第4話

 私は元来た道を戻るとゴブリン達の屍から状態の良い剣や鎧を剥ぎ、粒子分解して素材データ化してアイテムボックス内へと転送する。

 戻って来たが、ゴブリンは警戒してか姿を見せなかったので先程、戦ったゴブリン達から剣などを回収しているが、ギャクニ丁度良いかも知れないタイミングだ。


「──素体の復元開始」


 私はデータベース内の情報を参照にしながら素材データを復元構築──本来あるべき状態へと武具をボックス内で錬成する。

 元々、機械生命体である私とこの惑星の人間タイプの個体とでは同じ武具を装着する事は不可能である。そもそも、人間と同一の骨格フレームやフォルムでもないので当然と言えば、当然の事だろう。

 なので武装を扱い易いように変換したり、復元したりするなどの科学的な技術が必要なのである。差違はあれども前回の調査員の情報はそれなりに役に立っている。

 出来れば、より正確な情報が欲しいが、我々──メカニカルファクターそのものの惑星内事情と言うものもある。そう言った意では別惑星で調査情報があるだけにマシな方なので、あまり贅沢も言えない。


 とりあえず、復元した武器をアイテムボックスから取り出し、復元されて真新しい状態になった武具の具合を確認する。

 復元構築された武器とデータバンクの情報を照らし合わせるにこれはロングソードと呼ばれる部類の剣らしい。諸説あるようだが、データバンクベースの情報なので私がとやかく言うつもりはない。

 私はロングソードを軽く振って状態を確認すると再びアイテムボックスに収納し、次の復元構築作業へと取り掛かる。

 売り買いにおいてはアイテムの状態の良し悪しで決まると言うデータがあるし、普通に考えてもそちらの方が商品価値があるだろう。交渉材料は多いに越した事はない。


 そんな事を考えていると荒れ果てた墓場にキラリと輝くものを発見する。

 私がそちらに歩いて行き、屈んで観察するとどうやら、故人と共に埋葬された剣の類いだろうと言う事が解った。

 データと照合した結果、この惑星は土葬が主流のようだ。

 恐らく、私が落ちた衝撃で久しぶりに墓から顔を出したのだろう。私はそう考えながら、その剣を手にする。

 土まみれで錆び付いているが、程よい重みだ。

 本来、マナによるシールドバリアの恩恵で盾を必要としない私にも扱える両手持ちの剣の類いであるので埋葬された故人には申し訳ないが、この剣はありがたく使わせて貰おう。


 私はアイテムボックスに粒子転送し、早速復元構築作業を開始しつつ、勝手に墓から持ち出した両手持ちの剣に対して罪悪感と畏怖、感謝の念を抱き、顔を覗かせる棺に手を合わせる。


「あなたがどなたかは存じ上げませんが、勝手に持ち出す事をお許し下さい。あなたからお借りしたこの剣はこれからも大切に使わせて頂きます」


 私はしばらく手を合わせてメインカメラのモノアイの電源を落とし、きちんと死者を冒涜せぬように礼を持って剣を借りて行く。

 再びモノアイをオンにして立ち上がると私は元の状態に復元の完了された両手剣──クレイモアを手にして初期戦闘動作をインストールし、その場所で動作確認をする為に剣を振るう。

 手応え的にはゴブリン達と戦闘した時の補助機能の違和感がない。此方の方がやはり向いていると言う事なのだろう。


「動作確認良し。それでは改めて借りて行かせて頂きます。

 大切に扱わせて頂きますので、どうか安らかにお眠り下さい」



『・・・我が魂を・・・頼む』


 ──ひぇっ!?


 いまの何!?幽霊!?──こわっ!か、勝手に持って行かなくて良かった!


