第2話
剣を振るうのはこれが初めてだが、手に馴染むかのようにしっくり来る。
もっとも、本来の想定されている身体機能の能力の5%をも引き出せていないのだが・・・過去に亡くなった人物の人格データを元に学習する人工知能なので、これから私もどんどん学習して行くつもりだが、次第に単調になって行くこの戦闘データは役に立つのだろうか?
私は剣を手に身構え、入手した盾を装着する。
まだ身体機能と戦闘データ補助機能に差違があり、若干ながら違和感を感じるが、普通に戦えているだけマシなのだろう。
一見すると一方的な蹂躙にも見えるだろうが、あくまでも初期フォルムデータであるファイターのインストールデータによる自動補助機能がある為、そう見えているだけで実際は戦いながら学習していると言って良い。
ある程度、無限に湧いてくるようにも感じるゴブリンとの戦闘をこなして初期フォルムの補助機能にも慣れて来た。
剣で攻撃したら盾を構えて防御する。初期フォルムによる戦闘データ情報では基礎の基礎らしいが、ゴブリンの腕力では私の装甲とマナによるシールドバリアを破るにはいかぬようで初の実戦においての基本的な戦闘動作を学ぶにはまたとない機会でありがたい。
そんな風に単調な作業になりつつあった戦闘がしばらく続くと、ある種の周波数の笛が聴こえてゴブリン達の様子が打って変わって撤退を開始する。
恐らくはゴブリンを率いるリーダーがいるのだろう。
自らは前線に出ず、こちらを観察していると見ていい筈だ。
それはゴブリン達の表情からも窺える。明らかにまだ余裕を残している表情だ。
追撃しても良いが、深追いするのはやめた方が良いだろう。罠である可能性も否定出来ないし、何よりも不必要な殺生をする必要もない。こちらにはスミレちゃんもいるのもあるのだし、戦闘を続行するメリットがないだろう。
私は戦闘状態を解除するとスミレちゃんに近付く。
「・・・ネコちゃんって戦士様なの?」
「まあ、そんな物かな。本当は少し違うんだけれども・・・って言うか、ネコちゃんって私の事?」
「そうだよ。ネコちゃんはネコちゃんの事をネコちゃんって呼んだから、ネコちゃんはネコちゃんだよ」
そんな事、言ったっけかな?・・・咄嗟に発した言葉だったから、あんまり覚えていないし、あとで会話ログを見返すとしよう。
そんな事を考えているとスミレちゃんがボロボロの布切れを脱いで全裸になる──って、なんでやねん?
「ちょっとスミレちゃん。なんで脱いでいるの?」
「ネコちゃん、強いんでしょう?・・・なら、私のボディーガードになってよ。なんでもするから」
「──それはそれとして、なんで衣類を脱ぐ必要があるの?」
「こうすると男の人は興奮するから・・・ネコちゃんは違うの?」
「え?喜ぶものなの?・・・人間の考える事は解んないなあ──てか、私は機械で出来た身体だから、スミレちゃんの裸を見て興奮するとか、そういう思考そのものが、そもそも解んないんだけれど」
《──こちら、本艦。どうやら、その少女は人間でいうところの売春婦という類いの職業をしているのだろう。まだ年端もいかぬ少女にそのような性知識を与えるなどとは我々みたいな機械生命体には考えられぬ不可解な発想だ。
データベースによる民度レベルと差違も激しい。No.721の落ちた場所の民度がたまたま低いだけなのか、それとも文化レベルそのものがなんらかの影響で低下しているのか・・・新たに情報を更新する為にも、この惑星を調査する必要がある》
「No.721、了解。引き続き現地の調査を続行する」
私は本艦と交信するとスミレちゃんの身に付けていた布切れを拾い、再び本人に着せる。
「きっと、スミレちゃんは私達には考えられない程の大変な経験をして来たのがあったんだろうけれども、女の子なんだから自分の身体は大事にしなきゃダメだよ。
生きとし、生ける者は皆、尊いのだから・・・って、データベースにあったが、情報的に合っているのか、これ?」
私はそんな事を言いながら、スミレちゃんに手を差し出す。
何はともあれ、惑星の現地人類とのファーストコンタクトとしては妥当だろう。
私はあれこれ考えながら、こちらの手を握るスミレちゃんと共に歩き出す。
「ネコちゃんの手・・・とても冷たいね?」
「うん──まあ、機械の手だからね?」
「・・・でも、いままで出会った誰よりも温かいよ?」
冷たいのに温かいとは、これ如何に?・・・スミレちゃんは不思議な事を言うもんだなあ。
私はスミレちゃんと言う存在に少しずつ興味を持った。
或いは彼女の見ている世界を知る事こそが我々、機械生命体兵器──メカニカルファクターの新たな進化に繋がるかも知れないな。
「止まれ!」
そんな事をあれこれと考えていると武装した人間タイプの個体が2人ほど現れる。
両者共、データベース情報の人間タイプと合致する。性別タイプに関しても片方は視覚情報からしてスミレちゃんと同タイプ──つまり、女の子だとわかる。
肉体年齢的にはスミレちゃんより発達しているようだが、20歳前半くらいだろうか?
