第9話
二階の休憩室から降りてギルドの受付まで向かうと私は早速、依頼を受けようと話し掛ける。
「すみません。依頼を受けたいのですが・・・」
「畏まりました。階級証をお見せ下さい」
「はいはい」
私は先程、ヴォルス君から受け取った階級証を見せると受付の女性は「拝見致します」と言って階級証に手を翳す。
「階級証の読み取りが完了致しました。ネコさんのギルドへの加入を歓迎致します」
「はい。ありがとうございます」
「階級証は身に付けますと行動が自動記録されます。
私達はそれを読み取り、階級を判断しているのです」
「読み取る?──と言う事はもしかして・・・」
「ネコさんとは若干、異なりますが、私達はギルドの受付は自動人形と呼ばれるアーティファクトです。ですから、ネコさんのような冒険者は私達も歓迎致します」
受付の女性は改めてペコリとお辞儀をして微笑む。
正直、驚いた。姿形は明らかに人間に見えるが彼女達もまた人間ではないのか・・・う~む。この文明レベルが発展しているのか、どうかが解らないのは気持ち悪いなあ。
「それで依頼はどんなのが可能ですか?」
「ネコさんの階級ですとワイバーン退治やオーガの掃討作戦の参加などがあります」
「出来れば、初心者向けの依頼はないですか?」
「銅証レベルですが、構いませんか?」
「ええ。金銭は必要ですが、基礎的な事は押さえておきたいですし」
「承知致しました。では、銅証の初級である依頼を提示致します」
そう言うと受付の女性は分厚い資料本を取り出して慣れた手つきでページを捲る。
資料のデータは紙媒体なのに自動人形として活動している彼女を見ると本当に発展しているのか、どうなのか良く解らない世界観だなと思わずにはいられない。
デバイス情報を統一してデータ送信して欲しいくらいだが、これがこの惑星の常識なのだろう。
発達した技術とそれに見合わない古風なところのある発展途上の西洋文化の根付く街──それがこの惑星の基本的文化水準かは定かではないが、少なくとも私が最初に抱いていた想定の文化レベルよりは上らしい。
「初歩の初歩ですが、薬草集めをオススメ致します。
薬草についての説明は必要ですか?」
「そうですね。念の為に確認したいです」
「畏まりました。薬草には幾つか種類があります。
煎じて飲むタイプやすり込む事で効果を発揮するタイプなど薬草と言っても様々です。
この街の周囲で採れる薬草は煎じて飲むタイプの薬草です。
そのまま、食べる事も出来る食用花ですが、味については保証しかねます。もっとも、ネコさんは私達、アーティファクトの上位互換のような存在でしょうから薬草などは不要かも知れませんが、人命救助などの現場に出くわす可能性も否定出来ません。今後の為に知識として把握しておく事をオススメ致します」
「成る程」
受付の女性は丁寧に教えてくれるとモノクロに印刷されたイラストを指差す。
「此方が件の薬草になります。花が開花したものの方が効能を発揮しますが、いまの時期ですとまだ、つぼみのままの状態でしょう。因みに此方に酷似した毒草もありますのでご注意下さい。そちらを煎じて飲むと激しい腹痛と下痢を起こします。
また薬草よりも甘味があるのが特徴です。応用して便秘薬としても使用される事がありますが、回復効能は御座いませんので、くれぐれも採取される際はお気を付け下さい。
見分け方は開花した際に青い色が薬草、黄色い色が毒草で御座います。つぼみの状態での判別は少々難しいですので此方にお持ち頂けて頂ければ、改めてきちんとお教え致します・・・長々と説明を致しましたが、此処までは大丈夫でしょうか?」
「あ、はい。大丈夫です。青い色が薬草で黄色い色が毒草ですね?」
「左様ですが、先程もお伝えした通り、いまの時期はつぼみの状態の筈ですので判別は難しいかと・・・」
受付の女性が心配そうに此方を見ているが、資料のイメージ図を見た際に私にはアテがあった──だって、これはスミレちゃんがくれた花と全く同じだもの。受付の女性の言葉も正しければ、スミレちゃんの持っていた花は薬草の類いだった事になる。
それにしても、まだ開花してない筈の花をスミレちゃんは何処で手に入れたのだろう?
