第6章

第6章87話:再会

―――第6章―――



夏が過ぎていく。


秋になった。


島の山々が色づく時節。


森には紅葉や黄葉が満ち始めている。





ある日のことだった。


昼。


曇り。


俺はメイドン島にやってきていた。


――――メイドン島には、温泉卵おんせんたまごがあった。


温泉卵があるということは……


温泉おんせん】もあるということだ。


現地では【湧泉浴場ゆうせんよくじょう】などという名前で呼ばれているらしい。


だから俺は、一度、異世界の温泉を経験してみたいと思って、メイドン島をおとずれていた。


温泉があるのは、島の中でも山手やまてのほうだ。


俺はメイドンタウンを抜けて、島の中心地ちゅうしんちへと向かう。


護衛としてテュカベリルだけを連れてきている。


テュカベリルは言った。


「温泉……か。熱で温めただけの風呂が、そんなに良いものかの?」


「入ったことがないのか?」


「ない」


「じゃあ、一度経験してみろ。そしたら良さもわかるさ」


とだけ告げておく。


温泉は人によってはドマハリするような風呂だろう。


まあハマらなくても、一度ぐらい経験してみて損はないはずだ。





森が現れる。


黄色い色の葉をたずさえる樹木たち。


そんな黄葉の森の、合間に通った街道を歩く。


ゆるやかな坂道だ。


視界の奥には大きな四つの山が、連なって見える。


【メイドンの四峰岳よんほうだけ】と呼ばれる火山群かざんぐんである。


ゆっくりと景色を眺めながら、俺は歩いていく。


「ふっ……はぁ……ふっ……結構疲れるな」


「運動不足じゃな。最近、寝るか座るかの作業しかしておらんかったじゃろ」


「そうだな。帰ったら、剣の稽古でもするか」


貴族だったときは、ノーブルのたしなみとして剣術訓練はこなしてきた。


いまはやっていないが、体力不足への対策として再開してみてもいいかもしれない。


「ならば、わらわが付き合ってやる」


「……いや、いい。お前が相手だと、何をされるかわからん」


「手加減はするぞ?」


「ほんとかぁ? うっかり大魔法だいまほうを使って、俺を跡形あとかたもなく消し飛ばしたりするんじゃないか?」


「まあ、そういうこともあるかもしれんな」


「あるのかよ! ダメじゃねえか」


とツッコミを入れる。


そんな感じで、軽い雑談をしながら歩いていく。


昼になってきた。


街道の途中。


街道から少し森に入ったところで、昼食をとることにした。


昼食の準備をはじめる。


……が。


そのときだった。


「む……」


とテュカベリルが不審な顔をした。


「囲まれておるな」


「え? 囲まれてるって……魔物にか?」


と俺は尋ねるが、テュカベリルは首を横に振った。


「違う。人間じゃ」


「人間……」


俺は周囲を見渡す。


すると、ぞろぞろと足音がした。


男女が10名ほど、俺たちを取り囲むようにして現れる。


あらくれ者や、盗賊のような格好だ。


とうな連中ではないな。


そのとき、一人の男が口を開いた。


「あんたが言ってたのって、こいつらですかい、カノリアさん?」


俺は、耳を疑った。


カノリア……?


なぜそんな名前が出てくる?


唖然あぜんとしていると、連中の後方こうほうから、一人の女性が歩いてきた。


それはよく見慣れた女……


そう。カノリアであった。


「ええ、そうですよ」


と肯定してから、カノリアは続けた。


「その男がラングです。今回、みなさんに殺していただきたいターゲットです」


俺のことを殺害対象だと――――


カノリアは、はっきりとそう告げた。





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