第6章88話:復讐

「カノリア……」


と俺はぽつりつぶやいた。


カノリアがこちらを向いて告げてくる。


「お久しぶりですね、ラングさん」


「……」


「ヴィオーネを取り込んで、ずいぶん景気が良いみたいじゃないですか。マドリエンヌ領はどこを向いても、ルナトリアの話題で持ちきりです。とてもうらやましいですね」


とカノリアは嫌味っぽく言ってくる。


さらにカノリアは続ける。


「あなたとリンのせいで、私は全てを失いました。だからずっと、あなたのことを考えてましたよ」


「考えていた?」


「ええ。どうやって復讐してやろうかと」


俺は周囲をざっと見渡す。


10名ほどの荒くれ者たちが、ニヤニヤと笑っている。


復讐……ね。


真っ当な形でやり返すというよりは、単なる実力行使なんだろうな。


俺は言った。


「勝手な言い分だな。そもそもルナトリアに喧嘩を売ってきたのはアンタのほうだろ。その戦いで負けて破滅したのは、あんたの自業自得じゃないか」


「議論をする気はありません」


とカノリアは静かに告げた。


「経緯はどうあれ、あなたがたルナトリアは、ヴィオーネを屈服させ、私を破滅へと追い込んだ。その事実さえわかっていれば十分です」


なるほどな。


有無を言わさぬってやつか。


カノリアは言った。


「私はこれからあなたとリンを殺します。しかし、すぐに殺すのはつまらないですから、少しだけお楽しみといきましょうか」


「お楽しみ?」


「はい、まずは土下座で謝罪してもらいましょう。その頭を、私が踏みつけますから」


そんな要求をしてくるカノリア。


俺はじっとカノリアを見つめ返しながら、言い返す。


「……断る、といったら?」


「この状況を見てわからないんですか? そちらは2人に対して、こちらは手練てだれが10名。刃向かったところで、あなたがたに勝ち目はありません。あなたに拒否権はないんですよ」


……いや、そうだろうか?


テュカベリルだったら10名どころか、100名が相手でも楽勝だと思うが。


まあ口振りからして、カノリアはテュカベリルの素性を知らないんだろうな。


カノリアが見下みくだすような目線で、俺を見つめながら言う。


「相手を完璧に服従させられる立場とは、いいものですねえ……ふふふ。さあ? 早く従って、土下座してください」


カノリアが得意げな笑みを浮かべる。


俺はどう言い返したものかと肩をすくめた。


そのとき。


「ようやく、わらわの出番のようじゃな」


とテュカベリルが言った。


彼女は、一歩前へと足を踏み出す。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る