第11話 重大発表

「よいしょ。よいしょ。よいしょ。」


朝の霧の中には、小柄で緑の服を着て、ヘルメットをかぶった少年少女たちがいた。


彼らは自分たちの体格とは不釣り合いな力で、さまざまな建設用具を担ぎながら、神社の前で忙しく働いている。


神社が少しずつ修復されていくのを見て、私は心の中で安堵の息をついた。


「うむうむ。本日も河童どもが勤勉に働きおるな。」


「おはようございます。ババ様。」


「おはよう、マヨイ。」


いつの間にか、ババ様がそばに現れていた。金色のしっぽを揺らしながら、鳥居を眺めて嬉しそうに目を細める。


「マヨイのおかげで、神社が再び新たになった。こんなに新しい鳥居をもう一度見られるとは思わぬでおった。かつてあの人がこの神社を妾に譲ったときのようじゃ。これもすべて、汝のおかげじゃ。」


「ババ様こそ。私たちに貴重な酒をくれてありがとうございました。美味しかったよ。」


「そうじゃろう、そうじゃろう。あの酒は昔、あの人を喜ばせんと作ったものじゃ。あの人も酒を好んだが、酒豪ではなかったな。」


ババ様は懐かしげな表情を浮かべた。


「まあ、今は趣味で時折作る程度じゃ。喜ばせたい人ももはやおらぬからな。」


「そのお酒はババ様が初代勇者のために作ったものだったのか。」


「うむ。その時はまだ若かったわい。」


私とババ様は、静かに並んで河童たちの作業を見守っていた。しばらくして、ババ様が口を開いた。


「マヨイよ、この世代の勇者をどう思うかね?」


「どう思うって…まあ、良くも悪くも、とてもエネルギッシュな人だね。」


「勇者と共におると、楽しいか?」


「?ババ様がどうしてそんなことを聞くのかはわからないけど、まあ、楽しいかな。お金を稼げるからね。」


「勇者との冒険そのものが楽しいかどうかを聞きたいんじゃ。」


「どうだろう。アカネさんはいつも元気で、自信に満ち溢れていて、夢を持っているみたい。普段はちょっとドジだけど、大事な時には力を発揮する。彼女のことがよくわからない。でも、一緒にいると退屈しないことは確かだね。」


「だろうね。勇者とはそういうもの。常に活力に満ち、人々を先導し、前へと導く。どの時代においても、勇者はそうじゃった。または、そういう特質を持つ者だけが勇者と呼ばれるのじゃ。だから我々が彼らに惹かれるのも、ごく自然なことじゃよ。」


「そう?私にとってアカネさんが特別に魅力的だとは思わないけど…」


「はははは。マヨイにはまだ早いかもしれんな。」


「はあ…」


そんなババ様の言葉を心の中で噛み締めていると、結界の中に人が入ってきたことに気づいた。


「この気配は…」


「おはよう!マヨイちゃん!遊びに来たよ!」


アカネは大はしゃぎで跳ねながら、手を振り、元気よくこちらに走ってきた。


「はあ。勇崎さん、ここで走らないでください。今、工事中ですから。」


「あはは、つい興奮しちゃって。あ、おばあちゃんもおはようございます!」


「うむ、おはよう。元気そうで何よりじゃ。」



<コメント>

『おはよう!』

『おはよう!』

『マヨイちゃん、おはよう。』

『あれ?この子って誰?さっきアカネが彼女のことをおばあちゃんって呼んでた?』

『のじゃロリだ!』

『ロリロリロリロリ!』

『おおおお!』

『お巡りさん、こっちです。』

『あれ?マヨイちゃんがアカネの呼び方をまた勇崎さんに戻したね。』

『本当だ。酒を飲んだときは名前で呼んでたのに。』

『気づかないうちにまた好感度を下げちゃったね。』



「えええ!?どういうこと!?マヨイちゃん!」


「さあ。全く記憶がないな。もしかして、リスナーたちの幻覚かもしれない。」


「えー、冷たい!私の名前を呼んでよ!」


「いやです。」


「むぅーー。」


「はあ。それより、勇崎さん、何か用?」


「あ、そうだった。」


アカネはポケットからスマホのようなデバイスを取り出した。少し操作すると、花火な音とエフェクトと共に、大きな画像が投影された。


「重大発表!」


えっへん。アカネが自慢げに胸を張った。


「なんと!なんと!マヨイちゃんと私、来週開催のダンチューバーフェスに招待されたの!イェーイ!」



<コメント>

『マジで!?』

『ふぁwww』

『まさかのダンチューバーフェス参加!?』

『すげぇ!フェスに参加できるなんて!』

『イェーイ!』

『おめでとう!』

『おめでとう!これでアカネもマヨイちゃんも期待されてるってことだね!』

『>5,000 フェスデビューおめでとう!』

『>2,000 まさかの直接招待だと!?』

『>10,000 おめでとう!』

『マヨイちゃんはまだ何が起こっているのか把握してなさそう。』

『頭を傾げる姿が可愛い。』



「はぇ?ふぇーす?」


「そう!この国最大級の!年に一度のダンジョン配信イベント!潜在能力とエンターテインメント性を持ったダンジョン配信者だけが厳選されて参加できるんだ!つまり、私たちは今、時代の最先端に立っているんだ!イェーイ!」


「はあ。すごいことらしいね。」


「すごいだけじゃない!これはこの国で最も大きなイベントだよ!そして今回のテーマはRTA!各チームは全力を尽くしてダンジョンを攻略し、指定された階層まで到達して、階層ボスを倒す!」


「はあ。」



<コメント>

『やっぱりいつもの温度差www』

『フェスに出席できる配信者は5%以下だ。招待されるってことは、将来が安泰ってことだね。』

『マヨイちゃんはまだこの事の重大さを理解してないみたいwww』

『あの配信用ドローンすら知らなかったマヨイちゃんがフェスに出席か。』

『いよいよか。』

『今回のテーマはRTAか。どんなダンジョンが選ばれるんだろう。』

『楽しみ。』



「むっ、マヨイちゃんの反応が冷たすぎるよ!」


「そう言われても…そのフェスで勝ったら、何かいいことあるの?」


「いいことって…参加できるだけで最高のメリットだよ!注目度がめちゃくちゃ上がる!まあ、付随する報酬があるとしたら、RTAの総合評価で第一位になると、賞金が出るって聞いたことあるけど。たしか30万Gだったかな?」


「勇崎さん、何を待ってるんですか。さっさとダンジョンで訓練しに行きましょう。」


「え?あれ?待っ、待って!」


私がアカネの襟を掴んで引っ張り始める。


「ババ様、ちょっと出かけてくるから。その間、神社のことお願いね。」


「ははは。気をつけてな、怪我をせんように。まあ、汝のことじゃ、心配はいらんかもしれんがな。」


「はい!賞金、しっかり稼いできますから!」



<コメント>

『www』

『賞金の話を聞いたら態度が変わったw』

『その目は本気だ。』

『神社の修繕費はもう確保できてるのに、それでも賞金に執着してるなんて、もともとお金が好きな性格だったかも?』

『とにかく、やる気があるのはいいことだ。』

『二人とも頑張ってね!』



「おっ!よくわからないけど、マヨイちゃんと一緒に頑張るよ!イェーイ!イェーイ!おっ!」


「勇崎さん、もう少し静かにしてください。」


「ひどい!?」


三十万G、待ってろよ。

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