1章7話 討伐指令:村落を占拠した武装集団

◆◇◇Ⅶ◇◇◆


 忍び足に切り替えて、2人は村へとつながる道を外れて弧を描いて回り込んでいく。そして村の入り口を遠目に確認できる位置に身を潜めた。

 村の入り口の街道には馬車が2つ打ち壊されてバリケード状になって転がっている。

 バリケードのそばに篝火が焚かれ、見張りが剣を抜き払ったまま微動だにせず立っており、更に回り込んでいくと、歩哨が入り口に立っている建物が2つ見えてきた。

 どちらの建物の周囲にも別の歩哨が一定速度で歩いており、周囲を警戒をしている。

 オスティンはポーチからモノクルを取り出し、歩哨と建物を代わる代わる見る。


「集会所の方に人質がいるようだ。──暗黒剣を持ってる奴らは、死んだことになってるんじゃなく、死んでる」


 苦い表情をして低い声でオスティンが言うと、ハユハは厳しい声で応じる。


「了解」


 ハユハが獣のように身を翻して人質のいない方の建物に向かって突進し、雨戸に両手の斧を叩きつけて粉砕した。

 村長の家の広間に躍り込んだハユハは、敵が固まっているところに目星をつけて更に勢いを付けて駆ける。

 突進して固まっている敵を一気に薙ぎ払い、更に袈裟懸けに2人の敵の腕を斬り飛ばす。

 一斉に反撃に打って出る敵の剣を狙い、斧で一気に打ち払ってその場で回転し、背後の敵の腕を斬り飛ばす。

 強襲に反応が遅れた奥の敵が、都合4ツの切っ先を向けて斬りかかるために剣を振りかぶる。

 打ち払われて態勢を崩した敵も、不気味な動きで剣を構え直し、こちらに剣を向ける。そこに歩哨が駆けつけ、更に剣を向ける。


 瞬間。

 ズガァン!!!

 という、雷が目の前に落ちたような轟音とともに屋根ごと建物を砕き斬って、宵闇色の甲冑と巨大な剣槍が降ってきた。破片と埃を巻き上げ、鎧が周囲を睥睨する。

 ハユハが叫ぶ。


「暗黒剣ぞ!!」


 突然現れた新手に虫のように反応した敵が、一斉にモロッグに向けて刺突を繰り出す。

 ッバガァン!!!

 という大金槌で鉄塊を打ち据えたような音とともに、剣槍が横一文字に振り抜かれ、四体の敵が腕も胴もまとめて叩き斬られて弾け飛ぶ。

 剣槍は横一文字に振り抜かれた勢いを殺すことなく旋回し、急転して袈裟懸けに再び振り抜かれる。

 ッズバァン!!!

