第10話 打ち上げ配信

「とういうわけで!打ち上げ、始まるよ!イェーイ!」


「…イェーイ。」


「もう、マヨイちゃんもっと楽しまなきゃ!今はマヨイちゃんの初配信成功のお祝いなんだから!もっとハッピーに!」


「はあ。どうして勇崎さんはそんなに元気なの。」



<コメント>

『イェーイ!』

『イェーイ!』

『まあ、どこでも元気いっぱいなのはアカネの長所だよね。』

『>5,000G マヨイちゃんの初ダンジョン配信完了おめでとう。』

『振り返ると、本当に波乱万丈な一日だった。人助けもしたし。』

『>10,000G お二人ともお疲れ様!』

『しっかり自分を労ってね。』

『おつカネ』

『おつカネ』



「イェーイ!おつカネ!みんなに説明するね!今、私たちはギルドのVIPルームにいるの!そして、見て!この豪華なご馳走を!」


アカネは得意げに椅子に腰掛け、配信用ドローンにテーブルを見せつけた。


「素晴らしいでしょ!特にこの焼肉!これ、ドラゴンの尻尾なんだよ!さっき出されたばかりでまだ熱々!めちゃくちゃ美味しそう!」



<コメント>

『ドラゴンの尻尾!?』

『それって超高級なダンジョン食材じゃないか。』

『え、ドラゴンの尻尾って食べられるの?』

『食べられるよ。しかも美味しいんだ。』

『前に一度食べたことあるけど、お酒にめちゃくちゃ合うんだよね。』

『飯テロ配信か。』

『くそ、めっちゃ美味しそう。』

『画面越しにでもその香りがする気がする。』

『見てるだけでお腹が空いてきた。カップラーメン作るか…』



「そして!これがクライマックスだ!」


ドン!アカネは古い酒瓶をテーブルの上に置いた。


「マヨイちゃんのおばあちゃんからの、金狐百年大吟醸きんきつねひやくねんだいぎんじょう!」



<コメント>

『金狐!?』

『うおお!』

『本物!?』

『金狐百年!?』

『まさかの金狐百年!?』

『マヨイちゃんのおばあちゃん、こんなもの持ってたなんて。どんな人なの!?』

『どうしてみんな、ドラゴンの尾よりも反応が大きいんだ?そんなに凄いお酒?』

『お酒に詳しくない。詳細を教えて。』

『伝説の中で、百年に一度しか出ない、幻の酒だ!』

『今夜の配信でこんなものが出るなんて…』

『オークションでも手に入らないお酒が…』

『なんだかめまいがする。』

『俺今、伝説を目撃してるんだな…』

『ところでアカネ、お前酒弱いよな。これ飲んで家に帰れるのか?』



「お酒には詳しくないけど、すごく凄いものらしい!とにかく、マヨイちゃんのおばあちゃん、ありがとう!」


「ババ様があなたたちと連絡を取っていたなんて…」


「うん!一生懸命なマヨイちゃんへのちょっとしたお祝いだって。」


「ババ様…」


心の中で遠くのババ様に感謝すると、アカネはワクワクしながらぐい呑みを取り出した。


「あ、さっき誰かがこれを飲んでどうやって家に帰るか聞いてたけど、マネーちゃんがもうギルドで部屋を予約してくれてて、外で待機してるから、今日はもし酔いつぶれてもそのまま寝ることができるんだ!イェーイ!」



<コメント>

『イェーイ!』

『イェーイ!』

『イェーイ!』

『マヨイちゃんの家は聖剣を守る名家だから、そんなものがあるのかな。』

『マネーちゃんwwww』

『>2000 用意周到なマネーちゃんに。』

『ところで、あんなもの売れば神社の修理資金になりそうだけどね。』

『何言ってるの。お前なら売る気になる?』

『やっぱり特別な日に使うべきだな。』

『なんか、マネーちゃんが可哀想になってきた。』

『飲みたい。』

『マネーちゃんにも少し残しておいてね。』

『俺も酒を用意しようかな。ビールだけど。』

『私の手元の酒も開けよう。』



「わかってるよ!もうマネーちゃん用に取ってあるから!だからマヨイちゃん、思いっきり飲もうぜ!」


「でも、私たちまだ未成年だけど、飲んでいいの?」


「…?マヨイちゃんが何を躊躇ってるのかわからないけど、もちろん問題ないよ!」


「はあ…」


どうやら以前の概念に縛られているらしい。この世界では未成年の飲酒に関する規制はないようだ。


アカネは私の前にぐい呑みを置き、そこにお酒を注いだ。


ぐい呑みを手に取る。お酒が灯りに反射して輝き、よく見ると中に金色の光点が浮かんでいるようだった。


「それじゃあ、もう一度!マヨイちゃんの初配信成功を祝って、乾杯!」


「…乾杯。」



<コメント>

『乾杯!』

『乾杯!』

『乾杯!』



私はグラスの中のお酒を少しずつ味わった。独特の淡い香りが鼻を抜け、舌は温かく滑らかな口当たりに包まれる。飲み始めは味が淡いと感じたが、後味はとても豊かで心地よい。なるほど、これが幻の酒と称される資格があるわけだ。


