闇の箱-ダーク・ボックス-

澄岡京樹

街、箱、人

 ツミキシティには今、謎の黒い箱が溢れ出していた。125㎤の立方体なのだが、突如として街の至るところに現れ出たのだ。


 光景としてはかなり不気味なのだが、その割に住民のみなさんは笑顔で、なんなら市民の幸福度も上昇して一人あたりの平均が8800ポイントぐらいまで高まっていた。8800がどれぐらい高いかはよくわからないが、『青〇の白龍』の攻撃力が3000なのでだいぶ高いと思われる。


 そんな異常現象の解決に奔走しているのが、少年探偵の継崎次代つぎさき・じだいくんとそのライバルにして『解読者』の異名を持つメイジ・ウロボロスくんだ。二人の少年が今、街中に遍在する『闇の箱-ダーク・ボックス』の謎に挑んでいた。


「ていうかさメイジ」

「なんだ次代」

「俺たち最初はさ、あの箱が洗脳能力でも持ってんのかと思ったじゃん」

「そうだな」

「でも実際はさ。街の人に聞いても返ってくるのが『スッキリだぜ』『言いたいこと言えてよかった』とかでさ。なんか別にようすがおかしいこともなく、むしろシンプルにリフレッシュって感じなんだよな」

「謎が深まるな」


 ウンウン唸った二人は、しょうがないのでもう一度聞き込みをすることにした。すると、結構貴重な情報が手に入った。


「あの箱を作ったのはこの私だよ。告白できてスッキリしたよ」


 街でも有名な博士、マインド博士が自白した。

 マインド博士は次代くんたちとチョイチョイ激闘を繰り広げる黒幕おじさんなのだが、今回はどうにも普段とは状況が異なるようだった。


「あれは人の心の闇……っつーかストレスとかを感知するとな、それを吸収する箱なんだわ。町中に設置しといたらさ、効果が出るわ出るわ。ノーベル賞はワシのものじゃな」


 とは言え街中にあんだけ溢れかえっていると、普通に邪魔である。せめてどこかで処理できないか。

 次代くんたちはそう言ったが、どうにも下手に箱を壊すと心の闇が世界を覆うらしい。


「どうするメイジ。このままじゃ漆黒の箱が開いちまうよ」


 次代くんは想像力が豊かなので、こういう時に様々な展開を予想するのが得意なのだが、それは開示された情報のみに限られている。

 一方メイジくんは、推理が進んだ状態で対象物を凝視することで、なんとなく本質を理解して、そしてとんでもないストライクを出すのが得意だった。ゆえに次代くんはメイジくんへ問いを投げたのだ。


「そうだな——」そしてメイジくんが出した答えとは!


「埋めるか。根こそぎ」

「根こそぎ」

「ワシ的には興味深いんだけど、埋めてどうなるの?」


 好奇心旺盛に、マインド博士が尋ねる。


「ああ、こいつら言ってるんだよ。『咲きてェェ〜〜』って。ストレスを吸収したことで、今度はこいつらがムカついてるんだよ。だから今は闇の種-ダーク・シード-でもあるんだ。

 なら俺たちがやってやれることは一つ、だろ?」

「でもさメイジ。それってそのままストレスを花粉と一緒に撒き散らさないか? 俺それだいぶヤバいと思うんだ」

「あ、ワシが言いたかったのに……」


 マインド博士がワンテンポ遅いのはいつものことであった。

 そしてメイジくんは次代くんの想像力にも信を置いていたので(ライバルゆえに、である)、そこを考慮して今度はその辺の土を凝視した。すると答えが見えてきた。


「ストレスは——地中の分解者のエフェクトで腐葉土の素材にしてもらおう……!」


 そして、ツミキシティはストレス解消と腐葉土の街として名を馳せることとなった。


ハッピーエンド

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闇の箱-ダーク・ボックス- 澄岡京樹 @TapiokanotC

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