メカニカルソードファンタジー
陰猫(改)
第1話
《剣と魔法、モンスターが存在すると推定される惑星──サイド・7-2-1に向け、量産試作人型汎用兵器【Δcat】の投下準備を完了した》
《OK。ポッド射出シークエンス開始・・・3・・・2・・・1》
《ポッドを射出!》
《射出を確認。OKだ、ブラザー・・・幸運を君に・・・No.721》
───
──
─
「・・・お花・・・お花はいりませんか?」
──路地裏のスラム街の一角。
少女はボロボロの布切れを身に纏い、手にした花を道行く人に差し出す。
しかし、そんな少女の事を無視するように行き交う人々は彼女を素通りする。
「お花はいりませんか?・・・買っていただければ、何でもします」
少女のその言葉に嘘偽りはない。自分に出来る事はなんでもするつもりである。
それこそ、男女の営みさえも辞さないつもりであった。
実際、彼女は幼少期の頃からいまは亡き父にそのように育てられて来たのである。
故に少女にとって男女の営みをする事が一番金を稼ぎ易い方法であり、いつもと変わらない最低で最悪で自分を忘れる為に年端もいかぬ身で生活する為に必要な一時であった。
そんな事をしていると興味本意で近付いたゴロツキが近付く。
「・・・ほ、本当に何でもしてくれるのか?」
「はい。何でもします。ですから、お願いです。お花を買って下さい」
「そ、それじゃあ、あっちで──」
ゴロツキが言葉を続けようとした瞬間、スラム街の頭上を赤い火の玉のような物体が通過して行く。
「な、なんだ!?」
困惑しながら過ぎ去った火の玉が落ちる方角を周囲の人間と共に見ているとしばらくした後に轟音と地響きが起き、森の奥を見据えたゴロツキは嫌な予感を感じて脱兎の如く逃げようとする。
そんなゴロツキの袖を引っ張って少女は離れない。
「・・・待って・・・お花を買って」
「じょ、冗談はよしてくれ!空から星が落ちて来たって言うのにボロガキなんか抱いていられっかよ!
俺には女房も子どももいるんだからな!」
そう言ってゴロツキは意地でも離そうとしない少女を突き飛ばす。
よろけた少女が地面に倒れるとゴロツキの懐から銅貨が数枚落ちる。
一瞬、ゴロツキは金を拾おうか悩むが、すぐさまに慌てて、その場から離れようとする。
「・・・あ、待って」
「うるせえな!そんなに金が欲しけりゃあ、落ちた星でも取ってきて売りゃあ良いだろう!
こちとら、それどころじゃないんだよ!」
一目散に逃げるゴロツキのそんな無責任な言葉に少女はしばし、黙るとゴロツキの落とした銅貨を拾って火の玉が落ちた森の奥深くへと歩き出す。
───
──
─
ブラックアウトだったメインカメラがノイズ混じりに起動する。私はゆっくりと自分の右手を開閉させて異常がないかを確認してからポッドの扉を開ける為にアクセスコードを入力しようとする。
しかし、ポッドは墜落の衝撃で不具合が生じてしまったようで電源が落ちたのか、アクセスが出来ない様子らしい。
仕方なく、緊急時のマニュアルの手段である手動対応で無理矢理に内側から抉じ開け、私はポッドから出て新鮮な空気を浴びる。
「こちら、【Δcat】No.721による目標である惑星に到着。
これより現地の調査を開始する。これ以降のバイタルモニターやナノマシンの状態、現地での会話内容などを含めて本艦に自動的送信して記録するものとする」
《──了解。貴君の健闘を祈る》
私は本艦と連絡をした後に周囲を見渡す。
どうやら、私の落ちた場所は礼拝堂跡か何かの近くのようである。
整列された墓石と中央の聖母のような像が見えたが手入れがされていないらしく、かなり長期間、放置されていたのか雑草や苔が生えている。
──と、ようやくノイズがクリアになると同時に私に内蔵された生態レーダーに反応があった。
はてさて、最初の現地住人とはどんな生命体なのだろうか・・・過去の現地情報にあるモンスターと呼ばれる類いの種族ではない事を願う。
「・・・あ」
そんな私の祈りを天が応えてくれたのだろうか──茂みから出てきたのはボロボロの布切れを身に纏う赤毛の少女であった。
小柄な体型から察するに十代前半か、半ばくらいだと見受けられる。布の下に何も身に付けてないようなのだが、既存の情報データよりも文明レベルが低下しているのだろうか?
少なくとも言葉を理解する個体のように見えるが言語設定は大丈夫なのだろうか?