となると、もう片方の人間は外見から察するに別性別タイプの個体らしく、男の子になるのだろう。
肉体年齢はスミレちゃんより年上で隣の女の子より年下くらいだろうか?・・・推測では十代後半くらいだろう。
「見ない顔だな?・・・流れの冒険者か何かか?」
やや声帯が未発達なのか中性的な声で男の子の方に聞かれたが・・・はてさて、なんと答えるべきだろうか?
これ以上、おおやけになるのは控えたいところではあるが・・・。
「ネコちゃんは戦士様だよ。いまだってゴブリンから私を守ってくれたの」
スミレちゃん、ナイスフォローである。男の子も納得したのか、豪快に笑う。
「あっはっは!なんだ!そうなのか!疑って悪かったな!」
男の子の方はスミレちゃんの言葉で普通に納得したようだが・・・思っていたよりもこの男の子は大雑把と言うべきか、単純な性格なように見えるなあ。
「俺はヴォルス・アウターゼン。気軽にヴォルスって呼んでくれよ!──んで、あんたは?」
「ネコちゃんはネコちゃんだよ」
ウェーイ!ちょっと、スミレちゃん!?
ネコちゃん呼びが気に入ったの、それ!?
流石に恥ずかしいんですけれど!?
「へぇ!ネコって名前なのか!なかなか可愛い名前をしているじゃないか!」
え?ネコの呼び名が定着しちゃう感じなの?・・・いや、まあ、ツッコミ入れるのも面倒だし、良いけれども。
「まあ、そんな感じで私達はこれで・・・このあと、彼女を送り届けなきゃいけませんので」
「ネコちゃんはスゴいんだよ。あんなに沢山いたゴブリンをやっつけちゃうんだから」
「そうなのか!なら、ネコさえ良ければ、この街のギルドへ行ってみな!きっと、あんたの役に立つだろう!
もし、なんか言われて困ったら、俺の名前を出せば問題ない筈だ!」
「ヴォルス!」
そんな和気あいあいに私達が会話をしているとヴォルス君の隣にいた女の子が声を荒げる。
うん。気持ちは解らなくもない。ヴォルス君は少し警戒心が少なそうだもんね?
「おっと、ワリィワリィ!ここで時間を費やしている場合じゃなかったな!・・・早いところ、流れ星の調査へと行こうか!」
・・・ヤバい。なおのこと、此処にいると危ういかも知れないな。ここは素知らぬ顔をして撤収しよう。
「それじゃあ、我々はこれで」
「おう!またな、ネコ!」
私とスミレちゃんはヴォルス君達と別れると街の方へと向かって再び歩き出して行く。
───
──
─
「なんで見逃したの、ヴォルス?・・・どう考えても、あのネコって名前の奴が流れ星の正体でしょ?」
「ん~・・・なんでって言ってもなあ。あいつ、悪い奴には見えなかったし、何よりもあんな女の子を守りながら戦う奴なんだから悪い奴って訳じゃねえだろうからな、アイギス」
「この街の長にはなんて説明する気なの?」
「俺としては、あっちの元締めやっている街の長の方が信用ならないね。あいつの方が絶対に悪い事をやってますって感じがあるしな」
「・・・やだわ。ヴォルスの勘はよく当たるから」
「俺も伊達に長年、勇者を名乗っちゃあ、いねえからな。
流れ星が落ちた事については魔法実験のせいって事にしとこうぜ?」
「はいはい。わかったわよ。あなたがリーダーなんだから任せるわ」
「そいじゃあ、俺達は別件だった依頼のこの近辺にいるドラゴンゾンビの方を調べようぜ。
正直、眉唾だが街を守護していた聖龍がある日を境にゾンビになって、この近辺で陣取っているらしい。
正直、流れ星の件よりも、そっちの方が調べがいがあるってもんだろう」
ヴォルスはそう言うとアイギスにニカッと笑って森の奥へと入って行く。
そんなヴォルスにため息を吐いてからアイギスはネコ達が去って行った方角を一瞥する。
(それにしても、あのネコって呼ばれた戦士・・・明らかにこの世界の生物には見えなかったけれども、かつて神々が作り出したとされる古代兵器の類いか何かかしら?)
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