第5章81話:船

10分ほど街を歩く。


するとリンが、街のはずれに置かれたベンチで、しょを読んでいるのを発見する。


声をかけた。


「よう」


「……! ラング様」


とリンがすぐさま書を片付けて、立ち上がる。


俺は告げた。


休憩中きゅうけいちゅうだったか」


「ええ、まあ……ラング様はどうしてこちらへ?」


「あんたに用があって、会いにきたんだ」


「私に、ですか」


首をかしげるリンに、俺は用事を説明する。


精霊に祈りをささげたいと思っていること。


だからヴィオーネの船を貸してもらいたいということ。


話し終えると、リンはひとつうなずいてから答えた。


「――――なるほど。うちの船をお貸しすることに関しては、もちろん構いません。ご自由にお使いください」


「そうか。ありがたい」


「ただ、一つお願いしたいことがあります」


「なんだ?」


「私もご一緒させていただいてもよろしいでしょうか?」


「……ん? 船に同席したい、ということか?」


「はい」


リンの目的がわからなくて、俺は首をかしげる。


そんな俺の疑問を察したように、リンは答えた。


「私も精霊にお祈りをしたいと思います」


「ふむ」


「あと……ラング様とも、ゆっくりお話をしてみたいと思っておりました。ヴィオーネがキルティナ商会に所属してからそれなりに経ちますが、まだラング様とは、短い会話しか交わしたことがありませんし」


「……そうだな」


料理顧問役の俺と、商会長のリンとでは、思ったよりも接点がない。


だから会話を交わしたことがほとんどなかった。


俺は告げた。


「そういうことなら……わかった。一緒の船に乗ろう」


「はい、よろしくお願いします。……船の手配はこちらで済ませておきます」


「頼んだ」


と俺は答えた。


この日は、いったん別れるのだった。






――――1週間後。


夕方。


レティンウォール島に、俺は訪れる。


レティンウォール島は、ヴィオーネの本丸。


ゆえに、ここにヴィオーネが所有する船が置かれているのだ。


まずヴィオーネ商会のオフィスに足を運んで、リンと合流したあと……


さっそく港へと移動してから、船に乗った。


リンが用意してくれた船は、観光などに用いられる遊覧船ゆうらんせん


木造の小船こぶねであり、日本でいうところの屋形船やかたぶねである。


雨よけの屋根がついている。


また、食事ができるテーブルと椅子が6席も存在する。


俺は、テュカベリルとともに、その6席のうちに1席に座った。


正面にはリンが座る。


船の外には、美しい夕焼けの空と。


その夕暮れを溶かしたような海が、広がっている。


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