アカネは一気にお酒を飲み干した。


「うまい!」


「ええ、確かに良いね。」


「そして、ドラゴンの肉だ!」


アカネはドラゴンの尾の肉を一切れ切り取り、口に運んだ。


「すごく美味しい!」


「なるほど、これがドラゴンの肉か。確かに焼きカエルより美味しいね。」


「でしょ!?」



<コメント>

『うらやましい。』

『アカネは「美味しい」しか感想ないのかw』

『本当に美味しいものの前では、語彙力も貧弱になるよね。』

『貧弱なのはアカネの語彙力の可能性。』

『反論できないwww』

『アカネと比べると、マヨイちゃんの所作がとても優雅だね。』

『焼きカエルwww』

『マヨイちゃんは普段から焼きカエルを食べてるの?あれ、食べるものなの?』

『ところで、二人とも食べることに夢中になりすぎだよ、今日のダンジョン攻略の感想を聞かせてよ。』

『アカネ、もう酔ってる?』



「酔っていなーい!でも確かに、感想を言う時だね!」


アカネは再びお酒を飲み、顔に赤みを帯びさせた。


「私ね、マヨイちゃんに会えて本当に嬉しいの!聖剣のことも、ミスリルゴーレムのことも、人を助けたことも!マヨイちゃんと出会ってから、何もかもがもっと面白くなった気がするの!」


「そう?」


「うん!まだ出会ったばかりだけど、とても濃い時間を過ごしている気がする!これからもっともっと面白くなる予感がするよ!一緒に目標に向かって進もう!この国で一番のダンジョン配信者になれるはず!」


「私はただ、少しでも家のためにお金を稼ぎたいだけだけど。」


「ちっちっちっ。マヨイちゃんは考えが甘いな。目標はもっと遠くに設定しなきゃ!目標を持って頑張るのと、目的もなくやるのとじゃ、やっぱり目標がある方がいいでしょ!」


「…そうかもしれない。」


「でしょ!それにマヨイちゃんと聖剣がいれば、世界征服だって夢じゃない!」


「ちなみに、世界征服ってどういう意味?」


「うん!私は、この世界の全てのダンジョンを攻略して!天位の冒険者になるの!」


酒の勢いで顔を真っ赤にしているアカネは、だんだんと揺れ始めた。


「きっと、もっと冒険が、私たちを待っている。マヨイちゃん、一緒にいてくれる?」


「ええ。お金になるなら。」


「もう!またお金の話を!そういう意味じゃないって!でもまあ、今はそれでいい。」


「…」


「一緒に頑張ろう、マヨイちゃん…」


そう言い終わると、アカネはテーブルに顔をぶつけ、そのまま動かなくなった。



<コメント>

『ああ、やっぱり倒れちゃったか。』

『まだ数杯しか飲んでないのに。』

『お酒好きで酒量がないなんて。』

『マヨイちゃんは大丈夫かな。』

『顔は少し赤くなっただけだね。』

『アカネを早く寝かせた方がいい、風邪を引いたら大変。』

『でも、天位の冒険者か。』

『なかなか壮大な目標だね。』



私も少し酔っているのかもしれない。気がついた時には、もう手を伸ばして目の前のアカネの頭を撫でていた。


「ええ。一緒に頑張ろう、アカネ。」



<コメント>

『!?』

『てぇてぇ。』

『マヨイちゃんが初めてアカネの名前を呼んだ!』

『アカネが寝ている間に名前を呼ぶなんて。さてお前、ツンデレだな。』

『>10,000 尊い。』

『ところで、マヨイちゃんも酔ってる?』

『やっぱりお酒は人と人との距離を縮めるね。』

『俺今、伝説の瞬間を目撃してる。』



「はあ。何を言ってるのかよくわからないけど、今の気分はいいから、まあいいか。」


もう一杯お酒を飲んだ後、テーブルの上に並ぶ料理を見つめた。


「ところで、これ、全部私一人で食べなきゃいけないの?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る