 機械生命体であるメカニカルファクターとは言えども私は信心深い方だし、そもそもオカルトやホラーの類いは本当に苦手なんだよな・・・マジで変なサプライズは勘弁して下さいよ。

 まあ、本人から許可も貰ったし、化けて出てくるって事はなさそうだよな、多分。


 大切に扱わせて貰おうっと・・・。


 ──なんて事を考えていると何かの雄叫びが聞こえた。


 ひ、ひえぇっ!やっぱり、持ち出した事を怒っているのか!?・・・ごめんなさい。ごめんなさい。


「あれ?・・・ネコじゃん?こんなところに座り込んで何やっているんだ?」

「・・・へ?」


 恐る恐る顔を上げると不思議そうに此方を見下ろしているヴォルス君の顔があった。

 その隣でヴォルス君の相方の女の子が呆れている。


「・・・あっと、ごめんなさい。ネコさんだったわね?──私の勘違いでなければですが・・・あなた、ひょっとして幽霊にビビってない?」

「あ、あはははは!そんな訳ないでごじゃりますよ!これは・・・そう!ゴブリンからアイテムを入手して換金しようとしていただけでごぜえますだー!」

「うわっ・・・おもいっきり、わかりやすい誤魔化し方するわねえ。動揺し過ぎて言葉がおかしいわよ?」


 誤魔化したつもりだが、やはり生来のビビりは隠せそうもないらしいなあ。

 私は座り込んで地面を指で弄りながら言い訳っぽい事を言葉にする。


「だって幽霊だよ。幽霊・・・普通に耐性ないとビビるでしょう?・・・私、ホラーとかオカルト方面はどうしても苦手で」

「そっか・・・まあ、誰にでも苦手なもんはあるよな?

 因みに俺はスライムが苦手だ。あいつらは一見すると人畜無害そうに見えて、あんな事やこんな事とかして来るからな・・・考えただけでゾッとするぜ」


 そんな会話をしていると木々を薙ぎ倒しながら腐敗したドラゴンが現れる。


「ひぇっ!?ゾ、ゾンビ!?」

「ああ。ここを根城にするドラゴンゾンビなんだが・・・俺達の知るドラゴンゾンビよりも少し様子がおかしいんだよな」

「──と言うと?」


 私が質問しながら立ち上がるとヴォルス君がドラゴンゾンビを睨み付け、腰に差している剣を鞘から抜く。


「ドラゴンゾンビにしちゃあ、再生力がまだ機能している事だな。あとはドラゴンとは言えどゾンビ──アンテッドになる訳だが、あいつには聖なる力ってのが効かない。寧ろ、ドラゴンゾンビの方が光属性の攻撃をバンバンと使って来るくらいだ」

「幸いな事にドラゴンゾンビは何らかの要因でこの場所から離れられないようですので私達は一度、撤退してプランを練るつもりですが、ネコさんはどうします?」


 そんな二人の言葉を聞きながら、私はゆっくりとクレイモアを握り締め直して身構える。

 そんな私を見て、女の子の方が此方を一瞥した。


「やる気になったので?」

「まだ少し怖いですけれども、それよりも私には、あのドラゴンが苦しんでいるように見えて・・・恐らくはこの地に留まり続ける理由と何か関係があるかも知れませんね」


 私はそう言って前に踏み出しながらメインシステムをスキャンモードに切り替える。


「私のスキャンした結果から見て、何らかの魔法による結界の類いが見えますね。恐らくはそれこそがドラゴンに魔力供給している大元であり、この地に拘束している代物なのかもです」

「成る程な。なら、話は簡単だ。俺達がドラゴンゾンビを相手している間に大元をぶっ壊せば良い」


 そう言うとヴォルス君は空いている手で私の背中をポンと叩く。


「俺達が囮になるから、その大元になっている結界って奴は任せるぜ。どの道、俺達には場所が特定出来ないからな」

「了解。御武運を」


 私はヴォルス君にそう告げると地を這うように疾走する。


 やる事は決まったんだ。


 ──いざ、作戦開始!

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