第5章86話:手紙

後日。


商会オフィス。


3階、俺の自室にて。


あさきると、テーブルのうえに手紙が置かれていた。


精霊からの手紙のようだ。


内容は以下である。




『先日は馳走ちそう有難ありがとう』


『約束通り、伝説の食材について教えよう』




おお……


どんな食材なんだろうか?


ワクワクしながら読み進める。


『今回、教えるのは【透明魚とうめいぎょ】についてだ』


『名前の通り、この魚は透明であり、姿が見えない』


『ゆえに一般的には存在を知られていない魚だ。一部の文献にのみ、その存在が記されている』


『どの文献にも、まぼろしの魚として伝えられている。また、たいへん美味な魚であり、その味わいは、他の魚とは一線いっせんかくするという』


姿が見えない魚……。


透明魚。


そんな魚がいるなんて。


俺も初めて知った。


『ぜひ、透明魚を探してみるがいい』


『さて、透明魚がどこに生息しているのかについてだが……』


『まず生息地せいそくちはマルバレス島と呼ばれる島だ。この島は、マドリエンヌりょうに属する島ではないな』


マルバレス島……。


聞いたことがある。


ここから三つほど隣の領地にあったはずだ。


『透明魚はマルバレス島の隠された岩場いわばの湖に存在する。非常に透き通った、清廉せいれんな湖らしい』


『申し訳ないが、この湖に関する正確な場所は知らない。そこは自分で探してもらいたい』


なるほど。


隠された岩場の湖……か。


情報は少ないが、貴重な手がかりだ。


頭の中にとどめておこう。


『また透明魚は姿が見えないうえに、釣具つりぐによって釣れる魚でもない。捕獲困難ほかくこんなんな魚だ。したがって、どうやって捕まえるかも考えてみてほしい』


『以上が、私の知りえる情報だ』


と、そこで文面ぶんめんが終わっていた。


文章を読み終わると、次の瞬間、手紙が光を帯び始める。


そしてパラパラと、手紙が崩れていく。


やがて手紙は完全に崩れ去り、跡形あとかたも無くなった。


「透明魚か……」


と俺はぽつりつぶやく。


目には見えない魚であり、たいへん美味な魚であるというが、いったいどんな味がするのだろう?


ワクワクするし、ぜひ調理してみたいという想いが、胸の内を駆け巡る。


とにかく、透明魚の情報に関しては、キルティナやリンに共有したいところだ。


なので俺は自室をあとにし、キルティナたちのもとへと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る