者装備を専門に取り扱う古賀レナさん!」


「古賀グループに所属している古賀レナです。よろしくお願いします。」



<コメント>

『イェーイ!』

『おお、金髪の美人さんだ。』

『確かに、ダンジョン探索の装備と言えば、古賀グループが最初に思い浮かぶ名前よね。』

『あ、前にダンジョンでゴーレムに囲まれてた鎧のお嬢ちゃんか。』

『古賀家のお嬢様だったのか。』

『こんにちは、レナさん。』

『LET’S SHOPPING!』

『マヨイちゃんはともかく、武器が頻繁に壊れてたアカネは、もうちょっといい剣を買った方がいいわ。』

『これも何かの縁。』

『古賀家の装備を使ったことがあるけど、耐久性もいいし、メンテナンスもしやすかった。』

『フェス用の装備をここで買うのは正解だ。』



「早速始めよう!GO!GO!頼むよ、レナさん!」


「任せて。前にあなたたちのおかげで助かったから、今度は私が全力で最高の装備を紹介するよ。もちろん、可能な限り割引もするね。でも、その前に。」


金髪の少女レナが私に一礼して、サインボードを手に差し出した。


「私、あなたの大ファンです!サインしてくれますか?」


「え?」


突然のことで一瞬固まっちゃった。隣のアカネが嬉しそうに近づいてきた。


「いいよいいよ、問題ないよ!ここで私が最近練習した華麗な文字を披露するね!」


「あ、結構です。勇崎さん用のサインボードは用意してなかったんだ。」


「ひどい!?」



<コメント>

『www』

『結構ですwww』

『アカネのサインが欲しくないってどういうこと?w』

『ちょっと自己反省した方がいいのではw』

『アカネよ、空気読んでwww』

『気にするなよ。』

『ところで、アカネのサインって本当に華麗とは言えないよね…正直、文字と認識できるだけで充分すごい。』

『マヨイちゃんが戸惑っててめちゃくちゃかわいい。』

『初めてファンにサインを求められたみたいだね。』

『頑張れ!マヨイちゃん!』



「えっと、わかった。」


サインボードを受け取り、私は慎重に自分の名前を書き込んだ。なんだか少し照れくさい。


「はい。どうぞ。」


「ありがとうございます!大切にします!」


「じー…」


アカネは笑顔のレナさんをじっと見つめたが、レナさんは全く気にしていない様子だった。


「失礼しました。それでは、改めて始めましょう。」


我に返ったとき、レナさんはすでに私の手を引いていた。


「マヨイさんって呼んでもいいですか?私のことレナでいいから。」


「え?あ、うん。」


「ちょっと!なんでマヨイちゃんはすぐにOK出すの!?私の名前を呼ばなかったのに!」



<コメント>

『それはお前、最初から好感度がマイナスだったからだよwww』

『www』

『人の家を壊した女が何を言ってるんだwww』

『がんばれ、アカネ。ライバルが現れたみたいだね。』

『ところで、レナさんの贔屓がひどいね。これはガチだろう。』

『笑ったwww』

『アカネ、ドンマイ!』

『> 3,000 慰謝料。』



「マヨイさんは格闘タイプに見えますね。グローブや篭手とかはどうでしょうか?こんな綺麗な手が傷つくのはかわいそうですよ。」


「うーん...技の感覚に影響するから、ちょっと遠慮したい。」


「そうですか。ところで、マヨイさんはいつも巫女服でダンジョンに潜っていますね。特別な理由がありますか?」


「あ、特別な理由はないんです。ずっとの習慣で。布も動きを妨げないし。」


「それなら、特製の衣裝はどうでしょう?強化した布で作られていて、軽くて動きを妨げません。デザインもいろいろありますよ。」


「はあ。」


「マヨイさんはかわいいなら、色々なコーディネートを試してみてください。巫女服も特徴があっていいけど、ダンジョン配信者としては、もっとバリエーションがあった方がいいですよね。」


「え?あ、シンプルなものでいいです…」


「こちらに、ちょうどマヨイさんにピッタリのがあります。」


「でも…」


「まぁまぁまぁまぁまぁ。」


レナさんが指を鳴らすと、店内に突然いくつかの女性店員が現れた。彼女たちは私をしっかりと掴んだ。


「マヨイさんを更衣室にご案内~~~」


「マヨイちゃん!?」


「勇崎さんはこちら。覗き見するなんて思わないでください。」


「は、はあ!?見たくないって!全然興味ないから!」



<コメント>

『www』

『アカネ、お前の声が震えてるよw』

『マヨイちゃんの後を追って、ドローン君!頑張れ!』

『ああ、動かないのね。アカネを追う設定みたい。』

『くそう。』

『一生の遺憾だ。』

『せめて着替える時の摩擦音だけでも…』

『お巡りさん、ここに変態がいます。』



「えっ、待って!そこは脱がないで!」


「まぁまぁまぁまぁまぁ。お客さんは本当に素晴らしい体をしていますね。」


「ああう!」


「本当に。肌がこんなに白くて、ウエストも細い。どんな食生活してるの?」


「ひっ!」


「尻尾も耳もふわふわで可愛いね。」


「わあっ!」


更衣室に引っ張り込まれると、店員たちがしばらく私の体を好き勝手に触ってきた。気がついたら、巫女服はもう脱がされてて、あっという間に新しい服に着替えさせられてたんだ。


店員たちが更衣室のカーテンをサッと開ける。そこには目を丸くしたアカネと、うれしそうに笑うレナさんがいた。


「あら。ミニスカートと合わせたゴスロリスタイル、なかなかいいじゃない。」


「えっ。かわいい。神。」



<コメント>

『おお!』

『これはこれでいい感じ!』

『めっちゃ可愛い!』

『顔が赤い!慣れない服を着て顔が赤いよ!』

『スクリーンショットした。』

『なるほど。一味違う味わいだな。』

『やっぱりマヨイちゃん素材がいいから、何を着ても似合うよね。』

『素晴らしい。』



「服を返して!このセットはスカートの下が風通しが良すぎて落ち着かないの!」


「どうやら満足していないのね。じゃあ、次のセットをどうぞ!」


「えっ。」


反応する間もなく、店員たちは再び私を捕まえた。こんなスピードなら、普段なら余裕で避けられるのに。


レナさんの笑顔と店員たちが持っている数セットの服を見て、私は絶望を感じた。

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