第7話

 冷却が完了し、メインモニターが再起動して私は目を覚ます。


「・・・知らない天井だ」


 私は上体を起こそうとして何かが胸の辺りに乗っている事に気付き、メインカメラのついた顔だけを動かして下に下げる。

 胸の上に乗っかっていたのはスミレちゃんだったらしい。

 それから察するに私は此処まで運ばれ、スミレちゃんが看病してくれていた・・・と言ったところだろう。


「・・・むにゃむにゃ・・・ネコちゃん。早く良くなってね?」


 どうやら、スミレちゃんは私が倒れてから、ずっと傍にいてくれたらしい・・・ううっ。なんて健気な子なんだ。私が人間だったら泣いていたぞ。


 私は改めて、此処がどこかなのを顔だけを動かして観察する。

 寝台が並んでいるので恐らくは人間の使用する病院の類いだろうが、それにしては看護婦らしき人物の姿すらない。

 それに他の患者のような人間もいない──となると宿屋の類いだろうか?


 そんな事を考えながら私はすやすやと眠っているスミレちゃんにモニターを戻す。本当に幸せそうに眠っているが、私のボディーを枕にするのは少し無理があるんじゃないか?・・・ほら、言っているそばからスミレちゃんの寝ている口から涎が垂れて私の胸のパーツに小さな池が出来ている。


「──って流石にばっちぃわ!」

「ふわっ!」


 私はガバッと起きて近くにあったタオルのようなもので涎を垂らしながら目を覚ますスミレちゃんが作ったボディーの汚れを拭く。


「お~いおい・・・自慢のボディーにスミレちゃんの涎の跡が・・・しかも、ちょっと酸化してボディーカラーが剥げとるよ~・・・」


 私は悲しみの声を上げながらボディーを少しでも綺麗にしようとタオルで拭く。

 そんな私の首にスミレちゃんがしがみついて来る。


「ネコちゃん!良かった!目が覚めたんだね!」

「え?・・・ああ。うん。目は覚めたけれども・・・」


 流石にスミレちゃんの涎でボディーの塗装が剥げたのがショックで目が覚めたからと言うのは心配してくれたスミレちゃんに失礼だよなあ。

 私が再起動した事にも喜んでくれているし、余計な事を言うのはやめておこう。


「お、なんか騒がしいと思ったら、目が覚めたらしいな、ネコ?」


 そんな事を言いながら部屋の扉から現れたのはヴォルス君だった。


「ネコには色々と聞きたい事が出来ちまったが、最初の確認だ」


 ヴォルス君はそう言いながら私が寝ている上にドッカリと胡座を掻いて此方を観察する。


「ネコ・・・お前は何者だ?少なくとも、この世界の生物とかじゃないだろう?」

「・・・」

「おっと、だんまりは通用しないぜ。

 少なくとも、このギルドの休憩室まで運んできたのは俺達なんだ。貸しの一つとして返してくれ」


 ヴォルス君にそう言われたら流石に答えないのは失礼か・・・とは言えど独断で情報開示する訳にはいかないな。


「本艦へ。情報交渉をして来た生命体に情報開示する許可を求む。対象は機能停止した此方の救助をしてくれた知能生命体である事を追記しておく」


《No.721へ。情報の提供を許可する。元々、我々は敵対や秘密裏に動いている訳ではない。

 必要ならば、貴君の判断で情報をまとめてくれ》


「了解。本艦の指示に感謝する」


 私がそんな風に本艦と交信している間、胡座を掻いて此方を観察していたヴォルス君がジッと私を見据えている。


「誰かと話をしていたみたいだが、此処は魔力が遮断されている場所だ。

 つまり、ネコは魔力無しでどこかと話をした事になるよな?」

「うん。独断専行は難しい立場だからね。許可も貰ったし、ヴォルス君にはキチンと話すよ」


 そう言うと私はヴォルス君にも解る言葉を考えながら話をする。


「私は汎用人型兵器【Δcat】No.721。この惑星を調査する為にやって来た機械生命体──メカニカルファクターさ」

「メカニカルファクター、ね?・・・やっぱり、この世界の奴じゃなさそうだな。それに兵器って事は狙いは侵略か何かが目的か?」

「そんな大それた事が目的ではないし、私も兵器とついているけれども軍事兵器や戦闘兵器の類いではなくて、厳密には惑星調査がメインだよ。

 元々、この惑星の他にも我々は調査と管理するのが目的なんだ」

「・・・何の為に?」

「我々は機械生命体だから、話し相手が欲しくてね。本来は交流し、その惑星の歴史を記録するのがメカニカルファクターの役目さ。

 それとメカニカルファクターの次の進化の為のヒントを我々は欲している。

 私達は元々が機械だからね。人間みたいな感情をデータとして読み取ったりは出来るけれども、喜びや悲しみまではオリジナルのデータで構築出来ないからさ。

 私達は生命の発達のヒントに感情があると思っているんだ。

 だから、1世紀を目処に我々は新しき文化に触れる為に調査員を派遣しているんだ」

「ふ~ん。つまり、あんたらは交流や友好の為に人間の持つ歴史や感情を調べている、と・・・」

「ヴォルス君を初めて見た時はなんと言うか、その・・・単純そうな男の子だなと思っていたけれど、此処までの話を理解してくれるとは思わなかったよ」

「これでも勇者だからな。単純な装いしていた方が色々と動き易いってのがあるんだよ」


 ヴォルス君はヴォルス君で色々と経験しているらしい。


「それとネコは一つ勘違いしている事がある」

「・・・勘違い?」

「こんな格好しているが、俺は女の子だ」

「・・・へ?」




 ──ホワッツ!

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