第6章89話:問答

「わらわとは初めて会うのう、カノリアよ」


とテュカベリル。


さらに彼女は続ける。


「名前だけは聞いておったぞ。ラングと争ってやぶれたいぬが、愚かにも復讐とは――――無様ぶざまなものじゃな」


「……なんですって」


とカノリアが顔をしかめる。


カノリアはテュカベリルに向かって言った。


「さきほどから尋ねようと思っていたのですが、あなた、いったいなんですか? ラングさんの恋人ですか?」


「わらわはラングの護衛。テュカベリルじゃ」


「護衛……なるほど。戦闘員せんとういんだったんですね。大して魔力を感じられないので、気づきませんでした」


とカノリアがせせら笑うように言った。


カノリアがテュカベリルの実力に気づけないのは仕方ない。


テュカベリルは、普段、魔力量まりょくりょうを大幅におさえているからだ。


彼女の膨大な魔力を全開にしたままだと、他人に威圧と恐怖心を与えてしまうためである。


「見る目がない女じゃな」


とテュカベリルは鼻で笑った。


「破滅するのもむべなるかな。おのれと他者の実力を理解できる知性があれば、おぬしはそこまで落ちぶれておらんかったじゃろうに」


「……黙りなさい」


とカノリアはふたたび顔をしかめる。


テュカベリルをにらみながらカノリアは言った。


「知性がないのはあなたのほうでしょう? こんなに大勢に囲まれて、何ができるんですか? 己の状況も理解できないんですね」


「そのまま言葉を返させてもらおう。貴様らこそ、己の状況を理解しておるのか? 雑魚が10人集まった程度で、わらわに勝てるとでも?」


テュカベリルが反論する。


その言葉に、周囲を取り囲んでいる者たちがいきり立つ。


「おいおい誰が雑魚だって?」


「調子乗りすぎだろうが」


多勢たぜい無勢ぶぜいで、頭がおかしくなったのかしら?」


「俺たちが全員ぜんいん手練てだれだって、聞いてなかったのかよ」


怒りをあらわにしたり、小馬鹿にしたりする者たち。


カノリアが同調するように、テュカベリルを鼻で笑う。


「こんな人を護衛に雇うだなんて、ラングさんも愚かですね」


「……」


俺は沈黙する。


もはや何も言うつもりはない。


黙ってきを見守る。


「おい、そろそろ問答はいいだろ。さっさと殺らせろや」


「雑魚だとバカにしたこと、思い知らせてやらねえとな?」


と周囲の者たちがフラストレーションをあらわにした。


カノリアが言った。


「ええ、そうですね。では……みなさん、お願いします」


荒くれ者たちが、それぞれの武器を手にして構えた。


テュカベリルが首を鳴らしながら、言った。


日頃ひごろラングには、うまいメシを食わせてもらっているからのう。きっちり護衛としての仕事を果たすとしよう」


テュカベリルと、荒くれ者たちが対峙たいじする。

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