第10話

「──ネコさん」

「はいはい。なんでしょう?」

「次の依頼ですが、また初級の依頼を受けますか?」

「ええ。まあ、解らない事だらけですので」

「左様ですか。薬草摘みの実績もありますし、ネコさんならランクを上げても良いと思うのですが・・・」

「自分の得意不得意がまだキッチリと解ってませんので無理してランクを上げるより堅実に行きたいので・・・地味な作業ですが、疎かにしてはいけないポイントですね」

「堅実なのですね?・・・では、次は鍛冶屋へのお使いを頼まれて頂けますでしょうか?」

「・・・鍛冶屋、ですか?」

「はい。武器の加工から強化まで様々な事をしているこの街の鍛冶屋の亭主もまた自動人形ですが、やや難がありまして・・・ですが、ネコさんならば、或いは・・・」

「え?そんなに気難しい人なんですか?」

「口では説明が難しいですね。直接、会ってみると良いかと思います。ギルドを出て西の通りに鍛冶屋があります」

「わかりました。ちょっとこわいですが、行ってみます」

「そう言って頂けますと助かります」


 そう言って受付の女性はボロボロの剣を持って来る。


「此方が依頼の品で御座います。改めて宜しくお願いします」


 私はそれを受け取ると早速、鍛冶屋へと向かう。

 鍛冶屋と言えば、連想するのは頑固親父がトンテンカンとハンマーで叩いている姿をイメージするのだが、私でも上手くコミュニケーションが取れるだろうか?──そんな事を思っていた時期が私にもありました。


「お帰りなさいませ、ご主人様♪」


 鍛冶屋に来て、第一声がそれだったので思わず入るのを躊躇ってしまった。

 性格に難があるのかと思っていたが、まさかのこっち系か・・・メイドタイプのアーティファクトが鍛冶屋の亭主とか予想外過ぎるだろう。


「ギルドの依頼で来ました。此方の剣を渡すように言われまして」

「は~い♪確かに受け取りました♪

 他には何か御用はありますか?──って、そのクレイモアはご主人様のものではありませんね?」

「え?ええ。ちょっと知人から譲り受けたクレイモアでして」

「そうでしたか・・・握りの重心や重みにまだクレイモアが馴染んでないようですね?・・・少し調整をしましょう。今回はギルドの依頼を通してキチンと来られましたので初回無料となっていますので金額についてはご安心を」

「・・・な、成る程。それは助かります」

「それでは調整に入りますので少々、お待ち下さい」


 そう言われてカウンターで座って、しばらく待つ。

 それにしても、メイド服を着て鍛冶屋とかなどをどうやってやっているのだろう?

 アーティファクトこと機械人形の製作者側の趣味か何かであろうか?


 う~ん。その辺りになると流石に謎だ。


 そんな事を考えながら待つ事、5分ほどしてから鍛冶屋の亭主が戻って来る。


「お待たせしました、ご主人様♪それではご一緒に──」

「へ?」

「あ。そう言えば、ご主人様ははじめてでしたね?・・・じゃあ、今日は特別ですよ?」


 そう言って鍛冶屋の亭主は手でハートの形を作る。


「萌え♪萌え♪キュン♪」

「え?な、なんですか、それ?」

「おまじないです。さあ、今度はご主人様も一緒に・・・せ~の」


「──も、萌え♪萌え♪キュン♪」


 ・・・あかん。これは死ぬ程、恥ずかしくてブレーカー落ちそうだ。


 え?この街の鍛冶屋はみんな、これをやっているのか?


 郷に入っては郷に従えと言う言葉が言語データに登録されているが、これは果たして慣れるのだろうか?


 そんな事を考えながら、私は鍛冶屋を後にする。


「行ってらっしゃいませ、ご主人様♪」

「あ、はい。行って来ます」


 ああ。いまならモノアイから涙が出そうな気がする。

 そんな感じでギルドに戻り、お使いが終わった事を伝える。


 因みにそれを聞いていたヴォルス君が大爆笑していた。

 なんで、鍛冶屋の出入りが少ないかが解った気がする。


「依頼の完了を確認しました。その・・・悪い子ではないので今後も定期的に訪れて頂けますと同型のアーティファクトの姉としては嬉しいのですが・・・」


 何か申し訳なさそうにそう言われると断り難い。

 まあ、クレイモアの感触的にだいぶ扱い易くなったのは解る。仕事は・・・まあ、確かなのだろう。


 しかし、これはメカニカルファクターの私でも精神的なダメージがでかい。今後、定期的に訪れる事で慣れるだろうか?


 そんな事を考えつつ、今回も無事に依頼を達成するのであった。

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