第3話 門番の怒り

「待て!いきなり何するんですか!?」


「ちっ、殺せなかったか。」


「怖い!」


私の攻撃が当たらなかった手応えに、目の前の赤髪の少女を睨みつけた。どうやら少女は手にしていた半分の剣で私の攻撃を防ぎ、その勢いで後ろに跳ねていたようだ。しかし、その剣は私の攻撃に耐えられずに砕け散った。


少女は慌てて残った剣柄を投げ捨てた。



<コメント>

『速い!一瞬で目の前に!』

『でも、アカネの反応速度もなかなか。さすがは最年少でBランクに昇格したね。』

『凛々しい巫女さんだ。いいね。』

『まあ、その巫女さん、今はかなり怒ってるけどね。』

『どうして?』

『神社が破壊されたからじゃない?アカネ、戦ってる時は周りを全然気にしないからな。』

『ああ、そう言われると確かに。』

『早く謝れよ、バカネ。』

『いいぞ、続けて巫女さん!その無礼者に教訓を与えてやれ!』



「ええっ!みんなひどい!」


少女は自分の周りに浮かんでいる球体に向かって抗議した。その球体からはテキストが投影されている。しかし、その装置は戦いには影響しなさそうで、私は無視することにした。


少女は私に向かって手を合わせ、深く頭を下げた。


「ごめんね!ここを汚しちゃって。てへっ☆。」


「あ?」


一目で誠実さが足りないとわかる、片目を閉じ舌を出す少女の姿に、私の額に青筋が浮かぶのが分かった。



<コメント>

『あ。』

『あ。』

『あ。』

『本気で謝る気あるのか、アカネ。』

『ああ、油を注いでるな。』

『目が完全に氷点下だ。これはまずい。』

『アカネ、やめとけ。それは死ぬぞ。』

『真剣に謝れ!』



ようやく私の不機嫌さを察したのか、少女は慌てて手を振り始めた。


「え、ええっと?実はこれには、海よりも深い理由があるんです!」


「御託はいい。」


私は力を抜いて一瞬で踏み込み、縮地を使って少女の前に現れた。


「っ!」


「散れ。イチジク流、華鬨ハナトキ。」


「ファランクス!」


少女は焦る表情を見せつつも、間一髪で防御魔法を展開した。


まあ、その程度の防御魔法では無意味だが。


青い狐火を纏った私の掌打が少女の魔法の防壁に命中し、防壁は蜘蛛の巣のようにひび割れた。私は掌を捻じるように力を込め、轟音ごうおんと共に防壁は粉々に砕け、魔法の残骸が花弁のように宙に舞った。


吹き飛ばされた少女は地面を数回転してから跳ね起き、衝撃を受け流し立ち上がった。額から流れる血を拭いながら、再び戦闘態勢を取った。


「さっきのは何!?」



<コメント>

『あぶねー!』

『瞬間、体をひねって直撃を避けたか、よくやったアカネ。』

『これはちょっとまずいんじゃ…』

『ああ、血が出てる。』

『前にアカネが血を流したのはレッサードラゴンと戦った時だったな。』

『ダンジョン配信者の中でも頭の硬さと耐久力でトップクラスのアカネが血を流してる…』

『アカネの血も赤いんだな…ゴブリンみたいに緑だと思ってた。』

『つまり、今目の前の巫女さんは少なくともレッサードラゴン級?』

『まずいな。アカネの武器が全部壊れちゃった。』

『早くちゃんと謝れよ、バカネ!』



「謝りたいんだけどさ!でも!」


「戦いながら周りを気にする余裕があるとは。私も甘く見られたものだな。」


少女の隙をついて、私は彼女の周りに浮かんでいた球体を掴んだ。


「あっ!みんな!」


「そもそもこれは一体何だ……ん?」



<コメント>

『うわあああ!』

『捕まっちゃった!』

『距離が近い。あ、巫女さんのまつ毛が長い。』

『ガチ恋距離だね。』

『本当にごめん、うちのバカが迷惑かけて。』

『配信ドローンを知らないみたい。ちょと世間知らずかも。』

『マジ美少女。』

『かわいい巫女さん。』

『あ、ゴミを見るような目になった。』

『我々の業界ではご褒美です。』



「……」


球体から次々に投影されるテキストを見て、私は知らず知らずのうちにそれを握る手に力を込めた。



<コメント>

『おっと、視界が歪んできたぞ。』

『ノイズが増えてる!これはもしや!』

『潰される!』

『狐耳巫女さんのおててで潰される……最高。』

『 >10,000 G 巫女さんのおててに感謝。』

『これはアカネのチャンネルだから、巫女さんには届かないよw』



「本当にごめんなさい!!!」


少女が大声で叫び、私は思わず頭を向けた。少女は華麗に空中回転しながら土下座のポーズをとり、震える声で叫んだ。


「私、勇崎アカネです!聖剣の儀に参加するために来たんです!道中で魔物を見つけて、つい…!周りを気にせずに破壊してしまって本当に申し訳ありません!」


「……」


「その、その…!こちらで弁償しますから、どうか許してください!」


「……勇崎?」


ああ、この子は…明日、聖剣の儀式に参加する予定の、勇者だった。

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