それにしてもいやはや困った。知的生命体へのファーストアプローチとなる重要な任務だ。
この場合、なんと答えるのが正しいのであろうか?
とりあえず、無難に登録されているデータ情報の言語挨拶で対応しておくべきだろうか・・・よし、行くぞ。
「にゃっはろー!」
「?」
何故だ。首を傾げられているぞ。
おかしいな。データバンクからフランクに接する際の言語挨拶として登録されている情報なのだが・・・。
「お花をいりませんか?」
「──お花?」
私は少女の手にした花をズームしてデータを更新しつつ、少女から花を受け取る。
「ふむ。綺麗な花だ。該当データのスミレと酷似しているが、この惑星のスミレは青色なのか・・・興味深い。念の為、本艦にこの花を転送しておく。情報解析を求む」
私はそう言って少女から受け取った花を本艦へと転送する。
珍しい植物ではあったし、調査を開始して早速、本艦に良い土産が出来た。
そんな風に物思いに耽っていると少女が手を差し出して来る。
「──お金」
「──へ?」
「お花を買ってくれたんでしょ?」
「・・・あれ、売り物なの?」
恐る恐る、私が尋ねると少女はコクンと頷く。
参った。まさか、ファーストコンタクトから金銭を要求されるのは完全に想定外だった。
そもそも、この惑星の通貨などは現地調達故にこれから見繕う予定であったのだが、まさか初手から必要になるとは思ってもみなかった。
困っている私が腕を組んで考えていると少女が顔を覗き込んで来る。
「・・・お金ないの?」
「・・・はい。すいません。ないです」
そんな風に少女とたどたどしく、やり取りをしている間に周囲から緑色の小柄な生命体が現れる。
少女のように無警戒ではないらしく、刃零れした剣や割れた盾を手にして此方に対して明らかな敵対意思を剥き出しにしている。
──やれやれ。少女の時みたいにはいかないらしい。
「本艦へ。敵対生命体と思われる複数の個体を認識。該当を検索──データバンクからの情報から察するにこの惑星のゴブリンと呼ばれるモンスターの群れだと見受けられる。
尚、データ情報との相違性がある為に本艦のデータの更新を求む」
私がそう送信したところ、後方から矢が飛んで来る。
私はそれを掴むと戦闘の初期マニュアルにあるデータをインストールする。
「初期戦闘マニュアルのインストールを完了。これより該当データ【ゴブリン】と戦闘を開始する」
私は本艦に戦闘記録を送りながらゴブリンを迎撃する。
少女以外の反応はレーダーによるとゴブリンだけらしい。
犬と呼ばれる種類もいるようだが、ゴブリンが飼い慣らせているのだろうか?
これはこれで実に興味深い。
「私の名は【Δcat】──キミの名前は?」
「──な、まえ?」
「ちょっ──こういう時はスパッと言ってくれるとネコさんは大変に嬉しいんだがなあ」
「・・・」
ふむ。何やら事情がありそうだが、ゴブリン達が襲い掛かって来たので私は自動補助機能で白羽取りしつつ、その武器を奪い、初期インストールフォルム──ファイターの構えで身構える。
刃零れしているが、手にした武器はまあまあの切れ味なのだろう。取り返しに来たゴブリンの頭をかち割るくらいには威力があった。
仲間を殺され、ゴブリン達が警戒を強めて矢を放って来る。
狙いは私ではなく、無防備なままの少女の方である。
ゴブリンはゴブリンでも、ある程度の知能が発達した種族ではあるらしい。
私が壁になって飛んで来る矢を防ぐと互いに頷き合い、少女をターゲットに狙いを定めたようである。
「やれやれ。初っぱなから手厚い歓迎だな、これは・・・」
「・・・」
「なにか訳ありみたいだから勝手に命名するよ?─いいよね、スミレちゃん?」
私はそう言うと同時に少女ことスミレちゃんにマナで構築した防御シールドを展開し、ゴブリン達へと迫る。
私が人間だったのなら不敵な笑みの一つでも浮かべていたのだろうが、生憎とフルフェイスタイプの頭部なので出来る事はこの黄色く輝くモノアイを光らせる事くらいだろう。
そんな事を戦闘の最中に考えているとロックなリズムがポッドから流れ初めた。
墜落して電源機能に不具合が起きたポッドにしては気の利いたサービスである。
「【Δcat】No.721!目標を駆逐する!──イカれたパーティーの始まりじゃけん!」
私は叫ぶと同時に嵐のような勢いでゴブリン達を蹴散らせて行く。
そんな中、不意に思った事はただ一つである。
「──スミレに似た花を持っていたから、スミレちゃんって言うのは流石に安直過ぎたなあ」
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