覗く青
マフユフミ
覗く青
何故だか少年はその薄汚れた箱が気になって仕方なかった。
寂れた公園の、幾つかの遊具を通り越した奥にある砂場に半分埋もれていた木の箱は、少年の片方の掌にやっと乗るような大きさで、よく見れば何かの模様が細かい彫刻で施されていた。
「ユニコーン?」
確かにそれは、馬のように四本の足があるように見え、さらには鳥のように羽を羽ばたかせている図のように見えた。
絵本の中でしか知らなかったユニコーンを自分の手の中で見た少年は、ほのかな喜びを感じた。きっとこれは、宝物に違いない。絶対に誰にも知られずに持ち帰らなければならない。
「でも…」
砂まみれの箱を持ったまま、少年は途方に暮れる。こんな汚れた謎の箱を持って帰れば、ママに叱られるかもしれない。
「どうしよう…」
見れば見るほど、それは魅力的な箱だった。
ユニコーンの翼の周りはハゲかけてはいるもののキラキラした何かで縁取られている。
角らしき部分の先端には、小さな青い宝石のようなものが埋め込まれている。
少年は昔、といってもたかだか数年前のことではあるが、祖父に見せてもらったオルゴールを思い出した。
それも同じくらいの大きさの箱で、蓋には細かい細工がなされていて、背中についているネジをくるくる回して蓋を開けると綺麗な音がした。
「これも、おるごぉるかもしれない」
見れば見るほど、この箱がオルゴールに見えてきた。
こんなにキレイな箱なのだから、きっと素敵な音がするはず。
持って帰ることもできず、それでも諦めきれず。ならばこの場で蓋を開けて、その音を確かめてみたい。
少年は、あたりを見回した。
公園に誰もいないことを確かめて、箱の蓋に手をかける。
何か悪いことをするようで、ドキドキした。
「せーの」
自分を奮い立たせるかのように、小さく掛け声を掛ける。
かぱり。
箱からは物音一つしない。
中には何も入っておらず、暗い。
「なんだ…」
美しい音色への期待が外れて、少年は肩を落とした。それでも何かを期待するかのように中を見る。
ちらり。
底の方で何かが光った気がした。
「何だろう?」
箱の奥を凝視する。
ちらりちらり。
輝くそれと、目が合った。
ニタリ。
そこにあったのは目玉だった。
目玉が二つ、ぎょろりと少年を見ていた。
「っ!」
息を呑んだ少年をあざ笑うかのように、目玉は楽しげに揺れていた。
「コチラ ニ オイデ ヨ」
目玉は不協和音に近い言葉を発し、立ち尽くす少年を、あっという間に飲み込んだ。
ぼとり。
箱はまた砂場に落ちて、まわりに砂けむりを立ち上げた。
砂の中から、ユニコーンの青い宝石がキラッと輝いた。
覗く青 マフユフミ @winterday
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