第5章85話:情報

『もう一度問うぞ。この料理を作った者は、お前か? 答えよ』


「は、はい。それを作ったのは、俺です」


と俺は答えた。


『そうか。ずいぶんな馳走ちそうを持ってきたものだな。めてつかわすぞ』


精霊がそう述べる。


精霊に褒められるなんて、とんでもない名誉だ。


感激に胸が満たされる。


「もったいないお言葉です」


と俺は述べた。


『面白き料理を作る男よ。私はお前の料理が気に入ったぞ。今後も、私のために料理を作り、ここにそなえるがよい』


「……!」


『もちろんタダとは言わぬ。見返りとして、精霊だけが知る秘密を教えてやろう』


「秘密……ですか」


『ああ。お前は海鮮かいせん料理人りょうりにん生業なりわいとしているのだろう?』


「はい。メインは魚料理さかなりょうりですが」


『ふむ。ならば、希少な魚や海産物かいさんぶつれる場所や、季節、条件について、私が知る情報を教えてやる。伝説の食材、まぼろしの魚などと呼ばれる存在に、興味はあるだろう?』


「そ、そんな重大な情報を教えていただけるというのですか」


『ああ。お前が今後も、面白き料理を寄越よこすのならばな』


なんと……


俺は驚嘆する。


精霊だけが知り得る知識。伝説や幻とうたわれる食材の情報。


俺の料理と引き換えに、それらを知るチャンスが得られるなんて。


素晴らしい。


俺はワクワクした。


いちもなく、肯定の返事を返す。


「わかりました。精霊さまのために、今後も料理を作り、献上けんじょうさせていただきたいと思います」


『よろしく頼むぞ。まずは今回の礼として、後日、伝説の食材の入手方法を1つ、教えることとしよう。楽しみにしておくがよい』


おお……!


今回から教えてもらえるのか。


これはマジで、めちゃくちゃ楽しみだ。


俺は生き生きと返事をする。


「はい。お待ちしております!」


『うむ。ではな』


精霊の気配が消えていく。


あとには静けさが残った。


「ラング様!」


リンが興奮気味に言ってきた。


「精霊に認められるなんて、本当にすごいことですよ!」


「ああ……俺も驚いたよ」


と俺は苦笑する。


リンは告げた。


「私、改めて思いました。こんなにすごい方がおられる、キルティナ商会の傘下さんかに入って正解だったと――――ラング様には、今後もずっとついていきます。これからもよろしくお願いします!」


「ははは、大げさだな」


と俺は微笑んだ。


「それにしても、伝説の食材か……気になるのう」


とテュカベリルはつぶやき、さらに以下のように述べた。


「ラングよ。もしその食材の入手に成功して、料理が完成したときは、わらわにも食わせろ。よいな?」


「ああ、もちろんいいぜ」


と俺は応じる。


リンが微笑みながら告げてくる。


「食材の入手に関して、困難がおありの際は、全力で協力する所存ですので、ヴィオーネの力が必要なときは、いつでもお声がけください」


「おう。そのときはよろしく頼むよ」


と俺は答えた。




話が終わった俺たちは、ふたたび船を発進させる。


そして今度こそ、精霊の岩場いわばをあとにするのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る