依頼も受注したし、早速だが、スミレちゃんに花について聞かなきゃな。
私はギルドから出るとヴォルス君とスミレちゃんの事を探そうと周囲を見渡す。
「あ、ネコちゃん!」
そんな風に周囲を見渡しているとスミレちゃんの声が聞こえた。
声の方に振り返ると可愛らしい黒いリボンの女の子が駆け寄って来る。
一瞬、誰か解らなかったが、データ認証してスミレちゃんと一致する。
「似合っているよ、スミレちゃん」
「えへへ♪」
お世辞ではなく、普通に可愛らしいと感じるくらい、スミレちゃんの服装は変化していた。
フォルムは黒い長袖にブラウン色のワンピースタイプの上下とちょっと色的には地味に感じるが、スミレちゃんの赤毛がそれの色の組み合わせを協調させている。ぼろ布を纏っただけの外見よりも文化的だ。
「とりあえず、見繕って来てやったぜ。代金はネコの出世払いで勘弁してやる。
本当なら、もう少し可愛く出来るんだろうが・・・男物ばかり着ている俺のセンスだと、これが限界だな」
「ありがとうね、ヴォルス君」
私はヴォルス君にお礼を言うとスミレちゃんの目線まで腰を下ろす。
「ところでスミレちゃんに聞きたい事があるんだけれど、スミレちゃんの持っていたお花って何処で手に入れているの?」
「ネコちゃん、お花が欲しいの?」
「ギルドで教えて貰ったんだ。あれは薬草の一種だってね?」
「あの、お花はお母さんに教えて貰ったの」
「お母さん?」
「うん。いまはもういないけれど・・・」
「あ。ごめん。聞いたらまずかったかな?」
「ううん!ネコちゃんは特別だから良いよ!」
う~ん。よく解らん内にすっかりスミレちゃんになつかれてしまった・・・なんでだろう?
「それで薬草──お花は何処で採れるの?」
「こっちだよ!」
私はスミレちゃんの案内の元、ヴォルス君と一緒について行く。
辿り着いた先は礼拝堂跡だった。
私が落下した礼拝堂以外にも、このような場所があったとは・・・スミレちゃんが中へ入ると祭壇が本来ある場所が花で満たされていた。
その一つ一つが青い花を咲かせた薬草であった。
うむ。礼拝堂に咲く花となるときっと神聖なものなのだろう。私は花の近くまで来て屈むと手を合わせる。
「申し訳ありませんが、この花を少し分けて頂きます。貴方がどのような神様なのか名も知らぬ身では御座いますが、この出会いに感謝致します」
私はモノアイの電源をオフにして瞑想してから再び黄色く輝かせ、必要な分だけ花を摘む。
「ネコって戦士より聖職者が似合っているんじゃないか?・・・普通、薬草摘むのにそこまでする奴は見ねえよ」
「神聖そうな場所だし、これくらいはね。機械生命体であるメカニカルファクターとは言えども私は信心深い方なんだ」
「・・・本当に面白い奴だな、お前は?」
「あ、あとは此処の礼拝堂の事は私達だけの秘密にしよう。
曲がりなりにも礼拝堂だし、神聖な場所を土足で荒らすって言うのは気が引けるし」
「・・・本当。面白い奴」
呆れたように呟くヴォルス君とよく解っていないスミレちゃんと一緒に私は笑い合う。
その後、薬草集めは無事に終了。
開花された薬草を見て驚く受付の女性に場所を聞かれたが、私なりになんとか誤魔化したのは別のお話。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます