第8話

 衝撃的な事実に私が驚いているとヴォルス君が面白いものでも見付けたかのように愉快げに笑う。


「ハハッ!スゲー良いリアクションするな、ネコは!」

「え?ちょっと処理が追い付かないんだけれど、本当に女の子なの?」

「こんな格好してりゃあ、信じられねえのも無理ないよな?・・・まあ、お家柄事情って訳があって、ちょいと男装しているって訳さ」

「な、成る程。女の子と名乗れない事情があるんだね?」

「まあ、その認識で間違っちゃいねえよ──んな訳で俺の事は今まで通り、ヴォルス君呼びで構わないさ」


 ヴォルス君はカラカラと笑うと私の上からヒョイと飛び降りてスミレちゃんを見る。


「お前ははじめから、わかってたって顔をしていたよな?」

「うん」

「ハハッ!だと思ったぜ!」


 本当に楽しそうにヴォルス君は笑うとスミレちゃんの頭を撫でる。


「それにしても、ネコって幼女趣味でもあるのか?」

「は?なんで?」

「いや、だって、この子がこんだけなついているし、布下はなんも着けさせてないし、そう言う趣味があるのかと」

「あっと、スミレちゃんの衣服の件についてだけれど、この子はそう言う商売やっていたらしくて・・・私としては曲がりなりにも恩があるし、スミレちゃんの衣食住を確保出来るくらいに不自由ない生活をさせて上げたいんだ」

「下心がある訳じゃないもんな。お前はマジで考えそうだ。

 まあ、お前にはこの街を守ってくれた礼がまだだったしな」

「よろし──ん?」


 そこで私はヴォルス君がこのような駆け引きが得意なのではと考え込む。

 先程、ヴォルス君は機能停止した私を此処まで運んだと言うカードとドラゴンゾンビから私が街を救ったと言うカードを必要な時に見せて来る──つまり、貸しを作るとそれを有利に使うのに長けているのだろう。

 そう考えると人が良さそうな態度とは裏腹になんらかの計算があるのかも知れない。

 う~む。流石は勇者をやっているだけあって抜け目がないなあと感心してしまう。


「どうした?なんか、都合が悪かったか?」

「いや。ヴォルス君って本当に凄いんだなあと思っただけだよ」

「素直にそう思ってくれる奴は嫌いじゃないぜ?」


 ヴォルス君は照れたように鼻を擦ると此方にカードを差し出す。セキュリティカードの類いではなさそうだが、カードにはネコと記され、発行日などが記されていた。

 察するにドッグタグみたいなものだろう。


「そいつが階級証だ。銅証、銀証、金証と危険度によって階級証が変化する。

 今回、ネコはドラゴンゾンビをぶっ倒したからな。銀証から冒険者スタートって感じだ。

 まあ、実力的には申し分はないだろうしな」

「いやいや、ドラゴンゾンビは補助機能のお蔭ですから、私の実力って訳では・・・」

「そう謙遜すんなって。仮にそのなんたら機能があったにせよ、ネコの潜在能力みたいなもんだろ?──だから、貰えるものは貰った方が良いぜ」


 うむむ。ヴォルス君に言葉巧みに誘導されている気がする。

 このまま、流されるとロクな事にならなそうな気がしなくもない。

 そんな私にヴォルス君のだめ押しの言葉が続けられる。


「まあ、スミレって子の面倒見るのも金が掛かる訳だし、なって損はねえよ。冒険者には危険がつきものだからな。

 その分、報酬がいいのも確かだしな」


 うむむ。そう言われたらなおのこと、断る道理がない。

 結局、私はヴォルス君の言葉に頷くしかなかった。

 そんな私を見て、ヴォルス君が「交渉成立」っと言って手を叩く。


「改めて宜しくな、ネコ。さっきも言ったが、俺は勇者をやっているんだ。そのせいか、モンスター退治の依頼が厳選されていてな。

 だから、此方としてはギルド繋がりの情報共有出来る実力者が欲しかったんだ」

「ヴォルス君。もしかして、それが狙いで私を助けてくれたの?」

「まあ、成り行き的にな。はじめから画策していた訳じゃないから安心してくれ」


 ヴォルス君はそう言うとニカッと笑う。


「さて、話は終いだ!俺はこの子の──スミレちゃんの服を見繕っておくから、ネコはギルドの依頼でもこなしていな。

 丸二日、寝込んでいたんだ。ドラゴンゾンビで街を守ってくれていたのを知っているのは俺とアイギス──ギルドの連中くらいだからな。

 忠告だが、この街に貸しを作る真似はしない方が良い。変なように利用されちまうからな」

「忠告感謝です。私も気を付けます」

「おうよ!それじゃあ、また後でな!」


 私はスミレちゃんと共に出ていったヴォルス君を見送ってから、寝台からゆっくりと立ち上がる。

 ナノマシンのお蔭でバイタルは正常値まで回復している。

 ダメージによる損傷跡も元通りに再生済みだ。


 まずはヴォルス君の言っていたギルドの依頼をこなす為に頑張るとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る