 という砲弾が直撃したような音がして両断された敵の腕と身体が吹き飛び、壁に叩きつけられて床に転がる。

 床材まで砕き割った剣槍が、ぐわぁんという不穏な唸りをあげて鎧の肩に乗り、破壊の限りを尽くすという宣戦布告のように鋭く暗く光を照り返す。


──晩鐘を聞け

 漆黒の兜の奥から、唄うように聖句が流れる。

──墓所への導き来たれり

 剣槍の切っ先がゆっくりと弧を描いたあと、敵に真っ直ぐに向けられる。

──懺悔の闇夜で朝鐘を乞い願え


 聖句が終わると同時に、剣槍の切っ先が剛速で打ち出される。

 正面にいた敵に衝突した剣槍は、肩口を刺し貫いて腕ごと暗黒剣を弾き飛ばし、腕を失った敵がその場に崩折れて倒れた。

 宵闇の鎧を鳴らして、モロッグの振るう破壊の剣槍が竜巻のように荒れ狂う。

 鋼の唸りが空気を切り裂き、剣槍が眼前の敵の肩口に叩き込まれて鎧ごと骨身を断ち斬って床を噛む。

 駆けつけてきた別の歩哨と門番が戸口から踏み込み、更に横合いから体勢を立て直したもう一人も踏み込んだ。

 それら3つの刺突がモロッグの急所目掛けて突き出される。


 宵闇の甲冑が身を翻し、全ての切っ先を叩き潰すように剣槍を振り抜いた。


 大鐘が打ち鳴らされるような音が響いて剣が折り砕かれ、腕のへし折れた敵が壁際まで吹き飛んで転がる。そこに剣槍の巨大な切っ先が迫り、無慈悲に振り下ろされた。

 粉砕された床と鎧の破片と血飛沫が舞い上がる。それらを弾き飛ばして漆黒の鎧は全身の捻りとともに引き抜きざまの斬撃で次の敵を叩き斬る。

 勢いは止まらず、ぐわぁんという鈍い唸り声とともに旋回した剣槍が一瞬モロッグの手を離れたかと思うと、獣が踊り掛かるような鋭さで再度掴まれて振り抜かれる。

 破裂音のような禍々しい音を立てて巨大な剣槍が振り抜かれ、血飛沫と撃ち砕かれた破片が礫のように散らされる。


 その礫の奥から、突然に鋭い剣閃が撃ち込まれた。

 入口から駆け込みざまに剣戟を打ち込んできた敵は、モロッグが羽織るクロークを切り裂き、続けて鎧の関節部に向かって斬撃を繰り出す。

 人間が扱える速度を越えて振るわれる剣から繰り出される斬撃を、モロッグは剣槍の柄で防ぎながら後退し、床に剣槍を突き刺して石突を基点に跳ぶ。


 剣槍を床に残し、無手で距離を取ったモロッグは腰に提げた剣を抜き放った。


 相手の剣を折り砕くために作られた櫛のような峰をもつ片刃の剣を手に、モロッグが油断なく構える。

 敵は一気に距離を詰めるようにステップを踏んでモロッグに迫る。

 しなやかな剣捌きは縦横に斬撃を繰り出し、反撃の隙を与えない。油断のない牽制の間に、関節や急所を狙った刺突が繰り出されてくる。

 それらをモロッグは片手剣で弾き、足捌きで躱す。


 大振りを誘うような隙にも敵は油断を見せることもなく、油断すれば一撃で命を奪うような急所だけを狙って鋭く疾い斬撃と刺突を繰り出し続ける。

 モロッグはじわじわと壁際に追いやられ、とうとう躱すための空間も徐々に狭まってきた。


 それ以上は下がれない位置に来た時、敵は鋭く剣を翻して肩の位置に構える。

 切っ先が光を反射してきらりと光った瞬間、紫電のように突き出される。

 首筋、脇、目、喉と人体の急所を的確に狙って次々に打ち出される刺突をモロッグは移動を封じられたまま躱し続ける。

 影を縫うような連続攻撃に、モロッグは徐々に動きを狭められ、いよいよ後がなくなる。そして仕留めの一撃がまっすぐにモロッグの喉を狙って突き出された。


 そこにモロッグが片手剣を閃かせて峰で剣を絡め取る。

 ギリギリと剣と剣が擦れ合う音を鳴らして二人は競り合う。モロッグも敵も互いに相手の剣を絡め取らんと力を込める。

 相手が膂力を振り絞って力を込めた瞬間、モロッグがパッと剣を手放す。

 虚を突かれた相手が体勢が崩れた瞬間、ガントレットに包まれた拳が脇腹目掛けて撃ち込まれる。

 拳が激突した身体は床から浮き上がって弾き飛ばされ、敵は壁に身体を打ち付けたが、すぐさま体勢を立て直してモロッグのいる方向に切っ先を向ける。

 しかしその時には既にモロッグは剣槍を構えており、狙いを定めた切っ先が剛速で打ち出された。

 肩口に激突しようとした切っ先を拒むように腕で防御した敵だったが、腕を撃ち抜かれて床に転がる。


 なおも敵はすぐさま立ち上がろうとしたが、そこで突然動きを止め、一瞬の動揺を見せたように頭をもたげたが、そのまま力を失って倒れ伏した。


 周囲にはもう立ち上がってくるものはいない。

 戦闘による残骸の中央に鬱然と立つモロッグは、床に転がっている剣を拾って鞘に叩き込み、壁に突き刺さった剣槍に手を伸ばした。

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